テトリス
今回、翻訳フォーラムシンポジウム2018で取りあげた話の流れや文脈と密接に関係しており、ある意味、別の側面と言えるんじゃないかと思っているのが、テトリスです。はい、一時期大流行したゲームのことです。知らないという方は検索してみてください。無料で遊べるサイトもあるようですから、やってみてもいいんじゃないでしょうか。けっこうはまりますよ。
■テトリスの例(Wikipediaの「テトリス」から)
実はずいぶん前からよく言っていて、『できる翻訳者になるために プロフェッショナル4人が本気で教える 翻訳のレッスン』にもちらっと書いているのですが、日本語は組み立て方であっちこっちの文からパーツがごそっと消える場合があり、それをテトリスだと表現しています。
「『わかるものを省略』と『必要なことを言う』の違い」に書いているように、日本語は必要なことしか言わない言語なんだと私は思っています。で、なにが必要になるのかは文章の組み立て方で変わるわけです。文章の組み立て方が変われば書かなければならないことがどんどん変わる、項目も分量も、です。
で、書かなければならない分量が少なくなれば、読み手が処理しなければならないテキスト量も減るわけで、そのほうがいいというのが「『わかるものを省略』と『必要なことを言う』の違い」で言いたかったことのひとつです。つまり、英日翻訳において、原文の構造をそのまま訳文に持ってくるのではなく(原文の主語を訳文の主語にするなど機械的に訳すのではなく)、日本語の制約にうまくはまる形にしてあげると、テトリスでごっそりブロックが消えるようにごそっと訳文の量が減るケースがあるわけです。
これはまた、日本語において文と文の結束性を高めることにもなります。つまり、処理量減少という消極的な話だけでなく、処理そのものの性質が変わるという積極的な効果があるわけです。
このあたりは、先日、「翻訳フォーラムシンポジウム&大オフ2018」に書いたとおりです。
「簡素化というのは、不要なものを削り、必要なものの言葉が聞こえるようにすることだ。」
訳書に登場したハンス・ホフマンという画家の言葉です。これは、シンポジウムで紹介した「特に日本語で顕著なのだが、ほかの文に表れた情報がないと解釈できないようにすると文同士の結束性が強まる。逆に、単独で解釈できるようにすると結束性が弱まる」につながる話だと思います。
つながると言っても、「不要なものは削る」、「重なっているものを削りおとし、すっきりさせる」と「必要なことだけを表に出す」とは大きく違うのと同じくらい大きく違うことですが。私にとって、今回のシンポジウムは、この鱗が目から落ちたのが最大の収穫でした。なんとなくもやもやっとしていたものが、明確な輪郭を持つようになったというか(←これが「整理」のメリット)。これからしばらくはこのあたりを練習の中心テーマとして自分の翻訳を見直したいと思っています。
逆に、英日翻訳の逆変換となる日英翻訳においては、テトリスで消えている部分を補足しないと英語にならなかったりします(←これ以外にも英語にならない要因はありますが、これも大きな要因だと思います)。
これも、実際の例が見せられるといいんですが……仕事では最終訳文というか最終的に一次訳にしたものしか残さないのでどこがそうだったかわかんなくなっちゃうんですよね。気づいたら例を残しておきたいと思っても、このごろ、テトリスは自動運転処理に入りかけているのもあって、なかなか……(^^;)
ちなみに、私が英日翻訳で「テトリス」を意識するようになったのは2005年ごろです。10年以上も気にしていると、けっこうなところまで無意識のうちに処理できるようになるものです。
今回のようにシンポで取りあげるとかってなったら真剣に例を探すんですけどね~。ともかく、一応は気にしているつもりなので、興味のある方は、期待せずに待っていてくださいませ。
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