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2013年2月14日 (木)

『アップル 驚異のエクスペリエンス ―顧客を大ファンに変える「アップルストア」の法則』

先月末の1月24日、日経BPさんから表記の『アップル 驚異のエクスペリエンス ―顧客を大ファンに変える「アップルストア」の法則』が刊行されました。

著者はカーマイン・ガロ。『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』に続く驚異シリーズ3弾目です。

昨日書いた「自分の翻訳の市場価値」で(↓)と書きましたが、

そもそも翻訳の力がなければどうにもならないわけですが、そういう力を付けた上でなら、「営業力」というかビジネスマインドというかがあれば状況を大きく変えられる可能性があります。先日のセミナーでも話をしたのですが、「まずは翻訳力。翻訳力があった上で営業力を身につければ鬼に金棒。鬼は鬼だけで脅威になるけど、金棒をネズミに持たせても怖くない」わけで。

この営業力やビジネスマインドとしてどういうことを考えるべきなのか、本書にはヒントが満載されていると思います。「対価を受けとるモノそのものを売ろうとしない。売るのはモノに伴う体験」というのは、翻訳のビジネスにおいても大いに役立つ方針でしょう。顧客がなにを求めているのかなど気にせず、仕入れ関係でごくわずかな値引きを引きだそうとやっきになるレストランオーナーの話のように、よく言われることをしているけれども方向性が違っていてうまくいかないというのは、我々のまわりでもよくあることです。

恒例の裏話も少し……

この本の翻訳は予定よりもかなり遅れ、担当編集さんをはじめ、あちこちに迷惑をかけてしまいました。そもそもの問題は、昨年訳した2冊目、『ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛』に思いの外てこずり、あとのスケジュールがどんどん詰まってしまったこと。予定から遅れていると目の前の案件を間に合わせるのが優先となって効率的な進め方ができず、よけいに予定から遅れていくという悪循環になってしまいます。そのしわ寄せを一番うけたのが本書で、スタートでさえ、「~くらいまでに仕上がればいいですから」という時期をすぎたあたりになってしまいました。その上、前年の『スティーブ・ジョブズI・II』の疲れが抜け切れていなかったようで、どうにもペースがあがりません。

昨年は、書籍の打診をたくさんいただいたので産業系の仕事を大きく減らし、その結果、年間に訳したワード数が久しぶりに目標範囲に収まりました。2010年、2011年は、最終的に目標上限の4割増しくらいに達してましたし、2011年はその上書籍の割合が多かったのでなおさら大変でした。2012年は書籍のワード数は2011年から横ばいで産業系が大きく減るという形だったのでずいぶん楽になるはずだと思っていたのですが、最終的には、2011年ほどではないにせよ、2010年並みには厳しい1年になってしまいました。

今年は……いまのところ、かなりゆったりとしたスケジュールになりそうな感じです。

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訳者あとがき

カーマイン・ガロの『アップル 驚異のエクスペリエンス』をお届けする。『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』(いずれも日経BP社)に続く驚異シリーズの最新作だ。前2冊と同じように、本書も実践的で役に立つヒントが満載されている。

どういう人の役に立つのか。まずなんといっても小売業に携わる人々だ。本書は、アップルストアがなぜ快進撃を続けているのか、その謎を解きあかすことが表のテーマだからだ。商材は問わない。前2冊同様、本質が上手に抽出されているので、どのようなモノを売る場合にも応用が可能だ。実際、アップルストア以外に、石けんやコーヒーなど、ほかの商材を扱う会社が例として登場する。

それだけではない。実は、小売業以外にも有効だ。ガロ自身も、「自分でビジネスをしている人、アントレプレナー、マネージャー、CEO、弁護士、会計士、医師、営業のプロ、部門長など、サービスや製品の販売に関係する人、全員」に役立つはずだと書いている。言い換えれば、仕事をしている人、全員に有用なのだ。我々は、必ず、なにかを売って稼ぎ、そのお金でなにかを買って暮らしているのだから。

本書にはキーワードがいくつか出てくる。まずは「暮らしを豊かにする」だ。サービスや製品を売ろうとするな、顧客の暮らしを豊かにすることを考えろというのだ。その結果、顧客がいい気持ちになれば売上は自然とついてくる。

「いやいや、モノを売るのはもっと難しい。しかも最近は、安くしてもなかなか買ってもらえない。売ろうともせずに売れるはずがない」――そう思うのが普通だろう。だが、世界一の小売店となったアップルストアは、実際に、売ろうとしないから売れる状態、値引きなしで高いのに売れる状態になっている。

これを支えるキーワードが「エクスペリエンス(体験)」だ。いい体験をすれば、顧客は、ここで買いたい、この人と仕事がしたいと思ってくれる。実例は、アップルストアなど、たくさんある。もちろん、体験を損なうと大きな損失が出るという悪い例もたくさんある。

本書を読んで、私はトム・ソーヤーを思い出した。ペンキ塗りのエピソードだ。トムは、いたずらの罰として命じられたペンキ塗りを楽しそうにやり、興味を引かれた友だちがやらせてくれと頼んでも譲らない。結局、何人もの友だちが、いろいろな宝物を差し出してはペンキ塗りをやらせてもらう。そして、友だちは、皆、楽しい体験に満足する。していることは同じはずなのに、それが罰になる場合もあれば楽しい体験になる場合もあるわけだ。なにかを買うという体験も、それが苦痛となる場合もあれば楽しみとなる場合もあるのと同じだろう。

いい体験をしてもらうことの効用は、製品やサービスの購入にとどまらない。その製品やサービスをほかで宣伝もしてもらえるようになる。そういう面でもアップルは一歩抜きんでている。熱烈なファンが多く、製品やストアを熱心に推奨する人も少なくない。あまりに熱烈なので、「信者」による「布教」という言葉で表現されることがあるほどだ。

実はこの表現、あながち的外れでもないらしい。アップルファンにアップル製品の映像を見せると、信心深い人に神の映像を見せた場合と同じ脳の部分が反応することが神経科学の研究で確認されたというのだ。

製品を売ろうとせず、来店者の暮らしを豊かにしようとすれば、店内での体験がいいものとなり、その結果、めちゃくちゃ信者な顧客が生まれ、勝手に布教までしてくれるので、次から次へと製品が売れていく。そんなにうまくつながるのかと思ってしまうが、これが実際に起きていることなのだ。

では、どうすれば顧客にいい体験をしてもらえるのか。本書は理念を紹介して終わりではなく、具体的な方法までブレークダウンしてくれる。実践的でわかりやすいと評判のガロ氏だ、そのあたりに抜かりはない。どうすれば、顧客の「エクスペリエンス(体験)」を一新できるのか、それを明らかにすることが本書の真のテーマなのだ。

本書の構成を簡単に紹介しておこう。驚異シリーズを通して言えることだが、ガロ氏は、原理原則へとさかのぼり、幅広い分野に応用できる法則を抽出してくれる。

最初に焦点を当てるのは体験の提供者。第1部の「社内の顧客を奮い立たせる」だ。「いい体験」というのは、結局のところ、心の問題だ。提供側に元気がなくて、いい体験など提供できるはずがない。まずは、体験を支える舞台裏をしっかりさせなければならない。

第2部「社外の顧客をもてなす」は表に見える部分だ。だが、ここだけをまねても意味がない。提供側の心の持ちよう次第で、同じことが顧客に感動をもたらしたり、単なる仕事になっておざなりな印象を与えたりするのだ。第1部で舞台裏を準備したことがここで効いてくる。

第3部「舞台を整える」は、人や心以外の物質的な側面。第1部と第2部を実践した上でなら大きな効果を発揮する。

紹介されている方策はいずれも具体的だ。すぐにでも始められるし、積み重ねていけばいままでとまったく違ういい世界が開けるはずだ。

最後にもうひとつ。もしまだ未読なら、同じくカーマイン・ガロの『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』と『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』も読んでほしい。どちらも、仕事や生活を大きく変えられる良書だ。一度きりしかない人生を驚異シリーズで実り多いものとしてほしい。

2012年12月
井口耕二

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