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2013年12月11日 (水)

消費税引き上げ分の価格転嫁について

来春の消費税アップを前に、内閣府のウェブサイトに「消費税価格転嫁等対策」というページが作られています。ここには、2014年4月(および2015年4月)に予定されている消費税アップに伴うあれこれについて、国が作成したガイドラインやパンフレットがたくさん集められています。

そのなかから、翻訳会社との交渉で役に立ちそうなものをピックアップしてみます。

「法律ではこういうことになっていますので……」とここに紹介するPDFを翻訳会社に送って読んでもらうといった方法も、交渉の一助になるのではないかと思います(居丈高に「法律でこう決まっているからやれ!」みたいな交渉は、たいがい、いい結果を生みません)。もちろん、私のウェブサイトの記事(「消費税の取り扱い」、「業界最大手が外税方式へ移行」、この記事)を翻訳会社へ紹介していただいてもかまいません。「肩書きのある人が書いてますよ~」というアピールをしたほうがいいと思えば、「日本翻訳連盟(JTF)の常務理事をしている人が書いているブログです」と紹介していただいてもかまいません。

本記事末尾に、国の相談窓口も紹介しています。万が一の場合には、こちらへ相談するというのも手かもしれません。あ、JTF会員の場合は、その前に、まず、JTFのトラブル防止委員会に相談するのがいいでしょう。JTF事務局に連絡すれば話を回してくれます。

■「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法及びガイドラインについて

●対象となる事業者

「第1の1」により、個人翻訳者は個人事業者である場合も法人なりしている場合も、「定供給事業者(転嫁拒否等をされる側)(売手)」であり、そこから継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者である翻訳会社は「特定事業者(転嫁拒否等をする側)(買手)」であることがわかります。

そして、「第1の3」により、特定事業者(翻訳会社)は定供給事業者(個人翻訳者)に対し、「①減額、買いたたき」および「③本体価格での交渉の拒否」をしてはならないとあります。

●禁じられている「減額」とは?

これについては、第1の4(2)に、具体例として(↓)が挙げられています。

(例1)対価から消費税率引上げ分の全部又は一部を減じる場合
(例5)消費税率引上げ分を上乗せした結果,計算上生じる端数を対価から一方的に切り捨てて支払う場合

例1はすぐにわかりますね。消費税が5%から8%にあがるとき、その差の3%分、翻訳会社から翻訳者への支払額が増えなければならないと言っているわけです。

例5は、消費税引き上げに伴う料金の変動を切り上げで処理しなければならないと言っているものです。たとえば、いままで単価が内税で11円/ワードだったとしたら、新しい税込み単価は11/1.05×1.08=11.314285……と切りのない数字になります。これを、11.3円や11.31円としてはならないわけです。11.3円なら0.014285……が切り捨てられていますし、11.31円なら0.004285……が切り捨てられていますからね。言い換えれば、11.4円や11.32円など、どこかの桁で切り上げろってことです。

ちなみに、2015年4月に予定されている8%→10%の消費税アップ時にも同じことが起きます。つまり、内税処理をしているなら、2014年4月と2015年4月の2回、切り上げ処理をしなければならないわけです。

この切り上げ処理がいやなら、いまのうちに外税処理に移行すればいいわけです。

●禁じられている「買いたたき」とは?

これについては、第1の5(2)に、具体例として(↓)が挙げられています。

(例1)対価を一律に一定比率で引き下げて,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合
(例2)原材料費の低減等の状況の変化がない中で,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合

こちらは例2から考えましょう。これは、翻訳会社と翻訳者の取引においては「減額」と同じことになりますね。

例1については……翻訳会社から登録翻訳者に対し、一律x円やx%の単価引き下げが通告された例が過去にありますが、(ほかのときならいざしらず)消費税引き上げ時にそういうことをすると法律違反になるということです。2014年4月の消費税引き上げと同時でなくても、その前後、数ヶ月のあいだにおこなわれれば、実質的に消費税の転嫁拒否だと考えることができるでしょう。

●禁じられている「本体価格での交渉の拒否」とは?

これは、第1の7に、次のように定められています。

○ 本体価格(税抜価格)での交渉の拒否とは,商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格を用いる旨の特定供給事業者からの申出を拒むこと。

「消費税抜きの単価を定めたい」と翻訳者が申し出れば、翻訳会社はそれを拒否できないということです。

また、その場合、「社内のシステムが内税方式にしか対応していないから内税の総額表示にする」といったことも、例2を見ればわかるように、明確に禁止されています。

(例2)特定事業者が,本体価格に消費税額を加えた総額しか記載できない見積書等の様式を定め,その様式の使用を余儀なくさせる場合

翻訳会社側が定めた総額方式の様式しか使わせないのはダメだということです。

■「中小企業・小規模事業者のための消費税の手引き

経済産業省中小企業庁が作成したパンフレットです。こちらは、かなりわかりやすい解説となっているので、一通り読んでおいたほうがいいでしょう。

特に、このパンフレットのp.32は必読。「年間売上高1000万円以下の免税事業者には消費税を払わない」と言う翻訳会社がよくありますが、それが法律違反であると明確に書かれています(↓)。

免税事業者も商品等の仕入れにおいて消費税を負担しています。特定事業者(買い手)が取引相手が免税事業者であることを理由に、「買いたたき」等を行うことも消費税転嫁対策特別措置法で禁止されます。

■国の相談窓口

消費税の転嫁拒否にあったりしたら、(↓)に相談することができます。「転嫁拒否など消費税転嫁対策特別措置法に違反する疑いのある行為については、相談者の御意向により、センターから担当省庁へ通知します」とのことです。

JTF会員の場合は、その前に、まず、JTFのトラブル防止委員会に相談するのがいいでしょう。JTF事務局に連絡すれば話を回してくれます。

御相談は専用ダイヤル又はメール(HP上の専用フォーム)を御利用ください。
専用ダイヤル:0570ー200-123
【受付時間】平日 9:00~17:00(平成 26 年 3 月・4 月は土曜日も受付)
※ お住まいの地域に応じて、以下の通話料金がかかります。
● 固定電話:8.5 円~80 円/3 分間、携帯電話:90 円/3 分間、公衆電話:30 円~220 円/3 分間

HP上の専用フォーム:http://www.tenkasoudan.go.jp(24 時間受付)

苦情のほか、疑問点の問い合わせなども受け付けているようです。

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コメント

大事なことを書きわすれました。

内閣府のガイドラインでは、端数の切り捨てについて「一方的に」という言葉が使われています。翻訳会社から切り捨て処理を通知されたとき、それに同意すればもちろん一方的ではなくなりますし、同意しなくても反対もしないでいると、消極的に同意したとみなされ、「一方的ではない」となる恐れがあります。注意しましょう。

投稿: Buckeye | 2013年12月11日 (水) 12時14分

もう1点補足。

この話は、相手が翻訳会社ではなくソースクライアントでもまったく同じことになります。

投稿: Buckeye | 2013年12月11日 (水) 19時46分

悩んだときはいつも井口先生のブログを拝見しています。

消費税について、取引がある3社のうち1社が法令を順守して支払ってくれません。
交渉してみましたが、公正取引委員会も「不当なので、アンケートに記載して返送してください」と言うほどの結果しかもらえませんでした。

訴え出れば翻訳業界から干されそうだし、
http://diamond.jp/articles/-/49446?page=3

問題の会社の社長は翻訳連盟の理事だし、
なんだか悲しくなりました。

あとの2社は本当にきちんと対応してくださっているので、
そういう会社としかおつきあいしたくないな、と思っています。

投稿: secret | 2014年11月18日 (火) 18時15分

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