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2013年12月27日 (金)

『ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者』

久々に訳書が出ます。年明け1月9日の発行ですから1年振りに近いですね。ただ、アマゾンでは、すでに紙版が買える状態になっているようです。

もちろんキンドル版もあります(1800円なので微妙に安い)。アマゾン本ですからね。キンドルなしってわけにはいかないでしょう。

私が訳したアマゾン本は、昨年の『ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛』がありますが、今回のほうがかなり詳しく、充実しています。テキスト量で3倍近くもありますから。分量が多い分、読むのが大変かとは思いますが、おもしろいのはとてもおもしろい本です。「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、そういうはらはらどきどきの展開があちこちに出てきます。ふつうに値付けしたら2000円台半ばか後半になりそうな大部の本なのですが、日経BPさんは税込み1890円とかなり思いきった値付けにされています。お買い得です(笑)

そうそう、この本では珍しく訳注を書いています。いわゆる訳注は読者としてきらいなので(訳注があると話に没入できなくなるので)なるべく書かないようにしているのですが。

今回は、「ベゾス」の読み方が正しくは「ベイゾス」だという下りがあったのですが、本書では「ベゾス」と表記しています。日本では「ベゾス」が定着していますし、アマゾンも「ベゾス」という表記にしているので、英語の発音が「ベイゾス」でもそう表記するとおかしなことになってしまいます。かといって、「ベゾス」が正しい発音って書くわけにもいきません。結局、訳注で処理せざるをえませんでした。

もう1点、仕事の裏話というかなんというかを。実は今年の前半は書籍の仕事が久しぶりにとぎれ、半年ほどかなりヒマにしていました。仕事が途切れれば営業というのが一般に基本でしょう。でも私の場合、昨年後半は『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の疲れが取れていなくてペースがあがらない状態だったので、まずは休むことにして、3カ月ほど寝てばかりの毎日をすごしました。そのあとは、数年前からの懸案だった運動不足を解消しようとロードバイクに乗りはじめ、体重10kg減、体脂肪率15%減を達成。体調が大幅アップしたおかげで、本書のちょっと厳しめスケジュールも問題なく乗り切ることができました。腹筋・背筋がしっかりしたので、座り続けても姿勢が崩れず、腰が痛くなったりしないのが快適です。

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訳書あとがき

アマゾン・ドット・コム――インターネット通販の世界最大手であり、我々の生活を大きく変えた企業である。日本にも2000年に進出している。本書は、そのアマゾンを一代で築いた創業者、ジェフ・ベゾスの伝記だ。

アマゾンはもともと書籍のネット通販サイトとしてスタートし、「地球最大の書店」とうたっていたが、取扱品目を拡大し、いまでは、日常生活の買い物をすべてすませられるのではないかと思うほどになっている。特に私のような通勤しない人間にとっては、わざわざ電車に乗ってお店まで行くことなく必要な品物が買えるのでとても重宝している。

とにかく便利だ。マウスのクリック1回だけでどのような品物でも買えてしまう。配送もアマゾンが販売しているものなら基本的に無料だし、ネット通販のなかで抜群に早くて東京地区なら翌日に届くことも珍しくない。クリックひとつでさっと玄関先まで届くのだ。だから重たい飲み物のまとめ買いはアマゾンでするという人もいる。さらに、安いことが多い。ネット通販価格の比較サイトでもアマゾンは上位に来ることが多いし、トップにランキングされることも少なくない。

あまりに便利で、ついつい買いすぎる人もけっこういるらしい。また、だんだんとアマゾンへの依存度があがり、これはまずいかもと思う人も出始めている。ポチッとするだけで支払手続きも特になく買えてしまうため、お金を払うというリアリティーが感じられないのが一因だろう。私も、アマゾンを使いはじめてから積ん読本の増加ペースがあがっている。

アマゾン中毒を自覚し、「アマゾン断ち」をトライする人もいる。だが、「断酒よりむずかしい」という声があがるほど長続きしないらしい。人気ブログの「ノー・セカンドライフ」を書いている立花岳志氏もそのひとりで、先日「30日間アマゾン断ち」を宣言。だが13日目に挫折し、「予想以上にアマゾンは僕の生活に食い込んでいる。それを実感した」と書いている。

このようなアマゾンの特徴は、いずれも、当初からベゾスが掲げてきた方針――顧客第一主義――から生まれたものだ。「安心して買い物ができる」「ここで買ってよかった」などと消費者に思ってもらえるようにアマゾンは努力してきた。だから、宝飾品など世間では高い価格で売られており、高い利益率が見込めるものも極限まで安くしてしまう。利用者による評価レビューの機能を導入したとき、否定的なレビューも書けるようにしたのも顧客第一主義から導かれた結論だ。否定的なレビューを恐れたサプライヤーから「おまえたちは売るのが仕事で商品にけちをつけるのが仕事じゃないはずだ」と言われても「我々はモノを売って儲けているんじゃない。買い物についてお客が判断するとき、その判断を助けることで儲けてるんだ」と突っぱねている。

ジェフ・ベゾスの方針がぶれないのは驚くばかりだ。インターネットの世界もビジネスの世界もどんどん変わっているが、アマゾンは創業当初から顧客第一主義を貫き、できるかぎりたくさんの商品をできるかぎり安く、できるかぎり簡単に買えるようにしてきた。最近はアマゾンウェブサービスという形でコンピューターパワーも販売しているが、これも同じ方針から出てきた商品だ。

そのベゾスが口癖のように言うのが「注目するのは顧客であって競合他社ではない」だ。だがアマゾンは、品ぞろえを充実させたり顧客への提供価格を引き下げたりするためなら、えげつないと言えるほどの戦略で他社を追いおとす。ザッポスやダイアパーズ・ドット・コムの買収では体力にものを言わせて追いつめているし、仕入れ先に対しても「ショッピングカートに入れる」ボタンをなくすなどの力押しで言うことを聞かせたりしている。なにせ、「片方が常に勝つようにするのが交渉だ」と渉外の責任者が言うほどなのだ。マーケットプレイスへ出品された品物の荷動きがよければアマゾンが自社で取り扱いを始めるというのも、従来の商習慣からすれば眉をひそめることだろう。キンドル発売時にはベストセラーや新刊書のデジタル版を仕入れ値より安い9ドル99セントで提供したが、これも、他社の追随を振りきり、電子書籍市場の覇権を握るためという側面がある。

このようなことができるのは、利益率が低いという強みがアマゾンにあるからだ。書きまちがいではない。顧客第一主義で価格を下げれば利益率も下がるが、それを弱みではなく強みとするのがベゾス流なのだ。利益率が高ければライバル企業が研究開発に投資して競争が激しくなるが、逆に利益率が低ければ顧客は集まるし市場を守りやすい。ベゾスはこれを「スティーブ・ジョブズの失敗をくり返したくない」と表現することもある。iPhoneをびっくりするほど利益があがる価格にして、競争相手をスマートフォン市場に引き寄せた愚は避けたいというわけだ。

アマゾンは、低い利益率で生きられる体質を武器に、必要であれば膨大な赤字を出すこともいとわず、これと狙った市場をものにする。だから、ビジネス世界で「アマゾンされる」と言えば、「急成長しているシアトルのオンライン会社が、自社の従来型事業から顧客と利益を根こそぎ奪っていくのをなすすべもなく見る」という意味になるのだ。

アマゾンはこれからどうなっていくのだろうか。予想するのは意外に簡単だろう。著者ブラッド・ストーンも書いているように「ジェフ・ベゾスはいままでやってきたように、これからもやっていくのだから」。「アマゾンがどんどん強大になっていったとき、世の中がどう変わるのか」は一段、予想が難しいかもしれない。リアル店舗はどうなっていくのか、インターネットが使えない情報弱者の老人はどうなるのか。社会生活のあらゆる側面が大きな影響を受けることだけは確かだろう。

2013年12月   井口耕二

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