翻訳者の時給アンケートと年収アンケートの関係について
ひとつ前の記事、『実録! リーマン・ショック後、こうして復活した』(通訳翻訳ジャーナル)でも触れていますが、来週8月24日(月)、日本通訳翻訳フォーラム2020(JITF2020)に翻訳フォーラムとして登壇します(↓)。
その準備を進めているなかで、ふと思ったことがあるので書いておきます。資料を準備するのに、いろいろ調べたり確認したり、改めて読み直したりして、また、考えたりとか、あれこれするので、思いつくことがあったりするんです。
テリーさんが、以前にやられたアンケート2件(↓)について、です。
時給の中心帯(3,000円~3,500円)×年間労働時間(2000時間)で600~700万が翻訳者の年収として中心にくるはずとテリーさんは書かれています。一方、年収アンケートでは、400万弱、おそらくは300~350万くらいが中心になっているように見えます。
この食い違いについて、テリーさんは、「年間の労働時間が上記の2000時間に満たない方、つまり兼業の方も含まれたデータである事が1つの原因だと思われます」とされています。
そう……でしょうか?
いや、兼業のデータが年収に対する下押し圧力になっていることは事実でしょう。でも、それが一番大きな理由かというと、違うんじゃないかと私は思うのです。
そうではなく、換算時給に年間労働時間として2000時間をかけることがまちがいなのではないでしょうか。
仕事が途切れるとき、ありますよね? 仕事にあぶれる日が毎月1日あるだけで、年収は、12日/250日で5%下がります。
もっと大きいのは、毎日の仕事時間。年間2000時間は、テリーさんも書かれているように、8時間労働×年間250日が根拠です。1日8時間、ずっと翻訳していられるのですか? メールによる連絡とか経理処理とか、買い物とかも仕事のうちでは? 情報収集とか勉強とかも、ぜんぶ、労働時間8時間の外でやるのでしょうか? それ、実質、残業満載ってことになりませんか?
私自身をふり返ると、翻訳時間は1日5~6時間くらいです。短期ならこの倍でもやりますが、長期的に続けられるのはこのくらいが限界。ほかにやらなきゃいけないことがいろいろありますし、そもそも、集中力がもちません。
つまり、換算時給の中心帯(3,000円~3,500円)×年間労働時間(2000時間)という計算自体が、現実離れした理想論なんだと思います。仕事が途切れず、フル稼働が続いたとしても、ここまでは行かないということです。
この理想論から現実を推測するには、稼働率的なものをかけてやる必要があります。それがどのくらいかというのは、これはもう、ケースバイケースでなんとも言えないのですが、私は、自分の経験などから、30%から80%くらいだろうと踏んでいます(↓)。
現実には、この30%から80%くらいになるだろう。基本的には、単価や枚数が小さいほど稼働率も低くなり、逆に単価や枚数が大きいほど稼働率が高くなるはず。
稼働率がこのくらいだとすると、時給の中心帯(3,000円~3,500円)×年間労働時間(2000時間)×稼働率(30~80%)=180~560万となり、年収アンケートの結果とそれなりに合ってきます(ここから、兼業のデータでさらに少し下がる傾向にあるはずですし)。
ま、あくまで私の推測であり、大まちがいかもしれません。回答項目を増やしてクロス集計して、実態がどうなのかを確認できるとおもしろいのですが、それはまたそれで、人数を集めないと狂いが大きくなるとか、問題があって大変でしょうね~。
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