翻訳フォーラム・シンポジウム2021~力のつけ方・のばし方~-参加御礼+α
翻訳フォーラム・シンポジウム2021~力のつけ方・のばし方~、300人超とたくさんの方にお越しいただきました。ありがとうございました。初めてのオンライン開催ということで、いろいろと不慣れな中、開催のお手伝いをしてくださったスタッフのみなさんも、ありがとうございました。
今回はオンラインだったので、人数の制約がない、遠方からでも参加しやすい(時差で大変だったようですが、海外から参加してくださった方も何人かおられました)などのメリットがある半面、スタッフ間の業務連絡も耳打ちですまず文章に書いて送らなければならないとか、参加者側の見え方が確認しにくいとか(スタッフ権限でアクセスしていると見え方が違ったりする)、思わぬところで手間がかかったりしましたが、大過なく終えることができたのではないかと思っています。
ツイッターに流れる感想を見ると、参加してよかったと多くの方に思っていただけたようです。主催者のひとりとして、ほっとしております。
たぶん、ツイートのまとめをどなたかが(^^;)作ってくださると思うので、それができたら、リンクなど、加筆しますね。
------2021/05/21加筆
ツイートのまとめ、mikoさんが作ってくれました。長大です(^^;) 最後のほうには、シンポについて書かれたブログ記事へのリンクも入っています。
翻訳フォーラム・シンポジウム2021 関連ツイートまとめ #fhon2021
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この記事では、私が担当した部分を簡単に紹介しておきます。
■イントロダクション
今回は人数が多く、そのせいか、初参加の人がかなりおられました。なので、まず、我々が考える翻訳とはなにかをざっと語ることにしました。
●翻訳の目標
なにをめざすのかは、翻訳者によって異なっていたりします(「翻訳の方向性について」)。それはそういうものだと思うのですが、ともかく、どこをめざすのかで、訳し方は変わります。なので、まずはここを確認しないと話が始まりません。
必ずと言っていいほど出すんで常連さんにはおなじみ、mikoさん作のこの絵。これが我々の考える「翻訳」です。説明は……不要ですよね。
●翻訳作業の分析
このブログのあちこちで語っていますが、翻訳というのは、下記3つのバランスをとることが大事であり、そのためにはこの3段階をぐるぐると循環するようにくり返す必要があります。
- 内容を追って読む作業
- 原文と訳文の過不足等をチェックしつつ読む作業
- 訳文を訳文だけで読んだ場合の文章としての完成度をチェックする作業
さらには、原文を読むとき、訳文を読むときは、それぞれ、その中で循環が起きます。あっちもこっちもぐるぐる回っているイメージです。
「翻訳者は新しい表現を作ってはならない」
「機械翻訳に関する天動説と地動説、そして解釈学的循環」
●今回のテーマについて
過去のシンポジウムでは、読めないものは書けないと原文の読みを取り上げたりしました。今回のテーマは、主に、英日の訳文で使える日本語表現を広げるということ。これをしっかりやり、かつ、上記の循環を回すと、フィードバックがかかって原文の読みも深まるとか、さらには、日英時に原文となる日本語の読みが深まるとか、いろいろと波及効果も期待できます。
ちなみに、ここでうけたのが「バター醤油」。
ふだん使う日本語のなるべく広い範囲を訳文で使うっていっても、「馬の耳に念仏」みたいに仏教色が強い表現は使えないし、「おれの目が黒いうちは……」なんて青い目の人に言わせられないしで、使えない表現もいっぱいあるわけです。醤油臭くしちゃいけないなんて言うこともあります。
でも、ね。じゃあ、バタ臭いのがいいのかっていったらそういうわけでもなく。胸焼けするやん。
要はバランスで、めざすはおいしいバター醤油なんだと思うわけですよ。
■「訳文はいじわるに読む」
これは、「原文は親切に読む」とセットで、昔から、翻訳するときのモットーにしてきたことです。
今回は、書籍や世の中から例を拾って検討。文法的な読み方と内容的な読み方でずれが生じるケースや、書き手が意図しない意味が言外に含意されてしまうケースなどを取り上げました。「以上・以下」「以上・以下 ―― 補足」で取り上げた話も(分析の精度は上げました~)。
そうそう、セミナー後のアンケートで、資料が欲しいという要望がたくさん来ています。気持ちはわかります。わかりますが、私は、配付資料なしとすることが多いんですよね。
(アンケート、ぞくぞく届いてます。驚異の回答率。まだの人はよろしく。URLは連絡用のFacebookグループに書かれています)
事前に資料もらったほうが集中して聞ける、理解を深められるなど、欲しい理由も書かれていたりして、それはそのとおりだろうと思うんです。でも、だからこそ、私は、資料を配りません。私の担当部分(「訳文はいじわるに読む」)でも言いましたけど、私の考えに賛同する必要はない、大事なのは考えること、です。聞くことに集中してどうする。私がなにをどうとらえているのかを理解してどうする。そんなことより、いままでなにも考えていなかったと痛感すること、そんなことまで考えるんだとびっくりすること、似たようなことをすでにしている人は、ああ、自分がしていることはまちがってなかったなと再確認すること、そういうことをしてほしいと、私は準備し、語っています。資料の事前配付はその足を引っぱることになるので、しません。
(もちろん、ケースバイケースで、配布した方がいいと思うときはします。たとえば、シンポジウム2018「つなぐためにつなぐ。つなぐために切る。」ではそれなりにまとまった量の原文・訳文を検討したので、このときは、原文や訳文を事前に配布しています)
なら事後配布は? それもやりたくないんですよね。例として取り上げられるのなんて、翻訳中に考えなければならないことの0.00……1%にしかあたらないわけで。そんなちょびっとの部分について、こう考えるんだって学んだところで、実力なんてつきません。そんな暇あったら、ひとつでもふたつでも、自分の例について考えてみましょう。紹介したほど多角的に考えなくていい。っていうか、最初から多角的になんて考えられるはずがない(少なくとも私は考えられなかった)。それでいいんですよ。大事なのは一歩を踏み出すこと。そして、また、次の一歩を踏み出すこと。私のセッションで伝えたかったのは、「考えましょう」の一言に尽きる。そう言ってもいいでしょう。これが伝わったのであれば、事後の資料なんていらない。伝わっていないなら、事後に資料を配っても意味はない。いや、その資料に書かれていることを学ぼうとしたり、それこそ、資料もらって安心しちゃったりしたら、むしろ足を引っぱることになりかねない。だから、事後も資料は配りません。
シンポジウムでも語りましたが……聞いて終わりにしないこと。練習しましょう。体にしみこむまで、くり返し。
■余談
本番中にもちょっと触れましたが、メインでしゃべった4人、実は、意外なほど簡単な打ち合わせしかしていません。
早くにスケジュールだけ決める。一度集まり(今回はオンライン会議)、ブレストでテーマを決める(そのテーマなら、私はこんな話かなぁくらいのことは共有する)。各自準備を進める(話の流れを考えたりテーマに沿ったネタをみつけたり。これが大変)。本番1週間くらい前、集まって(同じく今回はオンライン会議)最終打ち合わせをする。最終打ち合わせには作りかけの発表資料を持ち寄るので、4人がどういう順番で話すのがよさそうかを相談(順番は自明のことが多い。今回も、この検討自体は1分もかかったかどうか。もちろん、その前に、各自がどういう話をするのか、共有する時間が必要)。その流れに合わせて微調整したりしつつ発表資料を各自完成させて本番。(今回は初のオンライン開催だったので、リハーサルも行い、スタッフをお願いする人と一緒に流れを確認した)
例年、だいたいこんな感じです。なのに、語る内容や形式がかぶることもないし、ばらばらにならずちゃんとかみ合うしなのは、分野こそ違え、長年、同じほうを向いて仕事をしてきた仲間だからかなと思います。
■晩ご飯は、新タマネギのレンジ蒸し、バター醤油味ととっておきのビール
シンポ後、翻訳クラスタではバター醤油がトレンド入りした感じでした。私も、晩飯のメニューを考えたとき、まっさきに決めたのが、新タマネギのレンジ蒸し、バター醤油味。あとはてきとーにあるもので。
ビールはとっておきの中のとっておき、よなよなのバレルフカミダス。大好きなんだけど、限定品で買えない年も少なくない(今年は買えた!)。今日開けないでいつ開けるんだって、冷蔵庫から出してきました。
嫁さん残業でひとり飯になったのだけがちょっと残念でした。
ともかく。
みんなでおいしいバター醤油をめざしましょう。
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