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2011年12月 1日 (木)

JTF翻訳祭2011参加レポート

一昨日の11月29日、2011年のJTF翻訳祭がおこなわれました。少し前までは参加者200~300人、午後一からの半日イベントでしたが、去年から複数セッションを平行するマルチトラックとし、今年は参加者700人、朝9時半から夕方6時まで(その後に交流パーティー)という長丁場になりました。

去年はお昼直前に基調講演、午後に5セッション×4トラックで1セッションあたりの時間が45分しかなく、内容的に食い足りないとの意見が多かったようです。休み時間も少なくて移動が大変(前のセッションが少し延びたりするとつらい)、翻訳関連企業が出展している翻訳プラザをのぞく時間がないといった意見もあったようです。

今年はそのあたりが見直され、午前2セッション+午後2セッション(×6トラック)で1セッションが90分、セッション間の休憩時間も15分→30分と増えたし、お昼休みも12時から1時間→13時から1.5時間と余裕をもったものに。もちろん、翻訳プラザもありますし、「プレゼン・製品紹介コーナー」が6セッション×2コーナー用意されていたりと、去年以上に盛りだくさんとなりました。

私はトラック6(中級者以上の翻訳者向け)の3番目、「翻訳者の営業方法」というセッションを受けもちました。

以下、自分が出席したセッションを中心としたレポートです。

さまざまな人がツイッターで実況中継をされたようで、そのまとめページも読まれることをお勧めします。

■「オンライン翻訳の経営モデルが新たなマーケットを創る」
(トラック2-翻訳会社経営者・経営幹部向け)

「新しい標準日本語スタイルガイド(翻訳用)を目指して~スタイルガイドはなぜ必要か、日本語表記の課題を共有する~」とどっちにするか迷ったのですが、スタイルガイドは知り合いが関与しているので概要はほかでも話してもらえるからとこちらへ。

ウェブで受発注をおこなうところが最近登場していますが、その経営に携わっている人たちがスピーカーで登壇しました。

発注しやすい環境を整えた結果、いままでと違うマーケットが生まれたという話がありましたが、それは事実でしょう。ただ、(程度の差はありますが)いずれも比較的安値であり、一番高いGMOスピード翻訳でさえこれで食べてゆくのは無理だなと思うマーケットです。ですから、翻訳者としては、いまの翻訳マーケットのうち安値のほうが下に引っぱられないのかとか、どういう人が翻訳しているのかとか、そのあたりが気になります(←今回、わたしがここを聞きに行った最大の理由)。

GMOスピード翻訳の翻訳者一覧で一番稼いでいる人が1500万円くらいに達していますが、これはおそらく複数年の累計でしょう。一覧の意味とか、この数字から推計される処理ワード数とか、いろいろと考えてみると、過去1年間の移動累計が表示されているということはたぶんないだろうと思います。

エニドアの「コニャック」は英日0.3円/文字(1.5円/ワードくらいに相当?)と破格の安値です。ここは、登録さえすれば誰でも翻訳ができます。翻訳結果に対して発注者や同じく翻訳をする他の人々がコメントを書けるようになっており、そちらで評価がついてゆく仕組みです。ピアレビューと言えば聞こえがいいですが、この価格(訳す人の取り分は当然、前述の単価よりも低い)で翻訳をしようと思うレベルの人同士によるピアレビューなので、質としてはそれなりということになるでしょう。実際、訳しているのはいわゆるプロではなく、プロになりたいと思っている人やいわゆる帰国子女などで2カ国語が使える人ということのようです。山田氏は、「実績をつんだら翻訳会社などとつながれる仕組みを導入したい」と言われていました。

myGengoとGMOスピード翻訳はトライアルに通らないと登録できないという形で質を担保しているとのこと。また、GMOスピード翻訳については大きな問題(納期遅れなど)3回で登録抹消というペナルティー制度なども導入しているとのことです。訳しているのは、翻訳以外に本業があって、本業の手が空いているときに「翻訳も」しようという人か、翻訳・通訳が本業で、ほかのところから請ける案件の変動に合わせてやはり時間があるときにこちらもという形の人たちなどのようです。登録は、myGengoが300人前後(英語と日本語で)、GMOスピード翻訳が150人ほど(←ウェブサイトを見ての推測)のようです。

ちなみに、案件と翻訳者とのマッチングは、基本的に「早い者勝ち」。メールで流れてきた案件に対し、最初に手を上げた人がゲットするという形です(GMOスピード翻訳ははっきりそう言われていた。myGengoも同様と推測)。GMOスピード翻訳の場合は分野にわけてあるので、たぶん、それぞれが登録した分野の仕事だけが流れてくるのでしょうね。

いろいろと工夫しているなとの印象を持ったのがGMOスピード翻訳。まず、逆オークション制。案件がオークションにかけられ、翻訳する側が値段を入札する。基本、翻訳に入札制度はなじまないと思ってはいるのですが、一応、落札希望価格よりも高い値段で決着することもあるようなのでそれなりなのかもしれません。

翻訳者の名前や顔を含めてデータが表に出ているのも翻訳業界としては破格だと言えるでしょう。このデータがあるから、オークションで落札希望価格よりも高い値段で決着があり得るのだと説明がありましたが、それはそうなんじゃないかと思います。この人ならこの値段でもいいかというのがあるのだろうと。

ただ、基本的には、私が自分のセッションで「こういうことをしていると将来的な道を考えて実行してゆくのが難しくなるよ。だからやめたほうがいいよ」と訴えたタイプの仕事だと言えます。逆に、自分はここでブランディングをするんだ、このトップ10くらいに入りつづけることを自分のブランドにするんだという考え方でやるのであれば、それはそれでひとつの道だとも思いますが。

■「金融翻訳で生計を立てるには」
(中級者以上の翻訳者向け)

このセッション、トラック4の「翻訳者の育成~サステナビリティの獲得~」を聞きに行きたかったのですが、午後におこなう自分のセッションと関係が深そうなので、予習的な意味合いからこちらにしました(自分で講演をする場合、このあたりが悩ましいところです)。

話をされたのは、金融翻訳者の松永宏昭氏。金融翻訳をめざしている人を想定されていたのに集まった人の毛色が若干違っていて、そのあたりを調整しつつ話をされていました。

言われたいことは、わたしが自分のセッションで訴えようとしたこととほぼ同じかなと思いました。ごくごく乱暴にまとめてしまうと、力をつけて自分の強みを訴えられればそれなりにいい世界があるよって感じでしょう。どこに力点を置いて話すかで印象がまったく異なるので、同じには聞こえないかもしれませんが。

ちなみに、いま、金融関係できちんと仕事ができる翻訳者がソースクライアント直取引をおこなう場合、相場がどのくらいになるのかという数字も出されていました。一般的には「そんなに高いの?」と思う人が多いんじゃないかと思うレベルでしたが、自分の経験などから推測して(私は金融をやらないので、他分野からの推測という意味です)そんなところなんじゃないのかと思うレベルでした。

■お昼休み

「金融翻訳で生計を立てるには」のセッションにいた顔見知りを中心に、6人でお昼へ。1.5時間あるので、近くのお店で食べてきました。13時過ぎだからか、待つこともなく入れたし、今年の進行スケジュールはなかなか優れていると思います。講師にはお弁当が出るみたいな話もあったようですが、せっかくのチャンスなので、いろいろな人と話をしながら食べたほうがいいかなと(と言いつつ、6人中、3人は講師役をする人間だったりしましたが^^;)。

■「翻訳者の営業方法」
(中級者以上の翻訳者向け)

自分のセッションなので、別項をたてます。

■「機械翻訳とポストエディット実務2011」
(クライアント向け)

おもしろかったという意味では、今年、このセッションが一番おもしろく聞けました。話をされたのは日本オラクルの斉藤玲子氏。いままで「機械翻訳+ポストエディット」でよく言われていた、「人間がおこなう翻訳と同等レベルまで効率よく仕上げる」という無茶な話ではなく、「人間による翻訳とは別マーケット」で「『わかればいい』を安く、速く実現する」という現実的な方針のもと、じゃあ、実際にどうしたらいいのかを実際にいろいろとおこなった結果をもとにまとめた話でした。

キーワードは(↓)

  • どこまで「やらない」か?
  • できるだけ直さない
  • 発注側・利用側の期待値を下げる
  • 「機械翻訳出力を使う/一から翻訳する」→どちらでも速いほうをとる

そうやってできる訳文は、基本的に「考えればわかる」もの。それでも、いままで翻訳できなかった文書まで翻訳できるようになれば業務に大きく役立つ、というわけです。

こうやって適材適所で使うなら、それなりに使えるでしょうね。

翻訳者としては、「まずは機械翻訳のポストエディットから翻訳の世界にはいり、ゆくゆくは翻訳者として独り立ち」みたいなあり得ない幻想を広げる人がいなければそれでいいんじゃないかと思います。「機械翻訳のポストエディット」といわゆる「人間がおこなう翻訳」はまるでベツモノであり、スキルセットもまったく異なるわけで、逆はともかく、ポストエディット→人間翻訳への移行は基本的にありえません。そういう意味から、ポストエディットをおこなう人は翻訳者と呼ばず、たとえばポストエディターなど、別名称にしてほしいですね。

あ、この話、セッションでコメントするのを忘れた(--;)

このセッションは質疑応答が30分以上、取られており、さまざまな議論が活発におこなわれました(1セッション90分と長時間化したのが大きいと思います)。

その中で出てきたのが、「意味が通る訳文が出力されると、原文とまったく違う意味でもついOKにしてしまう」という話。

もちろん、ここで言う「意味が通る」は「1文単位で意味が通る」であって、「文脈的に意味が通る」ではありません。

これに対し、こういう分野の研究をしている立教の山田優さんから、「人間はStyle(流暢さ、といったような意味)に注意がゆきがちで、StyleがいいとAccuracyやClarityの問題を見落としがち」とのコメントが出ていました。だから、そのあたりをいろいろと注意して後工程で修正する対策を講じるなどが必要なのではないかといった議論があっていました。

でも、誤解を恐れずに言えば、そんなの問題じゃないと思うんですよ(セッション時にもコメントしましたが)。人間が翻訳する場合も、同じミスが出るわけです。で、Style、Accuracy、Clarityのすべてを実現できる率が高い人(あくまで率が高い、です。人間がやる以上、ミスはあります)は料金も高い。安い人にやってもらえばどうしてもミスが増える。その安い人よりさらにコストダウンをしようというのが「機械翻訳+ポストエディット」なのだから、ミスがさらに増えるのも当たり前。そう考え、それでも利用価値があるところに使ってゆくのが本道でしょう。もちろん、いくらでもミスっていいという話ではなく(人間にミスは付きものだからこそ、ミスを減らす努力をするわけで)、簡単に発見できるミスを修正する工程を付け加えるのはアリでしょうし、作業者に注意を喚起するといったこともアリでしょう。でも、そのあたりに注意を払うあまり、スピードが落ちてしまったのは、「どこまで『やらない』か?」「できるだけ直さない」という基本方針に逆行するわけで、話がおかしくなってしまいます。

■交流パーティー

去年に引きつづき、すごくたくさんの人が参加されていました。私は何年ぶりというくらい久しぶりに会った人もいましたし、新しくお会いした人もたくさん。有意義な時間になりました。

ちょっとしんどかったのは、とてもたくさんの人に声をかけていただいた結果、食べ物・飲み物になかなか到達できなかったこと。例年、始まると同時にががっと最低限をおなかに入れて、あとは人と会うほうに専念するのですが、今年は、始まる前からいろいろな人との話が始まってしまい……話終えて食べ物のテーブルに向け数歩歩くと誰かに声をかけられ、その人との話が終わって数歩歩くと別の誰かに声をかけられ……ようやくテーブルに到達して食べ物を途中までとったら声をかけられ……(^^;) 飲み物も配って歩く人が少なくて1回しか見かけず、しかもソフトドリンクがなかったので、結局、最初にビール1杯のあとは、中締めのちょい前にジュース1杯だけという状態。飲み物を配っているところに向けても、数歩ごとに誰かに捕まってしまったので。お酒に強いなら、そのあたりのテーブルにあるビールを飲み続ければいいんですが……。ああいうとき、飲み物がゲットできないって、けっこうつらいんですよねぇ。のどもかわくし、だいたい誰かとしゃべりづめしゃべっているわけで、ときどき潤してやらないとのどが痛くなったりするので。

おなかのほうは2次会で補充っと(^^;)

最低限、飲み物は持参したほうがいいのかもなぁ。あと、カロリーメイト的なものを持っていって交流パーティー前に食べておくとか(飲み食いが難しそうな場合、会場に着く前に軽くおなかに入れてゆくっていうのは常套手段なのに、今回、忘れてました)。まあ、今年はセッションを持った、ちょうど『スティーブ・ジョブズ』が出た後だったなど、いろいろな人に声をかけてもらいやすい条件が多かっただけのことかもしれませんけど。

そうそう、年明けの1月20日、大阪でミニ翻訳祭が企画されています。まだ詳細までは詰まっていないようですが、ともかく、その冒頭、基調講演で「スティーブ・ジョブズ翻訳の裏側」について話をすることになりました。今年のはじめごろ、この企画が持ち上がったとき、1セッション持って欲しいと言われて承諾していたのですが、先日、「どういうテーマにしましょうか」と相談したら、『スティーブ・ジョブズ』出版をうけて翻訳裏話をと言われたものですから。

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コメント

お疲れ様でした&昨日はありがとうございましたhappy01
しばらくの間、立食パーティーにおいでになるときには食べ物&飲み物調達係を誰かお連れになるのがよろしいかとw
ワタシでよろしければ参りますよ、業界ではほぼ無名ですし( ̄∇ ̄)

投稿: チーすけ | 2011年12月 1日 (木) 21時12分

こんにちは。
結局、仕事の調整が付かず、欠席となりました。当日登録参加も考えましたが・・・。残念でした。

大阪でのミニ翻訳祭、こちらには是非とも参加したいと思います。


投稿: takey | 2011年12月 2日 (金) 06時01分

チーすけさん、

先日はどうも~。

食べ物&飲み物調達係のお付きを連れて、ですか……いやぁ、そんなたいそうな身分でもないので。ま、ペットボトル、1本くらい持ち歩くようにします(^^;)

投稿: Buckeye | 2011年12月 7日 (水) 22時30分

takeyさん、

大阪のミニ翻訳祭、いつになったら申し込みが始まるんでしょうね……。

あと1カ月ちょいでけっこう日が迫ってきてますし年末年始も挟みますし、大丈夫なのかなぁ。企画実行委員会の人たち、けっこう青くなって準備を進めてるんじゃないかとは思うんですが。

投稿: Buckeye | 2011年12月 7日 (水) 22時32分

こんにちは。案内が届きました。

http://www.jtf.jp/west_seminar/index_w.do?fn=search

東京の翻訳祭りと同様、Buckeyeさん枠の割引は有るのでしょうか?

交流会まで出るとなると1万円を超えるのは、結構な出費です(まあ、交通費はほとんど掛からないので、1日に3つから4つの講演を聴けることことを考えると、割安かな・・・)。

今のところ、参加する方向で考えます。

投稿: takey | 2011年12月19日 (月) 15時36分

西日本は今回が初なのでよくわかりません。問い合わせ中。

投稿: Buckeye | 2011年12月20日 (火) 12時05分

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