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2011年10月24日 (月)

『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳について-その1

悲惨すぎる翻訳-『アインシュタイン その生涯と宇宙』」などで先日取りあげた本と同じ著者ということもあり、今回の『スティーブジョブズⅠ・Ⅱ』の翻訳については、世間的に多少、取りざたされたりしたようです。今度も機械翻訳で出てくるなんてことはないんだろうねっていうわけです。

験が悪いと思う気持ちはわかりますが……どういう翻訳になるのかに著者は関係ないので杞憂というべきでしょう。

いや、まあ、著者によってはわかりにくい文章を書く人もいれば明快で訳しやすい文章を書く人もいるので、著者によって決まる側面がまったくないとは言いませんが。でもやっぱり、翻訳の質を決める最大の要因は翻訳者であり、そこから大きく下がって次が編集さんでしょう。

あと、今回は「世界同時発売」を実現するため、いろいろと無理をしたのではないかという心配も散見されます。機械翻訳まで行っちゃうなんてことはなくても、人海戦術の共訳なんじゃないかとか、いろいろと言われているようです。

で、現実はというと、よくも悪くも私がひとりで訳出しました。書影やネット書店の書誌情報なんかにも私の名前しかありません……けど、ヨノナカ的には、表に出ているのはひとりで、その実、裏でたくさんの人が分担訳しているとか、ひとりはひとりだけど表に出ている人とは違う人が訳しているとか、まあ、現実にはいろいろなケースがあったりもします。あるのですが、この本については私がひとりでやった-これが事実です。

「よくも悪くも」というのは、私の翻訳を気に入ってくれている人にはいいだろうけど、こいつの翻訳は性に合わないと思っている人にはご愁傷様としか言いようがないからです。

本を作るというのはそれなりの人数の共同作業なので、編集さんとか校正さんとか、私ひとりじゃないと言えばそのとおりなのですが、そういう意味ではなく、訳出作業はひとりでやっているという意味で。

ただ、それならそれで、7月頭から翻訳をはじめてどうやって間に合わせたんだって疑問に思われる方もいるでしょう(いや、下巻が1週間遅れたじゃないかって突っ込みはどうかご容赦をm(._.)m)。上下巻になるほどボリュームがあるわけで、翻訳や編集にどれだけの時間がかかるのか、多少なりとも知っている人なら疑問に思って当然です。

いや、知らなければ知らないほうが、『アインシュタイン その生涯と宇宙』との比較で心配になるかもしれません。著者は同じなので、文体的な訳しやすさ・訳しにくさは(翻訳者との相性をのぞけば)同じと考えていいでしょう。分量も、パッと見て似たり寄ったり。もちろん、取り扱っている内容がアインシュタインとジョブズとやってきたことがまったく違う人ですから、(一般向けなので学問的な話にそれほど突っ込みはしないにせよ)アインシュタインのほうが翻訳も難しかった可能性はあります。それでもともかく、『アインシュタイン その生涯と宇宙』は原著が2008年5月13日発行、日本語版2011年6月23日と約3年後に出たにもかかわらず、「まにあわなくて、一部が機械翻訳のひどいまま下巻が出てしまった」わけです。対して『スティーブ・ジョブズ』はこの7月からスタートして10月末~11月頭には出てしまう。半年ありません。

心配になるのも当たり前かもしれません。

とまあ、ずいぶんと長い前振りになりましたが、そのあたりの経緯とかをざっくりまとめてみたいと思います。

長くなるので、何回かに分割して書いてゆきます。あああと、疲れてぼーっとした頭で書いているのでまとまりがないと思いますが、その点はご容赦を。

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コメント

消費者が不信感を持つほど高額な日本版ジョブズ伝記本3990円 / 北米では940~1370円―【私の論評】この現象は、ジョブズだけではない!!日本では、欧米の名の通った著者の書籍は、目ん玉が飛び出るくらい高い!!たとえば、ドラッカーも例外ではない!

こんにちは。日本では、ジョブズの伝記に限らず、とにかく、世界的に名の通った著者や、セレブなどを扱った伝記は、それこそ、目の玉が飛び出るような高額で販売されていることは珍しくありません。たとえば、ドラッカーの書籍なども例外ではありません。また、日本の出版業界には、他のも、いろいろな不合理や、規制があります。最近では、あのアマゾンが年内に日本語電子書籍に参入することを表明しています。日本で、このまま不合理や、規制などが温存されれば、いずれ、日本の書籍市場もアマゾンに席巻されてしまうかもしれません。これを機会に日本の出版業界などもユーザーのニーズに近いものに生れ変わることを望みます。詳細は、是非私のブログを御覧になってください。

投稿: yutakarlson | 2011年10月25日 (火) 10時23分

yutakarlsonさま、

米国→日本という翻訳本の場合、著者が誰であれ、翻訳書のほうがかなり高いですよ。実売価格で米国の3倍というのは一般に知られていないような著者でもざらにあります。

そして、その状態でも、本を書いたり翻訳したりで食べてゆくのは大変です。翻訳の場合、3カ月かけて1冊訳して部数が少なければ印税30万円とかふつうにありますから。私は本業が産業翻訳ですからそれでもやっていられますが、出版翻訳を本業とする人たちのあいだには、今後、新人が参入して育ってゆく可能性はないとかいろいろと心配している人たちがいます。

でもまあ、本はなくても暮らせます。米国と日本の価格差を言うなら、食品なんかもすさまじく違うわけで、そういう生活必需品のほうが問題が大きいと言えるでしょう。あるいは、生活必需品の値段差と同じように本にも値段差があるという考え方もできます。

きちんとした仕事をした人にきちんと対価が支払われた上で、いろいろ安く供給できるのであればそれが一番だとは私も思いますが。

ちなみに、書籍の価格については、(↓)のような業界関係者の分析もあります。

http://www.dotbook.jp/magazine-k/2011/10/25/fair_price_of_ebooks/

投稿: Buckeye | 2011年10月25日 (火) 11時24分

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皆さんは、翻訳という作業について、どんなイメージを持っているでしょうか? 難しい文章を、辞書を片手に眉間にシワを寄せながら、キーボードを叩いていく。おそらくは、そんなイメージではないでしょうか? 確かに、頭脳労働ではありますし、実際の辞書を使うかどうかはともかく、作業をしている時間の大半は、それが実態かもしれません。 しかし、反面、体力勝負という一面もあるのです。 翻訳というからには、元となる文章がすでに存在するのが普通なのですが、たまーに&hellip... [続きを読む]

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