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2020年8月27日 (木)

以上・以下 ―― 補足

10年以上も前に書いた記事、「以上・以下」に対する補足的な話です。「以上・以下」ってなにが書いてある記事だっけと思った方は、そちらを読み直してから、こちらに戻っていただいたほうがいいと思います。

さて、この昔の記事で、例に時間を取り上げました。この時間ってやつ、実はとてもやっかいでして。時間そのものは連続量なんですよね。でも、それを分とか日とか、塊として把握し、数えたりするわけです。そのときのイメージは、基本的に、離散量。基本的にってことは、必ずしもそうじゃない側面があったりなかったりするわけで、話がややこしくなります。

たとえば、その塊以上・以下とか、その塊を超えるとかっていうのは、どういう意味になるのでしょう。

「以上・以下」では分を使ったのであまり気にならなかったと思うのですが、日のような大きな塊になると話はかな~りややこしくなります。

あるところでの議論で「4日を超える」に基準点の4日は含まれないから、それは「5日以上」に等しい、みたいな話が出ていました。日という離散量を語っているのだととらえるなら、そうなりますよね。

でも、時間というものは、本来、連続量。ほんとに、離散量として取り扱っていいんでしょうか。

そもそも、1日とはなんでしょう。幅のあるものなのか、点として認識するものなのか。幅があるとしたら、それは24時間? カレンダー的な1日(午前0時~午後12時まで)?

「1日とは24時間のことである」と考えるなら、96時間が経過した時点で「4日」となります。そして、その次の瞬間から「4日を超える」に突入です。「5日めに突入した」わけです。「4日以上」の場合は、以上を基準点を含むと考えればその瞬間から、含まないと考えればその次の瞬間から4日以上ということになるはずです。

この場合、「4日以上」も「4日を超える」も意味するところに違いは実質的にありません。

このあたり、たとえば、「ぶつけて4日もたったのに、まだ痛いんだよ」みたいな表現を考えてみればいいと思います。9月1日の正午にぶつけたとして、こう言うのは、5日のお昼前後以降かつ5日のうち、なんじゃないでしょうか。

「以上・以下」で書いたように、法律系の話であれば、以上・以下は基準点を含む、になります。なんですが……法律系って日の数え方が一般的な感覚と異なっていること、多いんですよね。9月1日の正午に契約して、8日以内ならクーリングオフが可能。このとき、何月何日の何時までクーリングオフって可能なのかというと……9月8日の夜12時より前なら可能ってことになります。契約した日も1日と数え、夜12時で次の日になるという数え方なので。前述の区分で言えば、カレンダー的な1日を点として認識しているケースと言えるでしょう。(いや、まあ、最後は、定義次第なんで、これと違う数え方だって定義してあったらそっちでカウントするんですが)

さらにさらに、こういう数量表現という側面から考えると、ほかにも考えるべきことがたくさん出てきます。more thanとかless thanとか出てきたからといって、以上・以下とか~を超えるとか未満とか、そういう表現を使わなければならないとはかぎらないという点です。

数量表現って暮らしに密着しているので、すごく多彩なんですよね。少なくとも日本語は。

  • 4日以上続いた場合(漢字が続きすぎてイヤ)
  • 4日間以上続いた場合(漢字が続きすぎてイヤ)
  • 丸4日以上続いた場合(漢字が続きすぎてイヤ)
  • 丸4日間以上続いた場合(丸4日間は馬から落ちて落馬っぽいし、漢字が続きすぎてイヤ)
  • 4日を超えて続いた場合
  • 4日間を超えて続いた場合(コロケーション的にちょっと変)
  • 丸4日を超えて続いた場合
  • 丸4日間を超えて続いた場合(馬から落ちて落馬っぽいし、コロケーション的にちょっと変)
  • ……

さらには、

  • 丸4日続いた場合
  • 4日たっても熱が下がらない場合(後述参照)

なんてものもありえます。以上とかなんとかそんなのなしでmore thanの意は尽くせたりするわけです。

こういう数量表現が出てきたら、現実の場面でどうなるのか、とらえ方が人によって違っていたりしないのか、想像力を働かせていろいろと考え、原文はなにが言いたいのか、それを訳文側言語で表現するならどういう言い方をするのが誤解を招きにくいのか、検討しないといけないんだと思います。

実はこの記事を書くきっかけになったのは、コロナの記事で37.5℃が"more than four days"続いたらって文を「4日以上続いたら」と訳すべきか、「4日を超えて続いたら」と訳すべきかって話だったんですが……であれば、たとえば、以下のようなことを考えてみるべきなのではないでしょうか。

9月1日の朝から調子が悪く、だんだん熱が上がって、14時に計ったら、ついに、37.5℃を超え、そのあとは、ずっと高熱が続いた。何日の何時に計って、まだ、37.5℃以上だったら、その熱が4日/four days続いたことになるのか。その日時は、英語と日本語で違うのか。

この話、私が首を突っ込む前にいろんな人がいろいろ書いていました。でも、みんな、この言葉・表現はこういう意味だから、こうなる、ああなるという話ばかり。現実はどうなのか、その言葉・表現が現実に使われる場面で、読者なりなんなりにどう受け取られるのか、それが、その言葉・表現が書かれたもともとの意図と同じなのか違うのか、といったことはだれも取り上げない。

どうして、みんな、言葉だけいじくり回そうとするのでしょう。現場でどう使われ、どう受け取られるのかって気にならないんでしょうか。

正直なところ、言葉だけいじくり回して話がすむのなら、おっつけ、機械翻訳ですむようになっちゃうんじゃないでしょうか。

私としては、言葉を通じて、原文の書き手がなにを考えているのかを想像し、また、実際に使われる現場で訳文を読んだ人がどう受け取り、その結果、どう行動するのかを推測して、原文と同じ役割を果たす訳文にするっていうのが翻訳なんだと思っています。言い換えれば、人との関わりにおいて言葉を理解し、書く、でしょうか。で、これは、(少なくともいまの)機械翻訳がまっさきに切り捨てている部分であり、だからこそ、機械翻訳が世の中に広がろうが、自分の仕事はなくならないと思えているわけだったりします。

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