会社員と翻訳者-収入の比較
(2001年7月に書いた翻訳フォーラム掲示板「喫茶夢の島」への投稿をベースとしたエントリーです)
今の世の中、よくも悪くも、職業としての価値は収入という物差しで測られる側面がある。それならばと会社員と比較して考えてみた。
実は昔、とある翻訳会社の社長さんに、「職務内容などから考えて、翻訳者の収入上位10%の年収はどのくらいあるべきだと思うか。また、そのレベルと現状の比較はどうか」と聞いてみたことがある。回答は「800~1000万は稼げていい職業。しかし、現実はもっと低いだろう」だった。
この質問をしたのは2001年。2008年現在、2001年当時よりも基本的に単価が下がっていることを考えあわせると、「現実はもっと低い」がさらに下がっていることが考えられる。
その後、仲のいい翻訳者3人で集まって飲んだので、その話をしたら……「稼ぎのトップ10%だろ? 1500万は稼げる業界であるべきだ」という話になった。
1500万はかなりえいやっの数字であるが、けっこういい線を行っていると私は思う。
大手企業の総合職が40過ぎの年代に入れば、年間ベースで少なくとも800万や1000万、優秀な人なら1500万以上の給与をもらったりする(+退職金もある)。一方、翻訳者の「1500万」は経費込みなので、会社員なら給与1000万相当にしかならない。
会社員といってもさまざまで、中小企業だと年収500万超はなかなかもらえない。だから大手企業に入社したというセレクションのかかった人と比較するのはおかしいという考え方もあるだろう。でも、私は(そしてたぶん、上記の他の人たちも)、大手企業との比較でいいと考える。理由は、翻訳者になる(なれる)という部分でセレクションがかかるから。誰でもが大手企業に勤められるわけじゃないのと同様に、誰でもが翻訳者になれるわけじゃない。
現実はどうなっているのか、翻訳雑誌のアンケートを見てみよう。こういうアンケートは無作為抽出とはいいがたく、データの信憑性は高くないが、あたらずとも遠からずの数字ではあるはず。いずれにせよ、そういう数字しか存在しないのだから仕方がない。
アルクの『実務翻訳ガイド2002年版』に掲載された翻訳者アンケートを見ると……1000万を超える人の割合は5%、800万以上なら11%(他のアンケートと比較して、この回は、高めの年収の人が多いように感じる)。つまり、上記社長の考える「あるべき水準」がほぼ満足されているように見える。
しかし、年収以外のチェックポイントも併せて考えると、まったく様子が違ってくる。ポイントは取引先と実働時間・日数。
取引先では、ソースクライアントから直接受注している人が45%もいる。傾向としては、実力があって収入が多い人のほうがクライアント直接の比率が高いものなので、上記の年収800万以上という人たちのかなりの割合が、クライアント直接取引を、それなりの量、していると思われる。クライアント直接では、手間暇が増えるかわりにレートは大幅に高くできるはず。となると、このレンジにいる人たちが翻訳会社からのみ受けていたら、800万、1000万を叩き出すのは無理という可能性もある。
クライアント直接取引は、手間暇の増加が激しいので、レートが上がる割に意外と年収は増えないのだが。
実働時間・日数の数字は悲惨の一言。年収1000万円超の人は、平均で、労働日数が25.9日/月、労働時間が9.3時間/日。労働日数は、通常の会社員なら230日くらい。これに対して、25.9日/月を年ベースに換算すると310日(--;) 稼ぎが多い翻訳者は、日数ベースで会社員より35%も多く働いているわけだ。
上記社長や私の翻訳仲間との話で出た年収の基準となる働き方は、会社員と同等。それでも9.3時間/日はよしとしよう。会社員も残業があるのだから。でも、日数で35%余分に働くのなら、上記の「稼げるべき」数字も35%増しにする必要がある。つまり、上記社長の話で1,100~1350万、訳者仲間で出た話で2,000万。
まとめると、翻訳会社経由だけでなく、クライアント直接取引などで単価の高い仕事も交えながら稼いでいても、全体としては「稼げるべき」レベルまで稼げていない現状がある。翻訳会社経由のみをベースに考えれば、もう一段低い値になると思われる。つまり、上記社長の「実際にはもっと低いはず」という認識は、残念ながら正しそうだということになる。
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