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2013年2月27日 (水)

分納や部分翻訳について

産業系では分納を求められることが珍しくありません。このごろは納期が厳しくなっているため、翻訳と平行して後工程を進めたいと翻訳会社が考えることも多く、増える傾向にあると言えるでしょう。概要を早く知りたいからExecutive Summaryだけ先にちょうだいと言われることもあります。書籍でも、どうしてもこの時期に出さなければならないなどの場合に分納せざるをえなくなる場合があります(『スティーブ・ジョブズ』の場合もそうでした)。

産業系の場合、部分翻訳を求められる場合もあります。こことここだけ訳してとマーキングされた原稿が届いたりするわけです。前後処理で翻訳メモリーを使うのか、文単位でまだらにマーキングされていたりします。

こういう要望にはそれなりの理由もあったりはするのですが、翻訳をする人間からすればなんともむちゃな要求だったりします。「機械翻訳に関する天動説と地動説、そして解釈学的循環」に書いたように、解釈という作業は(実は表現側の作業も)循環的であり、ある部分だけを取りだすことが不可能だからです。

部分翻訳でも全体的な論旨を確認するという大まかな枠組みの確認はまともな翻訳者ならやるはずですが、逆に言うとできるのはそこまで。翻訳時ほど深く原文を読むことはできないので(訳そうとするからこそ考える部分というのが存在する)、細かな整合性を取ったり、それに伴って枠組みを微調整したりはとてもできません。

分納というのも、ある意味、大きなブロックに分けての部分翻訳なわけで、同じ問題が発生します。後ろの部分を訳しているときに、すでに納品した部分を修正しなければならないことに気づいたりするわけです。

そんなこんながあるので、私の場合、部分翻訳は基本的にお断りしています。特に文単位の部分翻訳は前後との整合性を確保できないので絶対にやりません。整合をとるためには前後の文のほうを変えなければならない場合があるのに、そこは変えられないというのでは、訳文に責任が持てないからです。

分納も「あとから差し替える可能性があります」と断っておきます。また、納期の7割から8割というタイミングで半分など、比例計算でこのくらいはと思われるよりもずっと遅いタイミングで少ない量しか分納しません。ある程度は後ろまでやらないと、循環による整合性の確保が難しいからです。Executive Summaryの分納は拒否。具体的には、「Executive Summaryを先にやるなら品質は保証できません。大まちがいがあってもよければ先にやります。なお、その場合はExecutive Summaryのやり直しが発生するので、全体を納品するタイミングは遅くなります。どうしますか?」というようなことを(丁寧に^^;)聞くわけですが、こう言われて「それでもやってくれ」と頼んでくる人はまずいないでしょう(私はいまのところ遭遇していません^^;)。

部分訳という形は、だいたい、コスト削減が目的です。既訳があるところを訳さず、その分のコストを削減しようというわけです。

発注する側としてはそう考えたくなる気持ちもわからないではありません。だから翻訳者の側にも、それは仕方のないことだ、そういうニーズを満足するのも自分の仕事といった意見の人がいます。そういう考えで納得して仕事をするのなら、それはそれでしょう。ただ、私は、前述のように責任のもてない仕事になるのでやりたくないという面と、「コスト優先なら単価高めの私に発注しなくてもいいじゃん」と思うので断っているという面があります。

だいたい、部分翻訳とか分納(特に、経過期間に比例する割合で分納を要求してくるケース)とかって、「翻訳というのは原文の頭から1文入れたら訳文が1文ずつ完成していく」と思っているからできる要求でしょう(納期半ばに「できてるところまでちょうだい」と言ってくる人もそういう意識なのだと思います)。

でも現実はそうではないわけで。

「いろいろわかってはいるけど、翻訳工程と後工程を重ねないと納期に間に合わないから分納を」というケースなら、あとから修正を連絡するなど煩雑になってもお互いさまとなるのでいいんです。でも、経過期間に比例する割合で分納を要求してくるところに対しては、それが無理であることを現場の翻訳者が説明すべきでしょう。

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コメント

Executive Summary【だけ】の翻訳依頼はさすがにありませんが、大部の資料で分納を求められると、消化不良のままExecutive Summaryの訳を先に出す羽目になったことは多々あります。

その反省に立ち、分納を求められた場合でも、Executive Summaryの訳文提出は完納時まで待ってもらうようにしたいと思っていますが。。。


実行できるかな? (∵ 本文との整合性確保はチェッカーの方でやってくれ、とのやさぐれた気持ちも湧きますので)

投稿: あきーら | 2013年3月14日 (木) 13時09分

あきーらさん、

おかしな要求をされると、やさぐれた気持ちになりますよねぇ。で、その気持ちのまま仕事をして悪い結果が出ると、それはまたそれでこっちの責任ってことになっちゃったりして……いろいろと頭が痛いです。

投稿: Buckeye | 2013年4月 3日 (水) 10時04分

こんにちは。

部分翻訳を請けていますが、翻訳会社のコーディネーターに対して、部分翻訳の負の部分を伝えています(最終顧客にも伝えるようにお願いしています)。

働きかけの成果として、これまで単語単位で「虫食い」のような依頼(以前の訳に単語だけはめ込む形)だったものが、パラグラフ単位の依頼に変わってきました。

全体を見るとパッチワークのような翻訳だとおもいますが、自分の任されたパラグラフに限ると整合性が取れた訳となりますので、翻訳の際のストレスは減っています。

半年前から株価が騰がり、実体経済の回復が確認されてくると、企業の懐具合も良くなって、ケチケチとした発注が減ることを願っています。


投稿: takey | 2013年4月18日 (木) 17時52分

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