翻訳フォーラムシンポジウム&大オフ2018
先週日曜日は、このところ毎年恒例になっている翻訳フォーラムシンポジウム&大オフ。参加されたみなさま、ありがとうございました&お疲れさまでした。
今回は、海野さんご夫妻に、できたてほやほや、発売直前の『ビジネス技術実用英語大辞典(うんのさんの辞書)Ver.6』を会場特価で販売していただくなんていうこともありました。我々としては2冊目としてイチオシ辞書の新版なわけですが、それなりの値段なので(辞書は作るの大変ですからね~)、さて、どれだけ売れるだろうかと心配しないでもなかったのですが、どうやら、持参された分はほぼすべて売れたようです。よかった~。買った方々、活用してくださいね。
■私の戦利品
今回のテーマは「つなぐか切るか」。私は、いま訳している書籍から、自動運転でさらっと訳しかけたら「ん? こりゃまずそうだ」と思い、いろいろな訳し方をざざっと検討して一次訳を作った例を紹介しました。
ちなみに、今回はシンポジウムのネタにしようと思ったので、まとまったブロックについてばらばらっと何通りも実際に訳を作ってみましたが、実際の仕事であそこまでのことはまずしません。どうしても時間がかかりますからね。頭のなかで瞬間的にシミュレーションするだけだったり、頭のほうだけやって良し悪しを判断したりしてしまいます。でも、逆に言えば、2~3行程度の範囲について何パターンかの訳し方を並べてみて比較というのはそこそこやるわけです。また、昔は、けっこう頻繁に、しかももっと大きなブロックについてやっていました。いまは、どっち向きに行くのがよさそうかを早めに判断できるようになったので試訳を複数、実際に作ることも減ったし、試訳を作る範囲も小さくなったということです。練習の成果かな、と。
裏話をすると……春先、シンポジウムのテーマと大まかな役割分担を決めたとき、「間に合うタイミングでいい例がみつかるかな……」とちょっと心配していました。本によっては(というか著者によっては)あんなに悩む部分がなく、自動運転でするすると訳してお終いにできるものもありますから。もちろん、過去に訳したなかにならいい例になりそうなところが山のようにあるわけですが、実際の仕事だと、複数試訳を作っても採用したもの以外は削除してしまうので残っていないわけです。
結果として、そのあとに手がけた本があっちもこっちも訳しにくく、ネタがいくつも手に入ったのでシンポジウム的にはとてもよかったのですが、仕事としてはなかなかに厳しく、いろいろと吼えつつ仕事をしておりました。よかったんだかよくなかったんだか(^^;)
ところで、翻訳フォーラムのシンポジウムでは、このところ、翻訳作業のさまざまな側面についてひとつずつ整理するという形が続いています。今年は文と文の切れ続き。
整理してみると、それまでなんとなく感じていたことが実はこういうことだったんだとわかったりします。今回のテーマについて言えば、このブログだけでも、以下のように関係がある記事を10年近く前に何本も書いていたりしますが、いずれもちょっとぼんやりしています。
「『わかるものを省略』と『必要なことを言う』の違い」で
私の場合、絵や動きを念頭に視点や構造を決めて訳文を作って行き、途中、収まりが悪いなと感じたら視点や構造を見直すというパターンが多いように感じます。
と書いていますが、今回のシンポジウムで紹介したのがまさしくこの作業なわけです。
また、上記「書くと安心する」には以下の引用があります。
簡素化というのは、不要なものを削り、必要なものの言葉が聞こえるようにすることだ。
訳書に登場したハンス・ホフマンという画家の言葉です。これは、シンポジウムで紹介した「特に日本語で顕著なのだが、ほかの文に表れた情報がないと解釈できないようにすると文同士の結束性が強まる。逆に、単独で解釈できるようにすると結束性が弱まる」につながる話だと思います。
つながると言っても、「不要なものは削る」、「重なっているものを削りおとし、すっきりさせる」と「必要なことだけを表に出す」とは大きく違うのと同じくらい大きく違うことですが。私にとって、今回のシンポジウムは、この鱗が目から落ちたのが最大の収穫でした。なんとなくもやもやっとしていたものが、明確な輪郭を持つようになったというか(←これが「整理」のメリット)。これからしばらくはこのあたりを練習の中心テーマとして自分の翻訳を見直したいと思っています。
これとは別にもう1点、何年も前からなんとかしたいと思っているテーマがあるのですが(視点の問題)、そちらは、まだ、練習のレベルに落とし込めるほど理解できていません。参考になりそうな書籍もみつけているので、折々読みなおして理解を深めようとは思っているのですが、目の前のあれこれに追われてなかなかそこまで手が回らず……(--;)
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