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2020年2月27日 (木)

ひょうたん図

先日、ツイッターで、翻訳業界のイメージとしてひょうたん図の話が取り上げられていて、そういえば、あの図、ブログに上げておいたほうがいいなと思ったので紹介します。

「翻訳者の原点」と題した2012年JTF翻訳祭のプレゼンテーションで使ったものなので、もう、ずいぶんと古いものなのですが、イメージそのものは変わっていないと思います。

■翻訳業界のイメージ

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市場の大部分は、品質はそんなに高くなくていいから安くというもの。ここが大きいし、最初はここから入るはずなので、つい、これしかないと思いがちですが、実はそんなことなくて、小さいながら、高品質・高価格の市場が存在します。

「高品質・高価格の市場なんて昔の話で、いまはもうない」と言う人もいますが、そんなことはありません。その人はみつけられていないのかもしれませんが、いまも、新規開拓でそういう取引先がみつかりますし、そうやってみつけている人があちこちにいます。もちろん、そうやってみつけられている人はごく少数なので、ないとしか思えない人がたくさんいるのもしかたないとは思いますが。

せっかくですから、図の見方も少し解説しておきましょう。プレゼンテーションでも同じようなことを語りました。

ポイントがいくつかあります。

まず、小さい、小さいといっても、それは、業界として小さいというだけのこと。個人にとっては膨大です。ひとりでぜんぶカバーなんて当然にできませんし、ごく少数の人に限られるというようなレベルでもないと私は思っています。だから、そこでやっていける力を身につけ、そういう取引先をみつけられれば、高品質・高価格の市場に参入することは、まだまだ可能だと思います。

ただ、業界的に小さいのは事実なので、探しても、なかなかみつけられません。要するに、そういうソースクライアントがたまにいるって話なので、なかなかぶち当たらないんですよね。みつける方法は……根気よく探す。これしかないでしょう。ちなみに、そのとき大事なのが、大半には高いと断られる単価を提示する、だったりします。「自分の翻訳の市場価値」にも書いていますが、たぶん買ってもらえるというレベルの価格は「割安価格」、ほぼ全員が買う価格は「超特価」ですから。私自身、産業系の仕事で取引先候補と話をすると、9割以上、高すぎると断られていました。逆に言うと1割弱ながら、その先に進めたことがあるわけですが……どんな理由でも、断られるとへこむんですよね~。

あと、バルクの大きなところからニッチに行く道というか、途中は細くなっていると思います。ニッチに向けてだんだんと減っていくんじゃなくて、いったん、がくんと減る。それこそ、高品質・高価格のニッチ市場より狭いところまで減る。「勝ち残る翻訳者-高低二極分化する翻訳マーケットの中で」でもそんなことを書いていますが、翻訳の市場は高低二極分化しているので。

なので、少しずつ力をつけて、少しずつ移行、というのは難しいでしょう。力をつけてもつけてもバルクの大きなところから抜けられない。そうやって何年かあがいているうち、運良くそういう取引相手とぶつかったとき、ニッチでやっていける力がついていれば、幸運の女神の前髪がつかめる。そういうことにしかならないだろうと思うのです。がんばってもニッチに行けるとは限らない、でも、そのチャンスにぶつかったとき、準備ができていなければ行けない、だから、そっちに行きたいなら、とにかく準備を進めるしかない、と。

念のため、もう一言。

上記は、あくまで、業界全体をイメージしています。逆に言うと、その部分集合となる狭い範囲を見れば、残念ながら、高品質・高価格の市場がないところもあるはずです。自分の戦場がそういうところだったら……頭を切り替える必要があります。高品質・高価格の市場があるような分野に手を伸ばすか、それとも、いまの分野で勝ち組をめざすか(なにをもって「勝ち」というかは、その人が求めているもの次第ですね)でしょう。

そうそう、関連の記事として「収入を目標に展開したら……」も読んでみることをお勧めします。

■昔の業界のイメージ

このプレゼンテーションでは、最近は単価が下がり気味だし、その分、品質はそこそこでもいいという雰囲気もあるとして、業界全体がどう変わっているのかもイメージとして示しました。そのとき使ったのがこの図です。

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さきほど上げたいまの図は、昔のイメージに比べ、バルク部分が一段左下に伸びていますし、ニッチにいたる道が細くなっています。違いは、この2点です。これが、最近の業界が抱える問題と言ってもいいでしょう。いろんな意味できびしくはなっているんだと思います。ふつうにやっているときの厳しさも増していますし、ニッチを狙って努力したからといってそちらに移れず終わる恐れが高まってもいますし。そのなかで、自分はどこを狙ってなにをするのか。よく考えて道を選びましょう。

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