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2013年2月13日 (水)

自分の翻訳の市場価値

自分の翻訳、市場価値はどれほどだと考えていますか?

あまりに漠然としているので、もう少し具体的にしましょうか。

いま、翻訳会社への売値が英日15円/wordだったとしましょう。その翻訳の「市場価値」はいくらでしょう?

ありうる回答は(↓)くらいに大きく分けられるのかなぁと思います。

  • 15円/word
  • 20~25円/word
  • 30円/word前後
  • 30円/word超

翻訳の品質によっても違うので一概には言えませんが……最近のレート事情において15円/wordで翻訳会社に売っている人なら、30円/word前後の市場価値があると考えていいはずです。翻訳会社の場合、仕入れが15円/wordなら売値は30円/word前後ですからね。

いやいや、自分はいつも15円/wordで売っているのだから、それが市場価値の実績だ……そういう考えにも一理あるでしょう。でも、そこで見ている「市場」は翻訳者と翻訳会社で構成された業界市場であり、業界市場における価値は、世の中一般で考える市場価値ではありません。「洋服の市場価値はいくらか」と聞かれたら、みなさん、なにを思います? 店頭における実勢価格、自分(消費者)がいくらで買えるか、ですよね。メーカーからの卸価格を思い浮かべる人はいませんし、メーカーからの卸価格で買える方法があるとは思いませんよね(アウトレットなどの販売価格も卸価格よりはずっと高い)。

洋服の場合、市場価値の一部分が営業を担う小売店の取り分、残りが卸であるメーカーの取り分となるわけです。翻訳も同じ。市場価値の一部分が営業を担う翻訳会社の取り分、残りが卸である翻訳者の取り分となるわけです。

余談ながら……「右から左に流す翻訳会社はやらずぼったくりだ」みたいな議論をよくみかけますが、そんなことはありません。そういうなら、小売店はみんなやらずぼったくりになってしまいます。お客さんとコネクションがあるだけで儲かるのはおかしい? じゃあ、立地がいいから売れている小売店はどうなるんでしょう?

いやいや、洋服と翻訳は違う、翻訳会社は内部でチェックなどもするのだから、その分、自分の翻訳の市場価値は低く、せいぜい20~25円/wordくらいだろう……そう言う人もいるでしょう。翻訳会社がチェックしたら品質が一段あがるレベルのものしか出せていないと実感しているのであれば、それはそうなのかもしれません。

でも、昨今のレート事情において15円/wordで翻訳会社に売っているということは、各翻訳会社においてトップクラスに近い翻訳者であるはず。であれば、翻訳会社では、訳抜けくらいしかチェックせずに客先に納品していたりするはずです。「翻訳会社にとっては、訳抜けチェックだけで納品できる翻訳を上げてくれる翻訳者が飯のタネ」と翻訳会社の人たち(複数)から聞いていたりしますし。

8円/wordとか5円/wordとかで翻訳会社に売っている場合、完成品市場における価値は限りなくゼロに近いことも考えられます。素材としての価値しかないってことです。

チェックの有効性も考えておく必要があります。

人間にはまちがいがつきものなので、ダブルチェック、トリプルチェックはないよりあったほうがいいはず……でしょうか、本当に。私は、ダブルチェック、トリプルチェックのやり方次第だと思います。ダブルチェック、トリプルチェックでミス発見のみが行われるのであれば、ないよりあったほうが質は高くなるでしょう(コストパフォーマンスがいいか悪いかは別の問題)。でも、現実には、ダブルチェック、トリプルチェックでミスが増える、改悪になるというケースが少なくありません。しばらくプロ翻訳者をしていれば、返ってきたフィードバックや、ネットに公開された最終的な文書を読んで、あぜんとした経験があるはずです。

言い換えると、翻訳会社があいだに入らないほうが価値が高いケースもあるということです。後工程の問題だけでなく、あいだがなくなった結果、風通しがよくなり、使用目的に即した訳文が納められるケースや、あいだがない分、納期が短くなるケースも考えられます。発注元から見れば、いずれも価値があがる話であり、そういうサービスが提供可能で、その点を訴求できれば、「30円/word超」が市場価値だと言えることになります。ここまでできれば、直請けでソースクライアントといい関係を築き、いい仕事ができるでしょうね。

■断られたら……

こういう話をすると、「いや~、言いたいことはわかるけど、断られたら元も子もない」という感想が返ってきたりします。その気持ち、よくわかりますよ。私自身も、新規の取引先と話をするとき、同じことを思いますから。

でも、ですね、断られない料金ってホントの市場価値じゃないですよね。それは高いと買わない人もいれば妥当だと買う人もいる。人によって評価が違い、需給のバランスがとれるポイントが市場価格なわけですから。たぶん買ってもらえるというレベルの価格は「割安価格」、ほぼ全員が買う価格は「超特価」でしょう。

料金を提示して「高い」と断られたこと、ありますか? 断られた経験がある人は、どのくらいの割合で断られていますか? 断られた経験がない人、めったに断られない人は、まだ、自分の市場価格がよくわかっていないと言えるでしょう。

さらに言えば……断られたらそれで終わりではありません。そこから落としどころを探ることだってできます。逆に、割安価格だろうがなんだろうが、必ず値切ってくる相手もいます。価格の絶対値ではなく、「値切って~円安くさせた」を求める人もいるのです。最初からぎりぎりの安値を提示していたら、そこから引かされたこちらは不満が募ります。また、そういう状況ではあまり大きな値引きに応じられるはずもなく、向こうも「あまり値引きできなかった」と不満足になったりします。逆に高めに提示して値引きすれば、こちらはそれなりに高めの価格で満足、向こうは値切れて満足のwin-winになる可能性もあるわけです。

■まとめ

そもそも翻訳の力がなければどうにもならないわけですが、そういう力を付けた上でなら、「営業力」というかビジネスマインドというかがあれば状況を大きく変えられる可能性があります。先日のセミナーでも話をしたのですが、「まずは翻訳力。翻訳力があった上で営業力を身につければ鬼に金棒。鬼は鬼だけで脅威になるけど、金棒をネズミに持たせても怖くない」わけで。

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コメント

ご意見、すべて賛同です。

私は、仕事の打診や、高いレートは、なぜかキャリアのスタートラインからいただけてしまう不思議で、ありがたい状況におりますので、翻訳力や、ダブルチェックの技術を磨きたいと思います。

…なにぶん、スローペースなタイプですので、徐々に、徐々に、ですが。(*^-^)

投稿: Takuro Harada | 2013年11月29日 (金) 11時16分

原田さん、

> 私は、仕事の打診や、高いレートは、なぜかキャリアの
> スタートラインからいただけてしまう不思議

それは、実力もあれば運もあるということですね。そのあと、うまく展開できればかなりいい形になるんじゃないでしょうか。

ご健闘をお祈りします。

投稿: Buckeye | 2013年11月29日 (金) 11時45分

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