消費税の取り扱い
消費税は、特に我々翻訳者のような零細事業者の場合、もらえたりもらえなかったりといろいろだったりするようです。「課税売上高が1000万円以下のいわゆる『消費税の免税業者』には消費税を払わない」と明言している翻訳会社も少なくありません。
このあたり、世間的にはいろいろと誤解されているようなので、簡単にまとめてみたいと思います。
実は、このあたりを知り合いに説明しなければならなくなり、ざっとまとめたので、ブログのほうにも投稿することにしました。前々から書かなきゃ、書かなきゃと思ってのびのびになっていたのでm(._.)m
■原則論
消費税は当然にもらうべきものです。もらう(正確には「預かる」)のが法律の規定ですから。
電話代、電気代、パソコン代、書籍代などなど、経費の支払いでは、我々翻訳者も消費税を払っています。もらっていなければ出ていくだけです。
課税売上高が1000万円以下なら消費税の申告が不要ですが、それは、小規模事業者に対する国の温情のようなもの。法律で認められた権利なのですから、どうどうと行使すればいいだけのことです。
ごくおおざっぱに言えばこういうことになるのですが、もう少し、基本的な仕組みも含めてまとめみます。
■消費税の基本的な仕組み
事業者にとって、消費税は(↓)のような仕組みになっています。
(物品・サービスの対価に対して預かった消費税)-(仕入れ・経費で他者に預けた消費税)=(国に納める消費税)
ただ、消費税の処理はいろいろと面倒なため、小規模事業者に対しては、国から各種の優遇措置が講じられています。まず、売上が一定レベル以下であれば簡易な方法で税額を算出してもかまいません(基準期間の課税売上高が5000万円以下)。また、売上がさらに少ないレベル以下であれば、国に納める部分が免除されます(基準期間の課税売上高が1000万円以下。いわゆる「消費税の免税業者」ですね)。
法的には、消費税の免税業者と呼ばれる事業者に対しても消費税は支払わなければなりません。免税というのは、あくまで、国が小規模事業者に対して講じている施策だからです。また、消費税の免税業者であっても、仕入れ・経費では消費税を支払わなければなりません。売上側で消費税を預かれないと、上記の式で計算結果(国への納付額)がマイナスになるという、制度上、ありえないことが起こります。
■社会で現実に起きていること
現実には、消費税の免税業者となるような事業者は零細で力がないため、消費税の免税業者には消費税を払わないというケースがよくあります。このあたりは「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」でも禁じられているのですが、現実にはよくある話です。
参考-消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え方(抄)(公正取引委員会)
1 下請代金の額について
「親事業者が製造委託又は修理委託をした場合に下請事業者の給付に対し支払うべき代金(下請代金)」(下請法第2条第6項)の額とは,消費税率の引上げ後においては,「下請事業者が負担する税額相当分を含んだ額」をいいます。
消費税等は,対価を得て行う資産の譲渡等(商品や役務の供給等)を課税対象とし,これらの取引の各段階で課税されるものです。下請法は,物品の製造委託や修理委託を下請取引として適用の対象としていますので,親事業者と下請事業者との下請取引は当然消費税等の課税対象となります。
なお,下請事業者の中には,消費税等の納税義務を免除されるものがありますが,このような下請事業者であっても,他の事業者から仕入れる原材料や諸経費の支払において,税額分を負担していることに留意する必要があります。
また、先日、とある取引先(仕事内容は当然ながら翻訳です)について、経産省から「親事業者との取引に関する調査」という調査を受けたのですが、可能性のある問題点として列挙されている中のひとつ、設問4-イは「親事業者は、下請代金から消費税相当分を差し引いた」となっていました。
参考-「親事業者との取引に関する調査を実施します」(経産省)……ここの「設問」というリンクをクリックすると、調査内容が確認できます。
消費税の不払いは現実に法律違反が多い問題だからこそ、こういう調査が行われているのでしょう。
■結局、どうすればいいのか
まずは、法律的な問題をきちんと説明して、「だから払ってください」とお願いするのでしょう。
説明しても払ってもらえない場合は……いろいろとパターンはあり得るのですが、それはまた後日まとめてみたいと思います。
いずれにせよ、どのような話になったのかは、少なくともメールで確認しておくくらいのことはしておくべきです。もとからメールでやりとりしていたのなら、そのスレッドを残しておけばいいですし、電話でやりとりしたのなら、「先日のお電話で~という話になりましたね」とメールにまとめて送っておくわけです。
| 固定リンク
「翻訳-ビジネス的側面」カテゴリの記事
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 仕事にも「枠組み」がある(2014.08.12)
- 消費税の取り扱い(2012.10.10)
「翻訳-業界」カテゴリの記事
- 私が日本翻訳連盟の会員になっている訳(2019.02.27)
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 翻訳者視点で機械翻訳を語る会(2019.01.23)
コメント
「売上」が複数の意味で使われていたので、もう少し正確に書きなおしました。
(売上に対して預かった消費税)
↓
(物品・サービスの対価に対して預かった消費税)
投稿: Buckeye | 2012年10月10日 (水) 20時26分