トランスクリエーション?
数年前から「トランスクリエーション」なる単語を耳にするようになりました。つい先日発売された通訳翻訳ジャーナル2017春号にも「広告・マーケティング翻訳の新しい形 トランスクリエーションとはどんな仕事か」という記事が載っています。
上記記事によると、トランスクリエーションとは「ソース言語のコピーが喚起する感情や印象を把握し、それと同じものを喚起させるようなコピーをターゲット言語で書くこと」だそうです。
私の正直な感想は「なにそれ。それって単なる『翻訳』じゃん」です。
翻訳フォーラムの仲間4人による共著『翻訳のレッスン』にもくり返し書いていますが、少なくとも私の回りにおいて、翻訳とは「原文の読者が頭に思い浮かべる絵と訳文の読者が頭に思い浮かべる絵が同じになるような訳文を作ること」です。そして、この絵には感情や印象も含まれます。明るい絵と暗い絵では、喚起される感情も当然に異なるわけですから。
であるはずなのに、そこまで考えて訳文を作ることは「クリエーション」であるとなにかすごそうな表現がなされるとは……それって、世の中一般における翻訳とは「字面の変換」にすぎないと言っているに等しいですよね。そして、この言葉がだんだんとバズワードになりつつあるらしいということは、実際、世の中一般における翻訳とは「字面の変換」にすぎないケースが大半ということなのでしょう。
いや、まあ、そうだろうと昔っから思ってきてはいるし、だからこそ、このブログでも、どこかで話をするときでも、『翻訳のレッスン』でも、そんなんじゃダメだよって話をくり返しているわけですが、でも、こうして改めて突きつけられると、がっくり気落ちします。
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