翻訳時に消える言葉・出てくる言葉
翻訳会社、アークコミュニケーションズ社長の大里真理子さんが書かれているブログに、先日、「『ちゃんとやったのにうまくいかない』ということはありえない!」という記事がありました。
このように日本語の「ちゃんと」は英語ではわざわざ言わなくてすむ言葉だろう。なんて曖昧で、日本的な表現なのであろう。
おっしゃるとおり、日本語から英語に変換するとき、この「ちゃんと」は消える言葉だと思います。ということは、英語から日本語へと翻訳するときは、どこからともなく、この「ちゃんと」が出てこないといけないはずです。そうしないと、行って帰ったら違うモノになってしまいます。
もう一点。あいまいなのが日本的表現なら、くどいのが英語的表現。だから、英語から日本語に翻訳するときは、すこしすっきりさせてやらないといけません。そうしないと、普通の文章がくどくどした文章になってしまいます。つまり、英語から日本語へと変換するときに消える言葉というのもあるわけです。であれば、日本語から英語へ翻訳するとき、どこからともなく出てこなければならない言葉もあるはずです。
英日で全部の単語を訳出するとくどいだけでなく、ニュアンスが変わってしまうこともあります。簡単な例は"What are you doing?"を「何をしているの?」と訳した場合と「あなたは何をしているの?」と訳した場合でニュアンスが異なるというもの。普通なら表に出ない「あなた」をわざわざ出すと非難のニュアンスが強くなります。原文側がニュートラルな場合、これはまずい処理です。
産業系を中心に原文と訳文の形式的な対応を重視する傾向がかなりありますし、それはそれで意味があることなのですが、最終的には、こういう、翻訳時に消える言葉・出てくる言葉までちゃんと処理すべきです。理由があって削ったものは訳抜けではないし、理由があって追加したものは、単純に「こんなことは書いてない」と言えるものでもないのです。
でもまあ、削るのも勇気がいりますし、足すのはもっと怖くて、自分でも、こういうあたりがどこまでできているのか、やりすぎていないのか、わからないことだらけですけどね。
■関連エントリー
| 固定リンク
「翻訳-スキルアップ(各論-品質)」カテゴリの記事
- テトリス(2018.06.08)
- 翻訳フォーラムシンポジウム2018――アンケートから(2018.06.06)
- 翻訳フォーラムシンポジウム2018の矢印図――話の流れ、文脈について(2018.05.31)
- 翻訳フォーラムシンポジウム&大オフ2018(2018.05.30)
- 翻訳メモリー環境を利用している側からの考察について(2018.05.09)
コメント
井口さん
翻訳時に出てくるほうの言葉で好きなものは・・・
飛行機で海外から日本へ帰ってくる時、英語のアナウンスに続き 日本語で、「時計の針を一時間”ほど”お進めください」なんだか、日本に帰ってきたなぁって感じがします。
投稿: マリコ | 2011年7月11日 (月) 18時39分
ああ、ありますねぇ。たしかに。
そういう言葉、へたに入れたり外したりすると「不正確だ」とか「誤訳だ」とか言われちゃうんですが、わかっている人相手の仕事ならわりとよく調整しています。
投稿: Buckeye | 2011年7月11日 (月) 19時54分