「翻訳者の営業方法」@JTF翻訳祭2011
JTF翻訳祭2011で話した自分のセッションについて、補足その他、簡単にまとめておきます。
他のセッションについてのレポートは、「JTF翻訳祭2011参加レポート」をご覧ください。また、ツイッターに流れた実況中継をまとめたページもあります。そちらも参考にどうぞ。
■「翻訳者の営業方法」
(中級者以上の翻訳者向け)
会場は時間には満員で立ち見の人が出るほどでした。少し遅れてきたら満員で入れなかったという話もあとで聞きました。
内容は、乱暴にまとめれば、「自分の強みをよく考え、その強みを高く買ってくれるクライアントをさがしましょう」というところでしょうか。強みは人それぞれ。クライアントのニーズはクライアントそれぞれ。統一的な話にはなりようがないので、去年に引きつづき今年も、「自分の場合はどうなのか」を参加者に考えていただくことをセッションの目的としました。というわけで、これまた去年に引きつづき、配付資料はなし。キーワードとか、会場に聞く質問に対する答え(選択肢)とかしか書かれていないのですが、ともかく、先が読めるかもしれないものは渡さないほうが考えるにはベターだと思いましたので。
セッションは、参加者にいろいろと聞いて挙手で答えてもらいながら進めました。
「仕事に満足か不満か」に対して、4対6くらいで少なめとはいえ、「満足している」と答えた人が多いのは少々意外でもあり、うれしいことでもありました。お金と時間をかけてまでああいうところに出てくる人というのは、それなりに考えていたり努力をしていたりする人が多いので、満足している割合が高いはずではありますから。
不満の原因については、(↓)でほぼ網羅しているようです。「これ以外の人」と聞いてみても手が上がりませんでした。
- 仕事量が少ない
- 単価が安すぎる
- やりがい・貢献感がない
- 仕事がおもしろくない
- 成長がない/先々が不安
- 忙しすぎる
ちなみに、「仕事に満足か不満か」で「満足」に手を上げたのに、こちらの選択肢でどれかについ手を上げてしまった人もいたそうです(ブログだったかツイッターだったかでそう書いている人がおられました)。
基本的に不満が解消できれば満足するはずなので、そちらに向けて動くわけですが……根本原因が同じものをまずはまとめると、結局、(↓)のふたつに集約されます。
- 単価が安すぎる
- やりがい・貢献感がない
単価は発注側と受注側の相対で決まります。この両者が合意さえすればその単価が成立するわけです。成立した単価がいわゆる世間相場に対して高かろうが安かろうが、そんなものは問題になりません。発注側がなにがしかの価値を認め、それに対してこれだけ払うと言い、その値段なら、求められる価値を提供しようと受注側が言えばいいわけです。言い換えれば、「強み」に価値を見いだしてくれるところなら高く買ってくれることになります。また、そういうところとなら、「強み」を頼られていると感じられる仕事ができて、やりがいや貢献感も得られるはずです。
結局、翻訳者の営業としてすべきことは、「自分の強みに対して価値を見いだしてくれるところを探す」になります。
この「強み」を考える場合、「相手の立場に立って考える」ことが大事です。
翻訳会社を通さないソースクライアント直取引をしている人に、翻訳会社が売っている値段以上で売っているかどうかを聞いたところ、直取引をしている人の1/3くらいしか手が上がりませんでした。逆に言えば、残り2/3は、ソースクライアントに対して「安さ」を価値として提供していることになります(ほかの価値も提供しているかもしれませんが)。この場合、翻訳会社における品質管理などがないからとか、一般にいろいろと「直取引が安くあるべき理由」というのが語られています。じゃあ、「直取引が高くあるべき理由」はないのか。あるんです。たとえば「必ず同じ人が訳す」から品質が安定する。大急ぎの案件の場合、直なら1時間で納品できるものが、翻訳会社がワンクッション入っていると2時間かかったりします。この1時間が大きな違いを生むなら、直取引のほうが翻訳会社の売りよりも高くていいはずです。
結論としては……「このあたりも含め、条件も価値もすべては相対で決まるので、よく考えて売りこみましょう。なにがどう大事なのかは個々人で異なるので、自分についてはどうなのか、よく考えてみましょう」……そんなところになります。
ある程度、いろいろと考えてやっている人にとって、今回の話は、ある意味、常識的なことしか言っていないはずです(そういう感想をツイッターでつぶやいておられた方もいます)。営業ってそんなものだと思います。少なくとも私は。現実と違うことを口先だけ並べてもすぐにバレて関係が長続きしませんし、やりがいとか貢献感のある仕事に発展しません。いろいろと戦略をたてて地道な努力を続ける、できれば、短期的な戦略や長期的な戦略を考え、まいたタネから芽が出るのをじっくり待つくらいのつもりでやるべきものだと思います。
そうそう、ツイッターに流れた実況中継をまとめたページに書かれているつぶやきで、ひとつ、大きく違っている点があるので、最後にそこだけ訂正しておきます。
リーマンショック以降は、仕事の6割を占めていた翻訳会社経由が1/10ほどに落ち込み、直取引も以前の1/3ほどに落ち込んだ。積極営業一発目がアタリで開拓成功。
↓
リーマンショック以降は、仕事の6割を占めていた翻訳会社経由が1/10ほどに落ち込み、直取引も少し減少したので、全体として以前の1/3ほどに落ち込んだ。積極営業一発目がアタリで開拓成功。
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