« 2011年10月 | トップページ | 2011年12月 »

2011年11月

2011年11月22日 (火)

『翻訳通信』サイトの復活

8月に亡くなった山岡洋一さんが発行されていた『翻訳通信』、バックナンバーが公開されていたサイトが先日、なくなってしまいました。幸い、山岡さんのパソコンに元データが残っていたこともあり、新しくURLを確保して(↓)で公開されることになりました。

http://www.honyaku-tsushin.net/

続きを読む "『翻訳通信』サイトの復活"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年11月18日 (金)

アップル「think different」広告の日本語訳

翻訳に正解はありません。明確なまちがいはありますが、まちがいとまでは言えない範囲にはいるとあとはいい・悪いの世界になります。また、いい・悪いも、明快な基準があるわけではなく、最後は読み手との相性で決まることになります。

プロの翻訳としていいか悪いかという判断は、「幅広い人と相性のよい翻訳がいい、ごく一部の人としか相性がよくない翻訳は悪い」と考えればいいと思います。細かいことを言いだすと例外もあるはずですが、まあ、一般的にはということで。

一例として、アップルが昔使った「think different」広告の日本語訳を3通り、並べてみます。

  • アップルが日本語版で使った訳(公式訳)
  • アップルやジョブズ関連で有名なITジャーナリスト、林信行さんの訳
  • 井口訳

読み比べて、自分はどれがいいと思うのか、それはなぜなのか、考えてみるとおもしろいと思います。

続きを読む "アップル「think different」広告の日本語訳"

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2011年11月14日 (月)

アメリカで禅体験

スティーブ・ジョブズが通っていた禅センターと同系列のところで禅体験をしてきたという人のブログ記事がありました。

アメリカで禅体験

私が禅を体験したのは、去年、比叡山延暦寺でした。所変われば品変わるなのか、私が知っているものとはかなり違う経験だったようです。

続きを読む "アメリカで禅体験"

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2011年11月 9日 (水)

『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』-誤訳の指摘

アマゾンの『スティーブ・ジョブズ II』のカスタマーレビューに、古本一番堂という方から、訳に対する疑問点が列挙されていました

なお翻訳については突貫工事であったことを考慮してもあまりほめられたものではない。以下、気づいた箇所のごく一部を挙げる。

とのことで、全部で16点の指摘がありましたので、それぞれについて、簡単にコメントしたいと思います。なお、結果として、指摘どおりでなにがしかのミスがあり要修正なところが4点、あと、指摘そのものではありませんがこれを契機に見直したところ改良の余地ありでせっかくならと直すところが4点、残り8点はさまざまな理由から私としてはいまのママにすべきだと思いました。

この段階にきて直すべきと思ったところがなんだかんだでこれだけあるというのは、私としては多いなぁという印象です(『スティーブ・ジョブズ』が全2巻で通常の3冊分くらいある分厚い書籍だとはいえ)。6年前の『偶像復活』では出版された時点で訳を間違えていたのが1点、一応、意図があってやってみたけどイマイチ失敗だったとあとから改善したのが1点ありましたけど、そのあとは、あまりなかったのに……「『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』-誤訳の指摘」でも書いたように、人間がする以上、いくら注意してもミスをゼロにすることは不可能で、解釈間違いという狭義の誤訳さえやってしまう可能性も常にあるのは確かなのですが、それでもやってしまうと気落ちしますね。

ともかく、ご迷惑をおかけした読者のみなさまには深くお詫びします。また、今後はさらに精進していかなければならないなと改めて気を引き締めております。

以下、古本一番堂さんに対する回答という形でコメントを書いてみます。

今回は回答といえるようなコメントを書いていますが、今後、似たような指摘があった場合にも同じことをするとは限りません。指摘に理があるか否かを検討し、必要があればどう直すのかを考えるだけならそれほどの時間はかかりませんが、回答コメントを書くとなると格段に長い時間がかかってしまいます。頭の中で瞬間的に考えたことをトレースし、それを他人にわかる形で文章にするというのは意外なほど時間がかかる作業なのです(なんだかんだで今日、ほぼ1日がつぶれました)。ですから、今後、同じようなことがあってもコメントまでは書かず、直すべき点があれば直すだけにとどめる可能性が高いと思います。

続きを読む "『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』-誤訳の指摘"

| | コメント (26) | トラックバック (1)

2011年11月 8日 (火)

『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その6

■余談

●スケジュール

いろいろ工夫した、だからなんとかなった、みたいなことを書きましたが、ふつうならどう工夫してもひとりで訳すのは無理だったと思います。私は翻訳者としてかなり手が速いほうですが、それでも、正直な話、この本だからなんとかなったのであって、別の本だったら絶対に無理です。そのくらいきついスケジュールでした。

この本だからなんとかなったというのは、過去、

と、4冊も関連本をやってきて、いろいろな意味で蓄積があったから。そうでなければ、あと2.5カ月は余分にかかったでしょう。同じペースで仕事ができたとして、蓄積がない分であと1カ月以上(事実関係の確認や関連の調べ物など、訳出以外にしなければならないことが大きく増える)。で、期間がのびれば無理が続かなくなるのでその分で1カ月強。合計2カ月強はのびるはずです。

そういう意味では、これも点が結べた例かなと思います。

続きを読む "『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その6"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その5

■最後の最後で4週間繰り上げ

ジョブズが亡くなったことをうけ、10月6日、米国から、刊行日の4週間繰り上げという連絡がはいりました。

いや、これ、きつかった。

編集さんも「気を確かに聞いてくださいね」と前置きをされたほどだし、その前置きがあっても、一瞬、頭の中が白くなりかけました。

だって、残り7週間切った段階で4週間前倒しですよ?

そりゃ、もう印刷にはいってた米国はいいですよ。あと、英語からの翻訳や編集に日本語ほど手間がかからない欧州各国も、がんばればなんとかなる世界でしょう。でも、日本語は手間がかかるんですよ。

っつーか、ふつうに考えれば、刊行まで3週間というのは校了の段階で、あとは印刷・製本を急がせてぎりぎりってタイミングです。なのに、上巻のゲラは私の手元に届いたばかりだし、下巻なんてゲラも出ていません。

目の前にいる講談社の編集さんの責任でないことは重々わかっていて、なお、「そんな無茶な……」と非難する言葉がでかけたくらいの事態でした。非難の言葉は危ういところで飲みこみましたよ。困るのは編集さんも同じなのですから。

続きを読む "『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その5"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その4

あいだがあいてしまいましたが、翻訳舞台裏の続きです。

■リスク

●見積もりの狂い

一番の危険は、「訳出のスピードが予想どおりにならない」です。まともにやる場合、訳出のスピードというのは狙えるものではなく、結果として出てくるものなので、やってみたら想像以上に時間がかかったりするわけです。今回の実績で見ても、章が移ったとたん、訳出のスピードが3割も上がったり下がったりなんてことがありました。内容、特に、基本的に事実が並べられているのか心情的な話が多いのかでスピードが大きく変化しますから(事実でもややこしい話が多いと遅くなりますが、まあ、伝記物だとそこまでややこしい話は少ないのであまり気にする必要はありません)。文単位でもややこしいというか手間のかかるものがときどき出てきたりします。平均して1時間500ワードくらい進んでいるところでも、それこそ、10ワードくらいの1文で10分も20分もかかるものがでてきたりしますからね。

著者との相性もあります。訳出しやすい人としにくい人というのがいるのです(私にとって訳しにくい人がほかの人には訳しやすい可能性はあります。だから「相性」です)。内容から予想したスピードとこれまた3割くらいずれるなんてざらにあります。『インターネットが死ぬ日』なんて、全編、予想の6割くらいしかスピードがでなくて苦労もすれば予定から大きく遅れる結果にもなりました。

今回は伝記物だし、内容的にかなり親しんだものだし、時間的制約がきついしで、もともとの設定スピードが『インターネットが死ぬ日』などの3割増しくらいになっていました(『インターネットが死ぬ日』で実際に出たスピードの2倍で訳出していかないと間に合わない)。どこをどう見てもギリギリであり、やってみたらそんなにスピードがでませんでしたm(._.)m という事態は十分に考えられました。

そのため、「とにかくやってみて、意外に進みが悪いなら、その時点で共訳者をたてるなどの対策を考えましょう」という話でスタートしました。実際にやってみるとスケジュールの前倒しもできないかわり、特に遅れることもなく、想定の範囲内くらいしかぶれなかったので、結局、ひとりで最後まで訳したわけです。

●分納関連

もうひとつの危険は、分納にかかわるもの。影響は当然にあるわけで(前述した以外にも細かいことを言いだせばいろいろと考えられます)、下手なやり方はで きません。時間的な面では、できる都度、それこそ章ごとにでも講談社さんに渡したほうがいいわけですが、そんなことをすればぐちゃぐちゃになるのは目に見 えています。というわけで、ギリギリこのくらいならという分け方を講談社さんと相談しつつ、進めました。

続きを読む "『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その4"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年10月 | トップページ | 2011年12月 »