『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)
2月21日に発売となる通訳翻訳ジャーナル2019年4月号に記事を書きました。
上の画像をクリックすると、アマゾンのページに飛びます。そこにある内容紹介
【特集1】
今もこれからも、求められる人材になるために─
通訳者・翻訳者がやるべきこと
* 将来のために、今、やるべきこと 翻訳編・通訳編
……
にある「将来のために、今、やるべきこと 翻訳編」(↓)です。
■特別寄稿『道を拓く』
連盟の理事みたいな役職もそうなんですけど、こういう記事を書く役割もいろんな人が担うべきで、いいかげん、世代交代すべきなんじゃないかと思っています。ですが、今回は、アルクさんに続いてぜひにと言われてしまいました。しかも、特集のテーマに沿っているかぎり内容は自由、分量も予定は2ページだけど、3ページ、4ページになってもいい(原稿料は分量比例)と破格の好条件です。これなら書きたいことが書けそう、たぶん、ほぼ出版専業となったいまじゃなきゃ書けない話が書けると思ったのでお請けすることにしました。ある意味、お世話になった産業翻訳界に対する最後の恩返し、です。
というわけで、産業翻訳者人生を総括したような、かなり踏みこんだ記事になっています。ここまで踏みこんだ話は、過去、記事にもしてませんし、講演などで話してもいません(オフで会った人には、断片的にぽろぽろ話してきていますが。直接会うの、大事です)。今後することもないでしょう。ほんと、いまだから書けた、書いてしまったと思うし、雑誌という媒体だからこそ書けた、書いたという側面もありますし。密度も、結局6ページ分に達してしまった原稿を4ページに圧縮したので、すごいことになっています。ページ数から想像される以上の読み応えがあるはずです。(分量はお任せといっても、さすがに2ページ予定を6ページは無理。ムックとかなら話は別だったかもしれませんが。なので、編集部と相談しながら、基本的に内容を削らず、4ページぎちぎちまで圧縮しました)
先日のアルク『翻訳事典2019-2020』では、実際の翻訳でなにを考えどうしているのかを細かく段階に分けてまとめました(実際の翻訳は渾然一体となっているわけですが、わかりやすくするために)。対して今回の記事は、翻訳者としての事業戦略とその実践に焦点をあてて書いています。たまたま、もの作り(翻訳事典)と経営(通訳翻訳ジャーナル)、両輪について続けて書くことができたような感じです。
まあ、一番の肝は「自分の道は自分で選ぼうね」ということで、最近、あちこちで言ったり書いたりしてるのと変わらんじゃんと言われればそのとおりなんですが。(ちなみに、書いてるときのBGMは、TOKIOで有名になった中島みゆき『宙船』^^;)
閑話休題。
私は、会社員をやめて翻訳専業になって以来、基本的に、高品質・高単価をモットーにやってきました(「一に品質、二に品質、三、四がなくて五に効率アップ」だと思ってます)。そして、まわりから、「Buckeyeさんはいいかもしれないけど……」「Buckeyeさんくらいになれば……」などとよく言われるようになりました。言われ始めたころはまだ出版を手がけていなかったので、どういう訳文を書くのか見られるチャンスはほとんどなく、実際問題なにがどうなんだか正確なところはわかるはずがないのですが、なぜか、「なんかすごいらしい」という評価が業界内で定着した感じです。翻訳フォーラムPRのため、関連メディアに露出するチャンスがあったら積極的につかむようにしていたからかもしれません。そういう評価になったことは、それはそれで、いろいろといい面と悪い面があるんですが、その部分は、横に置いておきましょう。
ともかく、仕事の展開などについて話をすると、よく、上記のようなことを言われます。「Buckeyeさんはいいかもしれないけど、私は状況が違う/私には無理」というわけです。言われるたびに思います。「どうしてそういう風に考えるかな」と。全身から力が抜けていくのを感じつつ。
やってみたの?
その無理と言われる場所に到達するまで、私も10年とかかかってるんですけど。その間、月に2~3日分しか仕事がなかったこととか、いくらでもあるんですけど。高いと断られた回数ならまずだれにも負けないというくらいたくさんあるんですけど。この道はさすがに無理だったんじゃないかと思ったこと、数えきれないくらいあるんですけど。勉強だって、いろいろずいぶんしてきたと思うんですけど。あれこれがまんして、ある意味、乗りこえてきたから「いま」があるわけで、トライしようともせず同じものが手に入るわけないじゃないですか。
ごくまれに、私の講演とか記事とかで一念発起し、進む道を変えてみた、しばらく大変だったけど、3年とか5年とかたったいま、変えてよかったと思っている、今回、ぜひ会ってお礼を言いたいと思ってこのイベントに参加した、みたいなことも言われます。いままで数回はあったでしょうか。すごくうれしい話です。そういう人がいてくれればと講演とか記事とか引きうけてきたわけですから。
「あきらめなければ夢はかなう」なんて言いません。世の中、残念ながらそうじゃありませんから。でも、「あきらめたら夢はかなわない」し、まして、「トライしなければ夢はかなわない」です。いや、まあ、もしかしたら、純粋に運だけで夢がかなうなんてこともあるのかもしれませんけど、ね。
そんな運のみに望みを託し、じっと待つのでなければ、こちらに進むと決めて努力する必要があります。っていうか、夢をかなえるには、まず、夢がなきゃいけませんよね。夢を実現するんだという強い想い、かなえようと思わず努力してしまうくらい強い想いがなきゃ。そこまで強く思っていないのであれば、それは夢じゃなくて、せいぜい、憧れにすぎないんじゃないでしょうか。
で、努力ですが、仕事の方向性なんて大きな話なら、成否がはっきりするまで5年や10年はかかるものと覚悟してやる必要があるでしょう。
ただし、前述のように、あきらめなければ夢がかなうわけではありません。だから、そこまでしてできなかったら、なにか必要なピース(力なのか時間なのか運なのか、はたまた別の何かなのか)が不幸にも欠けているのだと考え、方向転換すべきなのかもしれません。自分の状況が確認できたのだから、その条件ではどの道を進むのが一番いいのかと考えて。
私も、いまの場所まで一直線に歩いてきたわけではなく、しばらくやってみたけど、うまくない、自分としてはやりたくないことだと感じてやめたことがいろいろとあります。
こういう分野のこういう仕事がしたいという希望が強くあったりすると、ほんとに「私は状況が違う」ということもありうるんですが、でもその場合は、私のようなやり方をしたいと思うのがそもそものまちがいというか、違う道を選んだ上で無いものねだりをされても困るというか、です。自分が選んだ道なら、胸を張ってそれを追求しましょうよ。隣の芝生なんて気にせず。
記事にも書きましたけど、トライしてだめなら方向転換すればいいんです。だめな理由が、うまくできないでも、自分はこっちに行きたくないでも。そういうことをくり返しているうちに、いろんな意味で自分にあった道がみつかる、いや、くり返さなければ、そういう道はみつからないんだと思います。
……というようなことを思いながら書いた今回の記事では、約20年間、私が翻訳者として歩いてきた道をビジネス的な側面からかなり具体的に紹介しています。どう考え、なにを目的になにをどうトライして、それがどうなったのか。失敗したと思ったこと、じっとがまんしたことなどの詳しい説明は、6ページ→4ページの圧縮(2ページ近い原稿を年表に圧縮した)で行間に押し込めざるをえなくなったものが少なくないので、そのあたり、推測しながら読んでいただけると幸いです。
ちなみに、媒体は通訳翻訳ジャーナル2019年4月号、すなわち、定期刊行の雑誌です。刷り部数が多いとは思えません。というか、いつもどおりなんじゃないでしょうか。こちらも売り切れ御免です。編集部からは、後々、完全版(圧縮前のバージョン)をウェブに掲載することも考えたいと言われてますが、そちらはお断りするつもりです。部数の限られた紙媒体だから書けることもあるからです(講演だから語れる内容、オフで会って個別だから語れる内容というのもあるわけです)。
| 固定リンク
« 『PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』 | トップページ | "over ~ days"と"over ~ consecutive days"の違い »
「翻訳-ビジネス的側面」カテゴリの記事
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 仕事にも「枠組み」がある(2014.08.12)
- 消費税の取り扱い(2012.10.10)
「翻訳-業界」カテゴリの記事
- 私が日本翻訳連盟の会員になっている訳(2019.02.27)
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 翻訳者視点で機械翻訳を語る会(2019.01.23)
「翻訳-暮らし・人生」カテゴリの記事
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- メキシコ人漁師とMBA(2011.02.23)
コメント