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2017年1月11日 (水)

NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』-「遠回りこそ、最良の近道」肝臓外科医・高山忠利

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』、録画しておいてときどき見るようにしており、このお正月明けには、2015年9月28日に放映されたこの番組を見ました(外科医とか言われると食べながら見る気にならず、ずっとほったらかしになってました^^;)。

「遠回りこそ、最良の近道」肝臓外科医・高山忠利(NHKの番組紹介ページ)

「遠回りこそ、最良の近道」肝臓外科医・高山忠利

上記番組紹介ページにも書かれていますが、高山医師は、普通は縛る必要がないと言われる微細な血管まで根気よく縛って止血することで出血量を抑え、普通なら不可能と言われる難手術を可能にしているそうです。この点について、番組でご本人がこんなふうなことを言われていました――

そこまでしても意味はないって言う人が多いけど、それはだめ。

このくらい縛らなくていいやと思ったら、必ず、もっと太い血管も縛らなくていいと思うようになる。だから例外は作らない。みつけた血管はすべて縛る。

高山医師は、徹底的な止血により、通常は1000mlと言われる手術中の出血量を300mlまで押さえ込んでいるそうです。5年生存率も56.8%という全国平均に対して63.8%とのこと。

この違い、大きいと見るのでしょうか、小さいと見るのでしょうか。

ほかで断られた難手術を多く手がけているにもかかわらず5年生存率が全国平均を上回るというのはもちろん大きな違いですし、自分が患者なら、これはもう、なんとか高山医師に執刀して欲しいと切実に願うであろう違いです。でも、高山医師ほどのことをしなくても成功する手術もたくさんある、高山医師ほどのことをしてもなお、1/3以上は5年も生きられない、とも言えます。だから、毛細血管は止血する必要がないと一般に言われているのでしょう。しなくても成功する手術は成功するし、しなくて成功しない手術の多くは成功しない、と。

「そこまでやらなければならないものだけやればいいじゃん」という声が聞こえてきそうですが、よく言うように、人間、そんなに器用じゃありません。「このくらい縛らなくていいやと思ったら、必ず、もっと太い血管も縛らなくていいと思うようになる」のがオチです。

我々の仕事は、直接的に命を左右するものではないので(間接的には、翻訳が命にかかわる事故の原因になることだってありえますが)、ここまで深刻な問題ではありません。でも、基本的な考え方は同じでしょう。

「そこまでしなくてもたいがいは大丈夫だよ」「たいした違いにならないよ」というところまでやらなくてもそれなりの翻訳にはなります。でも、そこまできちんと処理しなければいい翻訳にはなりません。「時間がないから、安いから、~だからここはいいや」と思えば、必ず、もう一段大事なところまでいいやと思うようになってしまいます。そして、さらにもう一段大事なところまでと少しずつ崩れていきます。人間なんて、そんなものです。

だから、仕事を請けたら全力でやる、全力でできないような仕事は断るべきだと、あちこちで言い続けているわけです。

機械翻訳をツールとして使うのがまずいのもここにあります。修正量を減らしたほうが処理量(=収入)は増えるわけで、「このくらいはいいや」がどんどん拡大していくことになります。「~すれば大丈夫」なんて、大丈夫なはずがありません。

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