収入を目標に展開したら……
先日、ツイッターで関根マイクさんが(↓)のようなツイートをされました。
僕はずっと前に客単価を上げて、払える客だけを相手にする決断を下しました。体を壊さずに長く活動していくにはそれしかないと悟ったからです。ツールで作業効率化といっても、この仕事で大量生産は無理。だから戦略もなく低レートで淡々と翻訳してる人をみると大丈夫かなあと思います。
マイクさんはこういう破壊力抜群のツイートをすることがときどきあります。このときも、通翻クラスターで意見が飛び交ういい意味で大騒ぎになりました。
詳しくはツイートまとめ(↓)を読んでいただくとして……
このブログ記事では、収入を目標に展開するとしたらツールや展開方法などをどう考えるべきなのか、検討してみたいと思います。
ツイッターでの意見交換を見ながら、私はつい先日、知り合いの翻訳関係者と帰りの電車でふたりになったときのことを思いだしていました。
ふたりになったところで「最近、仕事はどう?」とたずねたところ、「翻訳って、品質高めて単価を上げ、工夫で効率を高めても限界があるじゃないですか……」と返ってきました。「うん、そうだねぇ」と応えましたが、その「限界」は人によって、どこでどういう翻訳をしているのかによって大きく違います。
ちなみにこの人は、「ITローカライズにおいて必要十分な品質の翻訳をできるかぎり高速で生みだす」といった方針で、機械翻訳、WordなどのマクロやWindows上のスクリプト、ゲーム用の補助キーボード、音声入力など、およそ考えられるかぎりの効率向上策を利用。効率は極限まで高めているとのことでした。10年近く前、イカロス出版のムック本に登場した時点でそういう話になっており、「新規翻訳で1時間あたり5~6千円の仕事ができている」、「年間売上は余裕で500万」といった紹介がされていました。
じつはそのとき、「極限までやって1時間5~6千円、年間500万強か。独身で若いウチはいいけど、その先はどうするんだろう」と思いました(雑誌登場時、独身で、年齢はおそらく30前)。その先、売上を増やしていく展開が思い当たらなかったからです。どころか、結婚して子どもができて……という人生を送る人が少なくないわけで、そうなったら売上はむしろ下がるはずで(子どもがいたりしたら、どうしても仕事時間が短くなります。まあ、人によるっちゃよるんですが)、奥さんが専業主婦だったりしたらきついだろうなぁなどと思ってしまったのです。
当時、展開が思い当たらなかった理由は、ツイッターにおける意見交換であった(↓)あたりのことを思ったからです。
(関根マイク氏)だから僕はツールを活用した作業効率化にあまり興味がないのです。それを根本から否定するわけではなく、効率性の限界が見えてるから「あ、そんなもんですか」と思ってる。それよりずっと難しい(でも楽しい)のが市場を読みながら次の戦略を考えること。というか、こっちの方がずっと大事です。
(Buckeye)一番狙うべきなのは「ハイエンドの市場+ツール効率化」なんじゃないでしょうか。片方だけにするなら「ハイエンドの市場」。だから、ハイエンドの市場に入れなくなるツールは排除すべき。
先日、一緒に帰った翻訳者は、「ローエンドの市場+ツール効率化」を推進していたというわけです。その人としては、翻訳で手っ取り早くお金を稼ぎ、自分が本当にやりたいと考えるもの(創作系のように聞いています)に時間を使いたいってことでした。だから、こういう方針になったのだろうなとは思うのですが(そしてそれに一理あるとは思うのですが)、ローエンドの市場で「品質高めて単価を上げ」てもたかが知れています。じゃあハイエンドの市場に進出して……って言っても、機械翻訳というローエンド向けのツールを使って仕事をしながらハイエンド市場に進出するのは無理です。結局、一生モノの職業としてはあまりいい道になっていないのでしょう(っていうか、そもそも一生モノの職業として取り組んできたわけではないはずですが)。
翻訳って、金銭的な成功だけがすべてではありませんし、目的も人によって異なるのが当たり前です。条件も人によって大きく異なり、フルタイムで仕事ができなければ金銭的に大きく成功するというのも困難でしょう。
でも、逆に、
- フルタイムで仕事ができる
- お金を稼ぐことを最優先目標としている
- 工夫や勉強の手間を惜しまない
という人が10年もがんばって、それで年間売上が1000万円に到達しないようなら、なにかをまちがえているんじゃないかと思います。マイクさんじゃないけど、収入を目標にいろいろと考え、目標に照らして正しい工夫をしていれば、1000万は十分に行くはずだ、と。
と言いつつ……新しい展開を工夫するにも、とりあえず普通に仕事を始めたとき、ある程度の余裕をもって食べられるようでないと難しいわけで……そういう意味で、最近の産業翻訳業界って、新規参入を勧めるのがためらわれる状態になってきてしまっているとも思います。
| 固定リンク
「翻訳-ビジネス的側面」カテゴリの記事
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 仕事にも「枠組み」がある(2014.08.12)
- 消費税の取り扱い(2012.10.10)
コメント
先日の日本経済新聞に以下のような記事がありました。今回の議論にも当てはまると思います。
今必要なのは、高額を支払ってでも欲しくなる付加価値の高い商品の供給である。(中略)。日本企業の中では、実に多くの人がコスト低減のために知恵を絞っている。それに比べ、売価アップのために知恵を絞っている人の数は比べものにならないくらい少ない。
『日本経済新聞』2012年12月26日(水曜日)朝刊17ページ「大機小機 デフレのミクロ的原因」
それと、まだ売れていない場合、報酬は安いけどハイエンドにつながる仕事を選ぶ必要があると思います。お笑い芸人で言うところの前説です。それだけでは食えないでしょうが、面白ければ認められ、実入りのいい仕事を掴める可能性があります。短期的にはバイトに精を出した方が稼げるでしょうが、それでは芸人として成功する日は来ません。成長につながる仕事を選ぶのが、基本戦略ではないでしょうか。
投稿: バックステージ | 2013年2月12日 (火) 22時57分
バックステージさん、
たしかに。
いろいろと難しい分野もありますけど、でも、売価アップのために知恵を絞ればそれなりの策が生まれるはずだと思います。自分が経験した範囲以外については、推測でしかものが言えませんけど。
投稿: Buckeye | 2013年2月13日 (水) 13時00分
すいません。せっかくですのでもう少し書かせていただきます。
ここでいう「ツール効率化」とは、訳文生成時間をより短くし、時間単価を高めるための試み、私が引用した記事で言うところの「コスト低減」でしょう。しかしこれだけでは、原文を理解し上質の訳文を生み出す能力の向上に直接つながりません。そして訳文の品質が変わらないなら、売価もアップしません。
成長につながる仕事の例を挙げます。私はここ何年か、短い記事の和訳をしています。提出してから数日後に、完成版が送られてきます。それを読むことで、誤訳に気づいたり、自分では思いつかない表現に気づかされたりすることが多々ありました。お金を貰って勉強できる、貴重な機会をいただいています。
それと「成長につながる仕事を選ぶ」のは、駆け出しだけでなくすべての人に当てはまるでしょう。Buckeyeさんが前に書かれていたように、「人は下りのエスカレーターに乗っている」わけであり、日進月歩の世の中で、成長しなければ訳文の質が落ちるからです。芸能人や作家(出版翻訳者や通訳も?)なら、アウトプットの質が低下してもネームバリューで仕事を得られるかもしれませんが、実務翻訳者だと干されるだけではないでしょうか。
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2008/05/post_c716.html
投稿: バックステージ | 2013年2月13日 (水) 13時26分
付言しておきますと、「質の低い訳文を以下に高く売るか」といった発想は、営業ではなくただの詐欺ですし、そもそも翻訳でそうしたやり方は成立しないでしょうから、除外してあります。
投稿: バックステージ | 2013年2月13日 (水) 14時26分
はじめまして、偶然、このサイトにたどり着き、少し文面を読ませていただき、上記の記述が気になりましたので、メールを差し上げました。私は、翻訳歴約30年のフリーランス翻訳者です。
・「極限までやって1時間5~6千円、年間500万強か。独身で若いウチはいいけど--」
・でも、逆に、
• フルタイムで仕事ができる
• お金を稼ぐことを最優先目標としている
• 工夫や勉強の手間を惜しまない
という人が10年もがんばって、それで年間売上が1000万円に到達しないようなら、なにかをまちがえているんじゃないかと思います。
先ず、「極限までやって1時間5~6千円」について。英訳であれば、10年ほどの経験があれば平均400wds前後/時間と理解しています。現在の相場である約2000円/時間(実際には1500~2000円がほとんど)として、1時間5~6千円であれば、500~600wds/時間となり、かなり翻訳速度が速い翻訳者の部類に入ると感じています。20年以上の経験がある当方の翻訳仲間でもこのレベルに達している方は極々少数です。仮に日産5~6000円とした場合、実働8時間/日x22日とすると、5~6000円/時x8x22 = 88~105.6万円/月となります。
経験的に、翻訳で「食っていける」ようになるのは、40~50代、それより以前の30代で食える翻訳者であれば、かなりの実力の持ち主と感じています。
そこで、「極限までやって1時間5~6千円、年間500万強か。」は、おかしな数字だと感じた次第です。上記の計算は、英訳の場合ですが、和訳の場合は、上記の数字は更に下がると思われます。和訳の現在の相場は1000~1500円/400字。平均作業速度は、10年ほどの経験者で平均800字/時間と理解しています。
次に、「10年もがんばって、それで年間売上が1000万円に到達しないようなら、なにかをまちがえているんじゃないかと思います。」について。
私も含め、当方の翻訳仲間で年収1000万円を超えている人は、日本翻訳連盟、日本翻訳協会の役員経験者もいますが皆無です。ほぼ全員が通常の翻訳会社から仕事を請けている翻訳者です。上記の通常の相場で「5~6000円/時x8x22 = 88~105.6万円/月」に該当する人は、かなり優秀な翻訳者だと感じています。何がまちがっているのかなと思う次第です。翻訳会社から仕事を請けるのが間違っているのでしょうか。
ご意見をお聞かせください。
投稿: マツゴロ | 2013年5月 1日 (水) 21時30分
翻訳で活躍するためには、「自分を他の翻訳者と差別化」するためにいかに
知恵を絞るかが大きく作用するように感じられます。
私の翻訳者仲間には、次のような翻訳者がいます。
1. 契約書の英訳を専門にする翻訳者
2. 原子力の英訳を専門にする翻訳者
3. 特許明細書の和訳を専門にする翻訳者
4. 医療、自然科学の和訳を専門にする翻訳者。
バックグランドを簡単に書きますと、
1.企業内で海外の企業との契約を扱う部署に在籍し契約書の英訳を専門にして
定年前に退職・独立。以来、契約書英訳主体。
2.会社退職後に学習塾を経営。その後、原子力・土木関係の文書の和訳に従事した後に現在は原子力関係の英訳主体。
3.学習塾講師、印刷会社社内翻訳者の後に独立。当初は機械英訳・和訳、契約書和訳であっ
たが、その後、約10年前から特許和訳も開始。現在は、特許明細書和訳主体。
4.大手船会社を定年前に退職・独立。外大卒。20代後半に知人より医療文書の翻訳を依頼されて以来医療関係の翻訳を経験。定年間際での翻訳開始にも関わらず、独自の方法で顧客(翻訳会社)開拓に成功。一貫して和訳に従事。
全員、特定の分野を専門として、「お得意さん」的な特定の翻訳会社があり、ほぼ常時、仕事を請けています。が、全員、年収1000万円には達していません。この点はあまり気にしていないようです。その理由は後ほど。
単価は高いほうが魅力的ですが、単価の高い仕事は頻繁には来ません。自己開拓、コネなどなんらかの方法で、高単価の仕事を手配してくれる翻訳会社、又は「直」の会社を掴めば、それはラッキーですが、頻繁に起こることではなく、「ないものねだり」になる恐れがあります。
長年の経験から、『専門とする「特定の分野」をもち、自分(自分の翻訳)を気に入ってくれる「お得意さん」を1社でも多く確保すること』、更に極論するならば、『自分(自分の翻訳)を気に入ってくれるお得意さん探し』が『翻訳者として生き残るコツ』のように感じています。
翻訳の場合、ベテラン翻訳者の言葉を借りると、「どんな分野でも対応」は、「どんな分野でも浅く対応」→「どんな分野でも浅くしか対応できない」ということだそうです。
専門とする「特定の分野」がなければ、場合によっては、翻訳会社、依頼主には都合がよい「英語の便利屋さん」になる恐れがあるような気がします。
専門とする「特定の分野」がなければ、また、翻訳技術の向上が望めない恐れがあるような気がします。
自分(自分の翻訳)を気に入ってくれる「お得意さん」については、聞いた話ですが、「特許は不況に強い」といわれていますが、これまでの不況でわかったこととして、「実力のある」特許事務所、翻訳会社に登録されていなければ「仕事が来ない」ということでした。
また、「大手な翻訳会社」、「よく知られている翻訳会社」よりも、あまり知られていない翻訳会社、小さな翻訳会社で自分の翻訳を気に入ってもらえると仕事が来るようになる、というメリットがあります。これは、上記の4名の翻訳者の共通点です。
現在は、翻訳会社の中には、翻訳者外注化、チェッカ外注化、更にはコーディネータ外注化(契約社員化)に進む傾向があり、翻訳会社自体、社内に翻訳のプロがいなくなりつつあるような感じがあるようです。
翻訳の場合、品質が最も重要であり、更に、速く翻訳できることが作業効率を大きく伸ばすコツのような気がしています。上記の翻訳者は、翻訳の方法はそれぞれ異なりますが、やはり品質に常に気を配っています。現在はインターネットで調べようと思えばいくらでも調べることができ、訳語、専門用語の「裏」を取らないで、実際には通用していない「うその訳語、専門用語もどき」を平気で使っていると命取りになるようです。
上記の翻訳者の作業方法は、
1. 直接キーボードで入力しながらという作業方法。
2. 原稿をデータ化して次々に「日本語」を「英語に」、「英語」を「日本語」に置き換えながらという作業方法。
3. 徹底した短縮入力と国産「翻訳ソフト」を100%使用しながらという作業方法。
4. 通常の直接キーボード入力と、必要に応じて国産「翻訳ソフト」を使いながらという作業方法。
Trados系の翻訳支援ソフトを使用していないのは、部分的に「翻訳済み」に置き換えるだけでその分入力の手間が省けるものの、結局は「手入力による翻訳の延長」に過ぎないということからのようです。
また、Trados系の翻訳支援ソフトを指定する翻訳会社を、上記の翻訳者の中には、翻訳の品質よりも「金額、単価」を抑える、つまり、「翻訳者への支払い金額をいかに少なくするか」を重視する会社という判断基準にしている翻訳者もいるようです。
翻訳ソフトを使用すると、自分が「チェッカ」になり、訳文は自動的に全て日本語になっているので入力をする必要がなく、表示されている日本語を入れ替える、書き換えるか、言葉を追加する、削除する作業が主体となり、記号、符号、数字の入力が不要になったりして、手がすごく楽になるとのことです。こまめな「単語登録」と、翻訳ソフトの「クセ」を知って、「翻訳ソフトを育てていく」ことが肝要とのことです。かなりのスピードアップを達成しているとのことです。
上記の翻訳者たちは、50~75歳。ほとんどが60歳を過ぎており、年収よりも、仕事の継続を重視しているようです。若い翻訳者の方々には、「60歳すぎても仕事が来るようにする」ことも、「翻訳者として生き残るコツ」になるようです。
ご参考になれば幸甚です。
投稿: マツゴロ | 2013年5月 2日 (木) 00時44分
マツゴロさま、
ふたつめのコメントについては、私もだいたい同じように考えていますし、このブログのあちこちに似たようなことを書いています。
「勝ち残る翻訳者-高低二極分化する翻訳マーケットの中で」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2005/10/post_2fde.html
「規模による翻訳会社の違い-翻訳者から見た場合」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2008/07/post_62e9.html
「機械翻訳をツールに使うと誰が喜ぶのか」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2009/11/post-aa50.html
なお、「機械翻訳ソフトをツールとして使っている人がいる」ことは知っていますが、一般的に、機械翻訳ソフトは翻訳者としての成長を妨げるツールであり、使うべきではないと考えています。そのあたりについては(↓)をどうぞ。
「機械翻訳ソフトは自分のコピー?」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2009/11/post-86a8.html
で、ひとつめのコメントについてですが……
「極限までやって1時間5~6千円」関連で「おかしな数字だと感じた次第です」と書かれていますが、なにがどうおかしいと思われたのでしょうか。「英日の翻訳で1時間5~6千円という時間単価は無理」ということでしょうか。それとも、「1時間5~6千円なのに年間500万強なのはおかしい」ということでしょうか。
前者であれば、実現は十分に可能ですし、この記事に登場した人物がそのくらいを実現しているであろうことは、私もよく知っています。
後者なのであれば、それは、計算方法のほうがこの人物の実態に合っていないということでしょう。インタビュー記事のなかに時間単価と年間売上が出てきているわけで、このふたつの数字は実態を表すものであるはずだからです。要するに、この人物の場合、年間コンスタントに毎日8時間、翻訳作業をするという形にしていなかったということなのだと思います。
「10年もがんばって、それで年間売上が1000万円に到達しないようなら、なにかをまちがえているんじゃないかと思います」のほうについては、マツゴロさんやマツゴロさんのお知り合いの場合、特にまちがってはいないのではないでしょうか。
マツゴロさんが引用された私の考えには、本文中に書いたように、下記の前提があります。
・フルタイムで仕事ができる
・お金を稼ぐことを最優先目標としている
・工夫や勉強の手間を惜しまない
マツゴロさんのお仲間の場合、ふたつめのコメントの最後に書かれたように「年収よりも、仕事の継続を重視している」のですよね。あとふたつの前提条件がどうなのかはわかりませんが、少なくとも、ひとつは前提が違っているわけです。
前提が違えば、結果が違うのはあたりまえでしょう。
投稿: Buckeye | 2013年5月 2日 (木) 16時05分
もうひとつ、ちょっと気になった点についてコメントしておきます。
マツゴロさんは「仮に日産5~6000円とした場合、実働8時間/日x22日とすると、5~6000円/時x8x22 = 88~105.6万円/月となります」と書かれています。マツゴロさんにかぎらずこういう計算をされる方が多いのですが、これはあまり現実的な計算ではないと私は思います。
月間26日とかではなく、週休2日ベースである分、それなりだとは思いますが、でも、祝祭日や盆暮れの休みに相当する部分が考慮されていません。そのくらいの休みは必要だから、祝祭日や盆暮れのといったものが存在するのであり、時期はともかく、そのくらいの休みは取る前提でスケジューリングするのが本来だと思うわけです。
また、1日の稼働時間を8時間にしている点も気になります。翻訳作業そのものを8時間やろうとすると、会社員の出社から退社に相当する時間としては、少なくとも10~11時間が必要になります。メールなどの関連業務に意外なほど時間をとられるものですし、お昼を含めた休憩時間も必要になりますから。月間50~70時間程度の残業に相当する時間ですね。
さらに、この計算だと、将来に対する投資の部分がありません。勉強その他で強みを作る、新しい展開を考えてやってみるなどの部分です。会社でも、お金を稼ぐ仕事ばかりでなく、将来に向けた仕事をしている部分が必ずあります。少なくとも、一部の社員はそういう仕事をしていたりします。我々のような個人事業はすべてを自分でやるわけですから、将来に対する投資の部分も仕事時間に算入すべきだと私は思います。マツゴロさんのお仲間の場合、「年収よりも、仕事の継続を重視している」とのことですから、この部分は不要なのかもしれませんが、一般論としては必要です。
もう1点、この計算で気になったのは、稼働率です。1日8時間のフル稼働がずっと続く計算になっていますが、現実の稼働率は上下しますし、ある程度以上重なれば断らざるをえないので平均したとき100%を切るのが一般的でしょう。
投稿: Buckeye | 2013年5月 2日 (木) 16時35分
Buckeye様
コメント、ありがとうございます。
ご指摘の点のひとつにつきまして。
【引用】---------------------------------------------
「仮に日産5~6000円とした場合、実働8時間/日x22日とすると、5~6000円/時x8x22 = 88~105.6万円/月となります」と書かれています。
【引用】---------------------------------------------
これは、あくまでも話を進めやすくするために一般的なものとして例示したものです。
さらにもう1点につきまして
【引用】---------------------------------------------
この計算で気になったのは、稼働率です。1日8時間のフル稼働がずっと続く計算になっていますが、
【引用】---------------------------------------------
これも、上記と同様の理由です。フリーランス翻訳者の強みは、「自分の都合に合わせてスケジューリング可能」という点です。最終的は、常に「納期」を意識してさえいればいいわけですから、実働時間は、平日を休日にしたり、またその逆など、変幻自在といったところです。
それから、もうひとつ。
【引用】---------------------------------------------
①
。「英日の翻訳で1時間5~6千円という時間単価は無理」ということでしょうか。
②
それとも、「1時間5~6千円なのに年間500万強なのはおかしい」ということでしょうか。
【引用】---------------------------------------------
まず、順番が前後しますが、②については、ご説明
【引用】---------------------------------------------
この人物の場合、年間コンスタントに毎日8時間、翻訳作業をするという形にしていなかったということなのだと思います。
【引用】---------------------------------------------
により、理解できました。
①については、「ITローカライズにおいて」を見落として、しかも、英訳の場合で、エージェントベースの一般的な相場2000円/200wdsで例示したものでした。英日の場合、「1時間5~6千円」は、エージェントベースの現在の英日相場1000~1500円/400字では、訳仕上げA4-1ページ400字ベースでは、5~4枚/時間となり、少し速めの翻訳速度だと思われます。が、少なくともBuckeyeさんの場合、プロフィール情報から「直」のお仕事が中心とのこと、高単価でのお仕事が中心のようですのでこの枚数を下回るということを考えれば、十分に可能と判断できます。
今回の当方のコメントアップに対して、早々のコメント、ありがとうございました。
投稿: マツゴロ | 2013年5月 2日 (木) 17時40分
マツゴロさま、
GW後半は家族で山に入っていたもので、お返事、遅くなりました。
>少なくともBuckeyeさんの場合、
>プロフィール情報から「直」のお仕事が中心とのこと
本文で書いているのは、私の知り合いについてであって私についてではありませんし、その知り合いの話から演繹して一般論を語っているわけです。つまり、翻訳会社経由の仕事が主体でも1時間5~6千円というのは十分に可能ということです。
仕上がりベースで時間4~5枚というのはマツゴロさんが書かれているように「少し速めの翻訳速度」ですが、逆に言えば、「少し速めにすぎない翻訳速度」であってそれなりの割合の人が到達できるレベルということになります。
もちろん、なにをどう訳すのか次第という面もありますし、誰でも実現できるというわけではありませんし、そういうスピードを目標にすべきという話でもありません。
投稿: Buckeye | 2013年5月 8日 (水) 13時45分
Buckeyeさま、初めまして。学術翻訳をしております、原田と申します。
私は、現在38歳です。キャリアは5年です。学術の日英翻訳でトップクラスの翻訳をすることで、年収500万から800万を目指していますが、正直、結婚はむずかしいと思っています。
…つまり、翻訳者は、独身前提の職業ではないかと。
学術でレートを上げるためには学位論文を提出するのが前提ですが、生活の中ではペイの出る仕事に専念せざるを得ない現実もあります。まさに、ご指摘のとおりです。
私の現在の考えでは、生活全体のバランスを崩しても仕方がなく、年収800万円のクラスには入らないと仕方がないけれども(淘汰されてしまいますので)、それが1,600万円になったところで、使い道のないお金、なのですが、どこか間違った考え方でしょうか。
ご教示を頂けますとさいわいです。
投稿: Takuro Harada | 2013年11月27日 (水) 05時23分
原田さん、
お金がいくら必要なのか、余るほどあったときそれをどう考えるのかなどは、各人の状況や価値観によるので、なにが正しいとかまちがっているとか他人に言えるものではないと思います。1,600万円うんぬんというのは、原田さんにとってこうだという想いがあればそれが原田さんにとっては正しいということでいいのではないでしょうか。
>…つまり、翻訳者は、独身前提の職業ではないかと。
ここについては、yes and noとお答えしたいですね。
曲がりなりにもプロとしてやっていけるレベルに到達した人であれば、ひとり分の食い扶持を稼ぐのはそれほど難しいことではないと思います。まじめに一生懸命だけでそれなりになんとかなるはずです。
ただ、その先、それこそ、お申し越しのように結婚して妻子を養うレベルで稼げるかとなると、「やり方によって可能な場合もあれば不可能な場合もある」となるでしょう。「そのレベルで稼げるなんて信じられない」という人たちもいますし、その人たちにとっては翻訳というのはそういう世界なのだと思います。一方、現実に、一家の大黒柱としてひとりで妻子分を含めた家計を支えている人も少なからずおられます。
金額的な話は(↓)を読んでみてください。
「産業翻訳者の現実的な収入はどの程度か」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2009/06/post-892c.html
別の計算方法としては……英日で2000 ワード/日×20日/月の月産4万ワード/月、年間50万ワードくらいというのは、少なくともフルタイムで仕事をしている中堅プロ翻訳者なら無理なくできる人が少なくないはずです。これで、レートが翻訳会社経由のレートとしてもどちらかと言えば低めの10円/ワードだったとしても年間売上500万です。
一方、会社員と比べて全体的に稼ぎが少なめだということが現実としてあります(↓)。
「会社員と翻訳者-収入の比較」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2008/05/post_70d0.html
「会社員の給与について」
http://buckeye.way-nifty.com/translator/2010/05/post-b0cc.html
そのあたりをもって「独身前提の職業」と言えないことはないかもしれません。少なくとも、自分に適した工夫をせず、こつこつやっているだけだと、よほど運がよくない限り、会社員より稼ぎがかなり少なくなり、結婚して妻子を養うのは難しい、と。
投稿: Buckeye | 2013年11月28日 (木) 17時28分
Buckeyeさま、
丁寧なご返信をいただき、ありがとうございます。
実は、今月初めに、週40時間勤務で、月に60万円、というレートでのフリーランス契約の打診を海外拠点の翻訳会社さまに受けたばかりでした。会社さまには気に入っていただけましたが、クライアントの方のゴーサインが出ずに、このお仕事はお受けできませんでしたが…
私は昔は公務員として勤務しておりました。ですから、フリーランスと公務員では、結婚をはじめとして、あれやこれやの社会的条件がまるで違うことは、数字でも感覚でもわかるのです。
ですから、今のところは、ライフスタイルを工夫して、生活自体を楽しむことで、翻訳者としての生活をまっとうしたい、と思っています。
でも、まだまだ38歳の翻訳者です。これから、どういう仕事上の工夫をするか、あるいは、大きな仕事を任されるためのステップアップをするか、それは未知数です。
例えば、ノンフィクション書籍の翻訳は、私の年来のロマンでした。ノンフィクションと学術のミックスで仕事を回し、つましい生活をして、子どもを作らなければ、結婚はできるかもしれません。そういうことを考えております。
ありがとうございました。
原田拓郎
投稿: Takuro Harada | 2013年11月28日 (木) 19時42分
原田さん、
そうですね、翻訳者としてどのような展開になるのかもまだわからないわけですし、結婚うんぬんもお相手次第というか、相手も一人前稼いでいるなら原田さんの稼ぎが一人前でも大丈夫でしょうし。とにかく、原田さんがなりたいと思われている翻訳者になれるように努力されていくのが一番なのではないでしょうか。
ちなみに……ノンフィクション書籍の翻訳、お金にはなりにくいですよ。やっている私が言うのもなんですが。書籍の場合、大半はワード5円とか10円にしかなりませんし、手間は産業系よりずっとかかります。つまり、時間単価では産業系の1/3くらいにしかならないケースがざらにあるんです。宝くじと一緒で当たれば大きいこともありますが、普通は当たりませんから。
投稿: Buckeye | 2013年11月28日 (木) 20時46分
Buckeyeさま
なるほど、それは、ノンフィクションは、お金にはなりづらい計算になりますね。そこまでとは思いませんでした。手間もかかると思います。ロマンの世界ですね…
一人前に稼いでいる女性に、ちゃんと認めてもらえる翻訳者、と書くと、抽象的で、データも根拠もない書き方になりますが、そういうものを目指すべきなのかな、と思っています。
実際、年収600万円以上の女性との交際が始まりかけているところです。ちゃんとおつきあいができる職業人になりたいと思っています。もちろん、そこに収入の要素は必須です。
投稿: Takuro Harada | 2013年11月28日 (木) 22時02分
Buckeyeさま
補足です。
ひと晩眠って考えてみましたが、私は仕事において、日英翻訳の技術を買っていただくことが多いです。翻訳学校でも、日本語表現力よりも読解力のほうを評価していただいていました。
つまり、私は「英語力」を買っていただいている翻訳者です。
加えて、日英のリライトのお仕事を依頼していただくこともあります。
以上から、得意分野である日英翻訳の技術を磨くこと、また、リライトに求められる論理力や解釈力をより確かなものにすることを当面の目標にしたいと思います。
出版翻訳と比較すると、世間の皆さんには認知されがたい翻訳ですが、こちらのほうがレートは高いです。
ここを確かにしてから、自分にとってのロマンであるノンフィクション書籍を目指したいと思います。
一抹の寂しさは気持ちのうえでありますが、こうした翻訳者を、自分の目指す翻訳者として設定したいと思います。
ご指導、ありがとうございました。
原田拓郎
投稿: Takuro Harada | 2013年11月29日 (金) 05時39分
原田さん、
自分の強みというのは、他者と比較した相対的なものなんですよね。そういう意味で、「買ってもらっている」というのは、そこが強みだという証拠なわけで。そのあたりをまずは充実させていくというのが、当面の方針としては正しいだろうと私も思います。
そこがある程度充実したら、あるいは、そういうことをしている途中で新たな状況が生まれてきたら、そのときまた、どうするかを考えればいいのだと思います。
投稿: Buckeye | 2013年11月29日 (金) 11時39分