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2020年2月12日 (水)

『ぼくは翻訳についてこう考えています』

翻訳に対する柴田元幸さんの考え方をまとめた本。あちこちで話したり書いたりされたものをまとめたもの、1項目1ページくらいにまとめたもののようです(Kindleで読んだのでよくわかりませんが)。

何カ所か、さまざまな意味で「おお!」っと思ったところを紹介します。まあ、なんというか、翻訳と真剣に向き合うと、みんな、似たようなことを考えるんだなぁって感じです(おこがましいぞ>自分)

■1. 「理想の翻訳」

「翻訳なんて、全部、間違っている」
「どう間違うのがいちばんいいのか」

同じことをセミナーとかではよく言っているので(「翻訳したら必ずなにかずれる」「全体としてのずれが小さくなるように調整する」)、ブログ記事も書いてるんじゃないかと探してみたのですが、みつけられていません。書いてないのかなぁ。「Stay Hungry. Stay Foolish.」に「何をどう訳しても、いろいろなところにズレが生じます。ある面のズレを小さくすると別の面のズレが大きくなったりするので、こうすればいいという道はありません」とは書いていますが。

■5. 「影響されやすい人間」

自分は特に影響されやすいと柴田さんは言われているけれど、人間なんて、みんなそんなもんだと私は思っています。違いは、意識しているかいないかであって。だから、MTPEで機械翻訳の出力を毎日あびるように読むのはあぶないだろうなと、ヒトゴトながら、心配しているわけです。柴田さんなんて、「テレビなんかの日本語はあまり入れたくない」とまで言われているくらいで。

■6. 「音楽にたとえるなら」

「損をする」
「翻訳は負け戦」
「10対0で負けるのではなく10対9で負けるように頑張る」

ここは、1. 「理想の翻訳」と実質的に同じことを言ってるんだと思います。

それはともかく、「10対0で負けるのではなく10対9で負けるように頑張る」はうまい表現だなぁ。今後、そういう機会があったら、私も使わせてもらおう。もちろん、柴田元幸さんの言葉だけどって断った上で。

■53. 「頭のいい人は翻訳に向かない」

同感。私、短期記憶が壊滅的にだめなんですが(いまなら知的障害の診断が出るんじゃないかってほどに)、おかげで、ややこしい文が書けません。先入れ先出しでどんどん処理できるように書かないと、自分が書いた文章なのに理解しづらくてすんごい苦労してしまうので。私の文は読みやすいと言われることがけっこうあるのですが(翻訳したものであれ書いたものであれ)、それは、このあたりから来ているのではないかと。

■59. 「読むスピードで訳す」

このブログの「読むスピードで翻訳できれば最高の品質が得られる」とまったく同じことが書かれています。『ぼくは翻訳についてこう考えています』は1項目1ページくらいに短くまとめてあるので、ごく簡単にしか述べられていませんが、考えていることは同じだと思います。

■62. 「そこに愛はあるか」

原テクストに対する敬意、愛情を問題にしないのなら、少なくとも文学の翻訳に関する限り、翻訳なんかやったって仕方ない、といったことが書いてあるのですが、私は、それって文学に限った話ではなく、ノンフィクションもそうだし、それこそ、産業翻訳だって話は同じだと思っています。カネのためだけにするなんてあまりにきついというか。

■7. 「読点は人格上の問題だ」

最近読点が増えている、年取って呼吸が短くなってきたからかもって書かれていて、ふと思ったことがあります。

訳文をいじっていると、読点がすごく少なくなってしまうことがけっこうあるのです。私にとっては、どう考えてもそのほうがいい。でも、ふつうだったら、絶対、読点が少なすぎて読むのがつらい、呼吸を考えろって言われるの、まちがいないと思うレベルになってる(この本のこの項目にもそれに近いことが書かれている)。

それ、もしかしたら、私の呼吸がすごくゆっくりだからなのかも。

呼吸数は、一般に12~20回/分で、10回/分以下は異常バイタルで要注意とされるようです。でも、私の場合、呼吸はふつうにしていれば3~4回/分。座禅体験で自分の呼吸を数えろと言われたときなんて、気持ちを落ち着けるって話だったので呼吸がゆっくりになっていたこともあり、終わって、「何回でした? ~回くらいだったと思いますけど」の1/10くらいにしかなりませんでした。

余談ながら、安静時心拍は40を切っていたりします(男性ならふつうは60~70拍/分)。

あ、ちなみに、いじって読点が激減してしまったときは、ちゃんと足してます。翻訳はほかの人のためにするものなので。

■全体的な感想

この『ぼくは翻訳についてこう考えています』、ある程度は分類されて章立てされていますが、基本、ページごとに違うことが書いてあるので、ぱらっと開いてそこを読む、みたいな形でも問題ありません。しかも、くすっと思わず笑ってしまうような筆致で書かれています。でも、内容は、まじめに語るにふさわしいもの。言葉数が少ないこともあり、そのとき、自分がどういう問題意識を持っているかで、異なるものが読み取れそうな気もします。いずれも、私にはまねのできない芸です。さすがは文芸の翻訳者(って、そういう話か???)

おりおり、あちこちを読み返してみると、モチベーションアップや基本の見つめ直しにいいんじゃないでしょうか。

モチベーションアップや基本の見つめ直しという意味では、ほんとは、『翻訳とは何か: 職業としての翻訳』を読むのがいいんですが、あちらは、読む側にも覚悟を強いるというか、お腹に力を入れないと苦しいので、そうそう気軽に読み返せません。こちらなら、そこまで構える必要がなく、ちょこちょこ読み返せるでしょう。

本書、私はKindle版で読んでしまいましたが、紙版も購入してトイレにでも置いておきたいと思ってしまいました。

 

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