« 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿) | トップページ | 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか »

2019年2月19日 (火)

"over ~ days"と"over ~ consecutive days"の違い

某所で知り合いが"over ~ days"と"over ~ consecutive days"はどう訳し分けたらいいのかと疑問を呈していました。

英語では over ~ consecutive days も言うようですが、日本語では「わたって」に、「続けて」という意味があるので、「連続~日にわたって」、「続けて~日にわたって」は重複表現になってしまいます。

【日本語として重複表現にならずに】over と consecutive のニュアンスを出し、かつ over ~ days との違いが分かるように、over ~ consecutive days を訳す方法はあるでしょうか。

なかなかおもしろそうな話だったので、少し考えてみました。

仕事で"over ~ days"や"over ~ consecutive days"が出てきたら、そこではどういう意味になるのか、その文脈に合う表現を考えればいいのですが、一般論としてというか、表現そのものの違いを考えたいのであれば、それぞれの表現がカバーする意味範囲を考えてみることから始める必要があるでしょう。それがわからなければ、訳出すべき違いがわからないわけで、どうにもなりません。

たとえば工事の話だったとして、それが"over 10 days"だった場合と、"over 10 consecutive days"だった場合とで、なにがどう違うのでしょうか。

"over 10 consecutive days"はわりと簡単で、連続する十日間、毎日工事があっていたはず。逆に、前半四日、後半四日は工事していたけど、真ん中二日は休工だったら"over 10 consecutive days"とは、基本、言わないはずでしょう。

じゃ、"over 10 days"は?

十日間ぶっ続けの場合は言える? 前半四日、休み二日、後半四日の場合は? 1日、二日おきの場合は? 初日と最終日だけ工事するような場合は?

もうちょっと違うケースも考えてみましょう。

たとえば、初日にはここをこうして、二日目にはここをこうして、全部で十日で終わる工事だったとして(工期が十日)、人員とか機材の問題で1日おきにしか作業ができず、結局、カレンダー上では19日間にわたるような工事があったとしたら、それを"over 10 days"で表現できるケースはある? ない?

簡単に見える"over 10 consecutive days"だって、前半四日、休み二日、後半四日の工事で、中二日は人がいなくてどんどんがんがんの工事が行われていなくても、その間、道に穴が開いたまんまで通れなくなっていたりしたら、"over 10 consecutive days"と言える? 言えない?

さらに、同じような話を日本語側でやる必要があります。例に出ている「~日にわたって」と「~日連続で」にはどういう違いがあるのかも考える必要があるし、翻訳のターゲット言語側ということですからもっといろんな表現がありえて、それが、上記をはじめとするいろいろなケースにどう収まるのか、どこまでどう表現できるのかを考えないといけません。

まあ、大変ですね。こういうの、けっこうおもしろいと私なんかは思いますけど(←職業病)。たぶん、翻訳が上手な人ほど、いろんなケースを思いついて比較できるんじゃないか、とも。

と、いろいろ言ってきた上で乱暴なことを言ってしまえば(自分ではしごを外すヤツ。ちゃぶ台返しとも言う^^;)、"over 10 days"は特に色のついていない基本的な言い方で、"over 10 consecutive days"はそこになにか色がついている、単に十日という以上のなにかを言いたい、それを受けとってほしいと書き手が思っている、という言い方ができるんじゃないかと思います。(一応、言い訳をしておくと、こういう言い方でいいのかどうかの判断を、上記のようなことを考えてしてください、ということです)

consecutiveそのものは「続いている」が中心なわけで、「十日連続で」「十日間ずっと」「十日間ぶっ通しで」みたいな表現になるケースが多いであろうことは明らかです。あと、連続といってもホントに連続していなくてもいいことは、上記、工事の例からもわかるでしょう。昼間しか工事してなくても、つまり、工事自体は断続的でも、工事をしなかった日がなければ言えるわけです。であれば、「十日間毎日」みたいな表現もアリでしょう。「某所」でSakinoさんは「3日間通いつづけた」なんて案も出されているんですが、こういう表現もアリですよね(工事とは相性が悪くて使いにくいけど)。行為が「通う」でよければ、あと、「~日間通いつめた」「~日間、通いに通った」みたいなパターンもありうるかもしれません。

で、ですね、私としては、もうひとつ、気になってることがあります。consecutiveが入ったときクローズアップされるのは、「連続している」ことのみなのか、です。

"over 10 days"と無色中立の表現があるのに、わざわざ、"over 10 consecutive days"としているのを見ると、「十日もだぞ?」みたいなニュアンスを私は感じるんですよね。「十日も工事が続いて迷惑だった」とか「三日も通いつづけるなんてすげー」とか。という例からわかるように、ポジティブ、ネガティブ、どちらになるかは決まっていません。取りあげている事柄に対し、それが続いたことに加え、続いた期間が長いと感じている、そういうニュアンスがあるんじゃないかと。「二日間工事があった」なら中立で価値判断はないけど、「二日連続で工事があった」は、それは珍しい事態であるというニュアンスは出てきますし、そのほか、付近の住民であれば、1日ならまだしも二日も続くなんて迷惑だというニュアンスがでかねないでしょうし、工事関係者ならおかげで日当が続けて入って助かったというニュアンスが出るかもしれないということです。そのあたりを日本語ではっきりさせたい、強めたいなら、「十日も連続で」「三日も通いつづけた」みたいに「も」を使うなどの手が考えられます。

"over several days"のように数字があいまいな場合だと、「~日」の訳し方も変わりそうです。"over several days"なら「数日」あたりが無難な選択としてまず思い浮かぶでしょう(ケースバイケースでいろいろありえますけど)。対して"over several consecutive days"だったら、たとえば、「何日も」みたいな形のほうがいいケースがけっこうあるのではないかと。これを何でもかんでも「数日連続で」「数日続けて」とやると、まちがいではないけどなんかしっくりこないになりそうな気がします。("over several consecutive days"だと「連日」あたりが第一候補になりがちだとは思いますが)

|

« 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿) | トップページ | 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか »

翻訳-具体的な訳し方など」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: "over ~ days"と"over ~ consecutive days"の違い:

« 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿) | トップページ | 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか »