『スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント』
今日、新刊が発売になりました。『スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント』(日経BP社)という本で、2012年に日本語版が出た『リーン・スタートアップ』の応用編といった感じのものです。著者は、当然ながら前作と同じくエリック・リースさん。
前作は起業系の人々に評判となっているようで、じわりじわりと売れ続けています。リーン・スタートアップという考え方の実効性があちこちで実証されているからでしょう。その教科書的な位置付けになっているようです。
本作は、前作で確立した新規事業の立ち上げ方を大企業などにも応用するにはどうすればいいのか、といった内容になっています。前作も役に立ちそうだなぁと思いながら訳出していましたが、本作も負けず劣らず役に立ちそうな内容になっています。
この『スタートアップ・ウェイ』を題材に、先週、読書会が開かれました。発売前の本で読書会?本が手に入らないのにどうするの? と思われるかもしれませんが、班に分かれて1章ずつ読み、内容をまとめてプレゼン、自分が読んだ章以外はプレゼンで概要をつかむという形でした。全体を軽く把握できるし一部は深く読める。これで興味が持てれば本を買って全体を読み込めばいい。そういう感じになるわけです。
読書会の様子は、担当編集さんがCOMECOというところにまとめてくださっています(↓)。
今回は、前作に続く応用編なので、訳出を前の本と合わせなければいけないなど、いつもとちょっと違う制約条件が追加でかかりました。6年も前の仕事なんて細かなところは覚えていないので、改めて読みなおしたり、検索を駆使したりしつつ、あれこれ調整しています。前作と若干使い方が変わっていて同じ言葉だけど違う訳し方にせざるをえなかったところがあったり。SimplyTermsと秀丸マクロのおかげでキーワードがずれてしまう心配はないんですが。
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訳者あとがき
大企業病――主に大企業で見られる非効率的な企業体質のことだ。大企業病にかかると官僚主義、セクショナリズム、事なかれ主義、手続き主義などがはびこり、活力が落ちてしまう。とりあえず順調でも、持続的イノベーションのみで破壊的イノベーションが実現できず、いわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまう。
なぜそうなるのだろうか。
米国シリコンバレーの創造的・破壊的なアントレプレナーは、自分たちと大企業の人々は違うからだ、組織が大きくなるとクリエイティブな人は去るからだと考えるらしい。だが、そう考えるアントレプレナーが立ちあげたスタートアップが成功し、大きくなると、やはり「大企業」になってしまう。活力にあふれた挑戦的なスタートアップであり続けようとしてきたはずなのに。
著者エリック・リースは、いま、世の中で常識とされている組織構造とインセンティブが原因で、そこを変えなければこのような変質は避けられないと言う。従来型の組織構造に組み込まれ従来型のインセンティブを与えられれば、どうしても、官僚的な言動が社員に広がるものだ、と。
いまの組織構造やインセンティブは、アルフレッド・スローンが名著『GMとともに』(ダイヤモンド社)で提唱したものが基礎となっている。これなくして大量生産・大量販売の世界展開はできないと言われるほど優れたやり方である。ただ、イノベーションとは相性が悪い。新しいやり方のほうがあらゆる面でプラスになるとプロジェクトメンバー全員が考えているのに、全員が推進には反対するということさえ起きてしまうほどに(「ゲートキーパー機能を後押し機能に変える」の「GEの社員管理システム」で紹介されている実例で、私のお気に入りである)。
だから、そういう従来的な枠組みと、イノベーションと相性がよい起業の枠組みを組み合わせ、いいとこ取りをしようというのが本書の提案である。そうできれば、古くさい企業も先進企業に生まれ変われる。いや、実際にもう生まれ変わった組織がいくつもあり、世界的な大企業ゼネラル・エレクトリック社や文字どおり官僚が集まっている米国政府などが実現した変革が紹介されている。
第1章の最後「真の先進企業とは?」に古くさい企業と先進企業を対比するリストがある。ここを読んで、ああ、ウチは古くさい企業寄りだなと思ったら、本書をじっくり読み込み、できるところからやってみるのがいいだろう。大丈夫、リスクは小さい。スタートアップ・ウェイは実験のくり返しが基本だし、その実験は失敗してもかまわないもの、いや、失敗を前提に行うものだからだ。
実は、本書『スタートアップ・ウェイ』は、2012年に日本語版が出た『リーン・スタートアップ』(日経BP社)に続く、いわば応用編である。
スタートアップとは一般に起業や起業で作られた会社や組織をさすが、前著でも本書でも、もう少し広く「新規事業の立ち上げ」とでもいうべき意味で使われている。なにせ、両書におけるスタートアップの定義は「とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織である」なのだから。つまり、『リーン・スタートアップ』が示したのは無駄のないリーンなやり方で新規事業を立ちあげる方法であり、狭義のスタートアップではない一般的な企業でも使える方法なのである。
とは言いながら、実際に大きな組織に応用すればいろいろと想定外のことが起きてすんなり行かない。当たり前だ。エリック・リース自身、アドバイスを求められたあちこちの大企業でそのような問題に直面し、その企業の人々とも協力して解決に奔走してきた。その成果をまとめたのが本書である。前著を読み、「言いたいことはわかるけどウチの会社では難しいよな」と思った人には待望の書と言えるのではないだろうか。なお、前著が未読でも心配はいらない。その内容は、本書第4章でざっと復習できるようになっているからだ。もちろん、本書を読んでこれはいいと思ったら、『リーン・スタートアップ』も一読することをお勧めする。考え方も詳しく説明されているし、成功や失敗の実例もたくさん紹介されているからだ。
このあとがきを書いているとき、フォーブス誌から世界長者番付が発表された。今回の注目点は、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOがマイクロソフト創業者のビル・ゲイツを抜いて初の首位に輝いたこと。日本のニュースでもずいぶんと取りあげられたので記憶されている方もおられるだろう。ベゾスの保有資産は1120億ドル(約11兆9000億円)と我々凡人にはいったいいくらなのかよくわからないほどだったりするが……それはともかく、このアマゾン、『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)などを読んでいただければわかるように、立ち上げはリーン・スタートアップを地で行くような形だった。また、いまもその活力を保っており、本書にも登場している。大企業になってもスタートアップ的な活力を保てるいい例であり、かつ、そういう活力が保てれば大成功できるいい例であると言えるだろう。
一職業人としても、スタートアップ・ウェイを取り入れた組織で働くほうがよさそうだ。なにか思いついたら試すことができる。試していい結果が出ればどんどん前に進める。これはだめだという結果が出ても、それはそれでひとつの成果だと認めてもらえる。そういうやり方のほうがおもしろいはずだし、やりがいも感じられるだろう。
2018年3月
井口耕二
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