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2020年8月30日 (日)

『「は」と「が」』

「は」と「が」という使い分けがよく話題になる言葉について、包括的に分析した良書です。10年以上前に読んで、よくまとまってるなぁ、「は」と「が」でおすすめするならこの本かなぁと思ったのに、ブログ記事も書かず、ほったらかしてしまいました。今回、こうして紹介するためもあり、読み返してみましたが(また読む本に分類していたのに、10年以上も再読していなかった……)、やはり、よくまとまっているし、この10年ほどで、これ以上の本には出会っていないなぁと思いました。

『「は」と「が」』

先行研究をいろいろと紹介しつつ、それを統合する原理を提案する、という形で論が進みます。

日本語文法研究に一石を投じられれば、と、著者が前書きに書いていることからも明らかなのですが、本書は、いわゆる日本語文法の専門書に分類されるものでしょう。ですから、必ずしもわかりやすいとは言えません。専門書にしてはとてもわかりやすく書かれているとは思いますけど、ね。

文の種類をたくさんのパターンに分類し、こういうときは「は」になりやすい、こういうときは「が」になりやすいなど、詳しく分析されています。

ふーむとは思いますが、少なくとも私は、しっかり覚えて場合分けをする自信がありません。いや、逆ですね。できない自信があります。Sakinoさんとか、こういうのがぱぱっとできてしまうようなんですが……。

また、着目点は、実際に使われているものがどうなっているのか、そうなっているのはなぜなのか、です。逆に言えば、どう書くのがいいのかといった実務への応用については記述されていませんし、まして、翻訳実務への応用は書かれていません。日本語以外の言語については、最後の30章、8ページで簡単に触れられているだけです。

あくまで文法研究の書ですからね。しかたありません。

応用については、自分で考える必要があります。

直接的に役立つわけではないから後回しでいいかというと……なんというか、このくらいは読んで理解していないと自分で考えることもできないんじゃないか、自分で考える土台として必読なんじゃないかと思います。

私は、「~の意味合いが出るからこうなる」みたいな説明を読みつつ、自分も同じように感じるかだけを確認しています。同じなら、翻訳時、自分の感覚を信じて訳文にしていいってことですから。

違う感覚を覚えるものがあったら、できれば、そういうものだけメモっておき、その後しばらく、実際に遭遇したらどう感じるのかを確認したほうがいいかもしれません。

■第4章「は」と「が」の使い分け

ここでは、あちこちで言われてきた「は」と「が」の使い分けを統一する原理が述べられていて、とても参考になります。

ただし、翻訳者として読むときは、特に外国語→日本語の翻訳者として読むときは、注意が必要です。

この本で分析されているのは、前述のように、あくまで、書き方により、最終的に生まれる文がどうなるのか、「は」を使うことになるのか「が」を使うことになるのか、です。対して、我々がするのは、その文を作ること。言い換えれば、どちらを使うのかという選択の前段階となる「どういう文を作るのか」から、です。

できるだけ「は」を使わない文にする。そういう文になるように主題や視点を選ぶ。

私は、これ(↑)をしてみることを基本にしています。本書に書かれている内容を逆向きに活用する形です。

うまく行くと、「テトリス」みたいにごそっと訳文の量が減ります

もちろん、我々がしているのは翻訳ですから、訳文の量を減らすのがいいわけでは必ずしもありません。ごそっと減らした状態で、原文と訳文で同じ絵になるのかどうかの確認が必要です。

下記3つのバランスをとることが翻訳の基本だと、昔、Sakinoさんが翻訳フォーラムに書かれてました(このブログでも何度か取り上げた話です>「Googleを利用した訳語選択のポイント」、「"or"→「と」、「翻訳者は新しい表現を作ってはならない」)。

  • 内容を追って読む作業
  • 原文と訳文の過不足等をチェックしつつ読む作業
  • 訳文を訳文だけで読んだ場合の文章としての完成度をチェックする作業

これに当てはめると……テトリスしてみるのは、3番目に当たります。で、これをやった結果、原文と大きなずれが生じるなら、そこは調整するか、テトリスそのものをあきらめるかになります(2番目の効果)。

というわけで、活用するにはいろいろと手間もかかりますし、日本語文法の専門書なので読んで理解するのだけでも、そこそこ大変です。でも、日本語という言葉を扱うプロなら、このくらいは読み、いろいろ悩んでみるべきではと思う。そんな本です。

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