機械翻訳+PE vs. 人間翻訳
「人間対人工知能の翻訳対決」なるものが韓国で行われたそうです。
人間4人と人工知能翻訳ソフト3つが同じ課題を翻訳し、それを専門家3人が採点という形で、結果は、30点満点で人間が平均24.5点、機械翻訳が10点と人間の圧勝だったとのこと。
正確性なども含めて採点するなら、まだまだ人間が圧勝するのは当然で、予想どおりの結果だと言えるでしょう。ですから、そのあたりについては特にコメントしません。
着目したのは記事の末尾、「機械翻訳を活用する翻訳家」うんぬんのくだりです。
機械翻訳を活用した翻訳、機械翻訳を下訳に使う翻訳、機械翻訳+ポストエディットなど、言い方はいろいろとありますが、やり方自体は20年も前から話題になっていますし、実際、そういうやり方をしている人もそのころからいます。
正直、ああまたかと思う話なのですが、今回は、個人が言うのではなく、こうして報道までされるくらいに世の中がなっているわけで、それだけ注目度も高い、つまり、広がる可能性も高いのだろうなと思うわけです。
というか、「進化した機械翻訳を使うので安く翻訳が提供できます。だからウチから買ってください」という売り込みをする翻訳会社が増えるであろうことは想像に難くありません。売り込みをするにあたって、その売り文句が正しいか正しくないかは関係ありませんし。
このあたり、もうすぐ発行される次のJTFジャーナルに寄稿した記事でも触れています。
ともかく、そういう状況なのであれば、これは、「機械翻訳を活用する翻訳」と「使わない翻訳」の訳文比較、するべきですよね。
実はこのアイデア、もう、たぶん10年以上も前から持っていたりします。ざっと、以下のような感じです。
- マニュアルの機能説明的な部分(操作・手順の説明ではなく)あたりと、マーケティング文書あたりの2課題とする(訳出時に考える必要がない操作手順では比較にならない。マーケティング文書だけだと「機械翻訳を活用する翻訳」に不利な課題設定となる)
- 事前に課題と近い文書を渡すなりなんなりして、用語集など、必要な準備を双方とも整えておく(そうしないと機械翻訳活用側から「カスタマイズしていないから結果がよくなかった」という話が出てくる)
- それぞれ、自分の環境で訳文を作り、提出する。
- 翻訳者、翻訳の品質評価をしている人、翻訳素人(翻訳文書を実際に読む人の代表)に質の評価をしてもらう
- 訳出にかかった時間と質をもとに、「機械翻訳を活用する翻訳」と「使わない翻訳」を比較する
これ、どこかで誰かに話をするたび、「おもしろい。ぜひ見てみたい」と言われるのですが、実際に実現するとなると、ハードルが高いんですよね。どうしても、純粋に訳文の比較ではなく、「訳す人」の比較・評価となってしまうので。訳者は匿名にすれば、評価が悪かった人が一般に恥をさらす結果にはならずにすむと思いますが、それでも、「ここがよくない」と公開の場で列挙されれば、心中、穏やかではすまないでしょう。しかも、「機械翻訳を活用する翻訳」も「使わない翻訳」も下手な人で比較しても意味がないわけで、それなりの力がある人をぶつけないといけません。そう考えてくると、さすがに無理じゃないかと具体化することはなくいまに至っています。
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コメント
ちなみに、これ、「出てくれる人が思い当たらない」は、主に「機械翻訳を活用する翻訳」のほうだったりします。
投稿: Buckeye | 2017年2月24日 (金) 10時31分