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2025年10月18日 (土)

翻訳者に適したキーボードの選び方

我々の仕事は一日中キーボードをたたいているわけで、その使い勝手は効率にも影響しますし、肩こりや背中の痛み、指の痛みの有無、さらには腱鞘炎になるかならないかを分けたりもします。というわけで、翻訳の仕事についたころからかなりこだわっていて、実は、私としてはこんなのが理想というのがもう20年以上も前からあったりします。そして、最近ようやく、ほぼ理想に近いものが手に入りました。

そのあたりについてはおいおい書くとして、まずは、基本となるキーボードの選び方をまとめておきましょう。体の大きさや手首などの柔軟性、また、ピアノを習っていたかどうかなどで、最終的にどういうキーボードがベストなのかは違ってきたりするのですが、基本的な考え方は共通するはず。なので、自分に当てはまるところだけ拾って活用することを考えていただければ幸いです。

肩こり・背中の痛みと指の痛みでは選ぶポイントが異なるので、それぞれについて検討してみましょう。

■肩こり・背中の痛み

まずは、肩こり・背中の痛み。翻訳者の職業病とも言われたりするくらいよくある問題のようです。

肩がこったり背中が痛くなったりする原因は、不自然な姿勢をしているから。逆に言えば、「自然な」姿勢を保てるキーボードにすればいいことになります。自然な姿勢とは……背筋を伸ばしてまっすぐ立った姿勢に近いもの。具体的には、「肩から肘がまっすぐ下に降りており、両肘が体のすぐ脇にあること」でしょう。この形で楽に打ちつづけられるキーボードがいいことになります。

実際のところ、キーボードを打つとき、ほとんどの人は肘が体の前に出ています。これが出ていると肩から背中が丸くなり、長時間打ちつづけると肩こりや背中の痛みに悩まされることになります。

肘が肩の真下にくるまで、キーボードを体に近づけてみましょう(肩は関節が体の後ろ側にあるので、肘は背中側に来るくらいで肩の真下になる)。その姿勢で打ちつづけられれば、肩や背中の痛みがかなり緩和されるはずです。ただし、キーボードをここまで近くに置くと、ピアノをそこそこやったというような人でもないかぎり、手首の曲がりがきつすぎてつらいはずです。だから、つい、キーボードを遠くに置いて肘を体の前に出してしまうとも言えます。私のように手首がかたい人などは、肘を前に出しただけでなく、その肘を寄せるようにしているはずで、そうすると、背中がさらに丸くなってしまいます。

●背中にとって理想的な位置に肘が来る形(キーボードは体のすぐ近く)

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●一般的な位置にキーボードを置いた場合

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●手首がかたくて肘を寄せた場合

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だんだんと背中が丸くなっているのがわかるでしょうか。少しの違いなのですが、これが、長時間となると大きな違いになるのです。実際、私は、肩こりや背中の痛みに悩まされたことがありません。

■キーボードの形状

●一般的な横一線のキーボード

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キーボードを体に近づけると手首が曲がりすぎてつらい(だからキーボードを体から離している)なら、エルゴノミクスキーボードや左右分割型のキーボードにすればいいことになります。エルゴノミクスキーボードとはキーボードが真ん中で逆ハの字型に開いているタイプで、安い物なら6000円くらいで買えます。ちょっと大きなパソコンショップや家電量販店なら置いているはずです

●エルゴノミクスキーボード

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これは、独立して専業翻訳者になった1998年、秋葉原でみつけたもので、15年近く使いました。さすがに古くなりすぎたあとは、マイクロソフトのエルゴノミクスキーボード(テンキーレス)を何年か使いました(このキーボード、終売になってしまったようです)。

最近は、アリス配列と言われるものも登場しています。

■アリス配列キーボード

実はこれもしばらく使ってみました。手首にはいい感じだったのですが、ファンクションキーがないのが不便で、結局、使わなくなってしまいました。

いまは、ノートPCと組み合わせる形で、アリス配列に近いGRIN配列のインスパイア版(^^;)というものを使っています。

■GRIN配列のMars74g

■左右分割型キーボード

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左右分割型なら、配置の自由度が格段に高くなります。エルゴノミクスキーボードと同じように逆ハの字にしてもいいし、肩幅くらいに開いて置いてもいいでしょう。

●背中にとって理想的な位置に左右分割型キーボードを置いた場合

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傾斜も、前後だけでなく左右についてもつけることができます。左右に傾ける?と思うかもしれませんが、真ん中を少し高くすると手首の負担が減るのです。分割したものを垂直に立て、左右から真ん中に向けてたたくようにした方がいいという説さえあるくらいです。

●左右分割・垂直配置のキーボード

両手を体の両脇にたらし、肘だけ曲げれば手のひらが向き合うわけで、これが一番自然だと言われればそうだろうと思います。ただ、ここまで特殊なやり方に慣れてしまうと、ほかのキーボードが使えなくなりそうで、正直、怖いところがあります(かなと英字みたいに、意外と使い分けられるのかもしれませんが)。

なお、ノートパソコンでもあきらめる必要はありません。外付キーボードを体のそばに置いて使えば、肘を体の前に置いてノートパソコンのキーを直接打つときと同じくらいの位置にディスプレイが来るはずです。

■指の痛み

指の関節が痛むとか腱鞘炎に苦しんでいるという翻訳者も少なくありません。毎日、長時間、打鍵しているためで、ある程度は職業病とも言えます。こちらは、弱い力でキーを打つだけで入力できるキーボードを選んで指への負担を軽減するのが一番でしょう。

このような人に適しているのは、東プレのRealforceシリーズなど。Realforceシリーズは特殊な構造のスイッチを使っていて、キー荷重が45gあるいは30gと極めて弱い打鍵力が売りです。ちなみに、一般的なのは60g前後です。

Realforceは、翻訳者に人気のキーボードです。これに換えて手が楽になった、ほかのキーボードは使えないと言う人も少なくありません。

ただお値段は高く、3万円前後を覚悟しなければなりません。また、横一線のタイプしかありません。(余談ながら、大昔、Realforceシリーズが出た少しあと、エルゴノミクスを出してほしいと申し入れに行ったことがある。「売れているのは横一線のものだけだから」と断られた。横一線のものしかないんだから、横一線のものしか売れてないのが当たり前じゃん--;)

押下の力については、メカニカルスイッチのキーボードで軽いものを選ぶ手もあります。メカニカルスイッチのなかには、Realforce以上に軽いものも存在しますから(20gくらいまである)。軽すぎると、押したつもりがないのに入力されて誤入力が増えるかもしれないし、キーの戻りが悪くなったりするので注意する必要はあります。

■マウスとの相性

いま、売られているキーボードの多くは、右側にテンキーがあります。そのためマウスは遠い。それもあって、なるべくマウスを使わずキーボードで操作するという人もいるほどです(手の往復に時間がかかるから)。

テンキーが右にあるのは単に発達の経緯によるもので、マウスを多用するいまのコンピューター環境には適していないと私は考えています(タイプライタと同じキーボードからスタートして、テンキーがあったほうが便利だねと右利き用に右側に付け、その後、マウスが登場してマウスも右に置くようになった。テンキーは、単に、ずっと右に置かれてきたから右にあるだけ)。

マウスとの相性を考えたら、テンキーは左にあったほうが便利なはずです。つまり、テンキーレスキーボードと独立型テンキーにして、テンキーを左に置けばいいわけです。

左手で数字キーは使いにくいと思うかもしれませんが、それはいままで右手で使ってきたからにすぎません。経理の人など、電卓やテンキーを使いまくる人は、右手に鉛筆を持ち、左手で操作するのが基本と言われているほどですから、慣れればどうということはありません。

■キーボードの種類について

キーボードはいろいろな分け方があるので、そのあたりもまとめておきます。

●英字(US)キーボードと日本語JISキーボード

日本語JISキーボードは、数が多い「かな」に対応するため右側に1列、キーを増やしたもの。対して英字キーボードとかUSキーボードとか呼ばれるものは、欧米で一般的に使われているもの。どちらがいいかは、入力方法によると言えるでしょう。

私は日本語がかな入力なので日本語JISキーボード一択。対して、ローマ字入力の人なら英字キーボードでもいいことになります。というか、たぶん、英字キーボードのほうがいいでしょう。1列分エンターキーが近くなるからです(エンターキーはよくたたくので、ほんの少し近くなっただけで、長期的にはかなりの違いがあると思われる。塵も積もれば山となる、です)。

●テンキーありとテンキーレス

キーボード右側にテンキーが一体化しているか、そのテンキーがないかの違いです。

マウスを右手で使うなら、テンキーレスのほうがいいはずです。テンキーが必要なら、独立したテンキーを左に置けばいい(分割型キーボードなら、左右の真ん中に置いて右手・左手どちらでも使えるようにすることもできる)。

テンキーレスのものも、フルキーボードからテンキーがなくなっているだけのものもあるし、さらに、PageUp、PageDown、Delete、矢印なども本体部分になんとか組み込んでエンターキーの右側にキーがないものもあります。エンターキーの右側にキーがないもののほうがマウスは近くなりますが、PageUp、PageDown、矢印などの位置によっては使いづらいこともあるので注意が必要です。

●ファンクションキーの有無

ファンクションキーは複数キーの組み合わせでたたくようになっていて、独立したファンクションキーを備えていないキーボードもあります。全体が小さく、こじんまりとまとまるので、こちらがいいという人もいます。

ファンクションキーの使用頻度が高ければファンクションキーあり、使用頻度が低ければありなしどちらでもかまわないことになります。

テンキーやファンクションキーをなくせばキーボードは小さくなります。「~%キーボード」などと書かれていることがあるのですが、これが、ぜんぶそろったフルキーボードに対してどのくらいまでキーを減らしているかを表す数字です。数字が小さいほど小型になりますが、機能的に限られるか、複数キーの組み合わせでたたかなければならないものが増えるかになってしまいます。

●横一線、エルゴノミクス、分割……

上に写真があるのでそちらを参照してください。

●キーの構造

○メンブレンスイッチ

配線を印刷したシート(メンブレン)を重ね、上から抑えると配線同士が接触してスイッチが入るという構造。

安く作れるので、安物はたいがいメンブレンスイッチを使っています。薄くできることもあり、ノートパソコンはこの方式が基本です。

打鍵感はあまりよくない。ノートパソコンなどは、少しでも打鍵感を改善しようと「パンタグラフ構造」というものを取り入れていますが、それでもいまいちです。また、構造的に傷みやすいという問題があります。叩き方にもよりますが、毎年のように買い換える人もいると聞いたことがあります(私は10年くらい叩き続けたことがありますが……)。

○メカニカルスイッチ

キーひとつにひとつの「スイッチ」が用意されているもの。スイッチの構造によって、押していくと反発力が少しずつ増えていくもの(リニア)やクリック感のあるもの(タクタイル、クリッキー)など種類がいろいろとあります。押下の力も、重いもの(60g)から軽いもの(35g以下。20gくらいまである)と各種あります。また、入力されるポイントが浅く、少し押し下げただけで入力されるもの(スピードタイプ)や一般的なところまで押し下げないと入力されないものなどもあります。

打鍵感はいい。また、上記のように、クリック感の有無など好みの打鍵感のものを選べます。欠点は、機械的なものなので音がそれなりにすること。自分以外の人もいる場所で使うなら、静音タイプを選ぶべきかもしれません。

しっかりした造りになっていて、かなり長持ちします。

ホットスワップ対応というものならキースイッチを交換可能で、傷んだら交換するなども可能です。もちろん、打鍵感の違うものに入れ替えることも可能で、Realforceの変荷重と同じく、場所によってキーの重さを変えることもできます。

○静電容量無接点方式

東プレのRealforceに代表されるタイプ。機械的な接点がないのでとにかく長持ちします。また、入力されるポイントも深くしたり浅くしたり、調整できる場合があります。

打鍵感はこれが最高にいいと言われています。音もあまりせず、静か。

ただ、いま現在、東プレのRealforce以外も含め、横一線型のキーボードしか売られていません。

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