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2011年6月 4日 (土)

『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』

昨年の夏に出た『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』の姉妹編、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション―人生・仕事・世界を変える7つの法則』が6月30日に出版される予定となりました。

昨年はプレゼンテーションについてでしたが、今年はイノベーション。このふたつは車の両輪のようなものです。まず、いいアイデアやモノがなければなにごとも始まらないわけですが、同時に、まわりを説得できる力、訴える力がなければいいアイデアも宝の持ち腐れになるだけですから。というわけで、マック、ピクサー、iPod、iPhone、iMac、アップルストア、iPadと世界有数のイノベーションを実現し、コンピューター、映画、音楽、電話とさまざまな業界を一変させてきた人物を教師として、どうすればイノベーションが実現できるのかを具体的に解き明かそうというのが本書です。

この本を訳していて思ったのは、「あら、意外に翻訳業にも役立ちそうじゃん」でした。正直なところこれは予想外。私の場合、企業活動とか技術とかに興味があるので、そういう意味でおもしろく訳せるだろうとは思っていましたが、まさか、個人事業、それも職人的な自分の仕事に役立ちそうな話が次々に出てくるとは思っていませんでした。

本書は、「イノベーションとはものごとの新しい進め方で、よい方向の変化をもたらすもの」と定義しています。大きい必要もなく技術である必要もないわけで、そういうイノベーションに役立つようにと書かれた本なのですから、私のような仕事にも役立つヒントがたくさんあっても当然といえば当然でしょう。

いくつか、個人的に気になったフレーズを紹介します。

■アップルの魔法は、他社よりもいい仕事ができるもの、ひとつをみつけることから生まれる

「強みを生かすのが一番」……そう、私は理解しました。狭い範囲、小さなものでいいから他人より上手にできるものをみつけることが大事だと。

■作品が完成したとデザイナーが思うのは、追加するものがなくなったときではなく、削るものがなくなったときだ

これは訳文を作る際に大事なポイントだと思います。「書くと安心する」で似たようなことを書きましたが、ついつい、いろいろと書き足したくなります。それをぐっとこらえ、削るべきものをきちんと削ってゆくことが大事でしょう。

もちろん、いろいろはしょってしまってはいけないわけで、少ない言葉で多くを伝える工夫をしなければならないということです。

■『ビジョナリー・カンパニー』を書いたジム・コリンズの言葉

  • 心の底から望むものは何か。
  • 自分の遺伝子に組みこまれているのは何か。「自分が生まれたのはこれをするためだった」と感じるのは何をしているときか。
  • 経済的に成立するのは何か。生計を立てられるのは何か。

こう自問自答したあと、実際の行動がどうなっているかをチェックする。上記の答え以外に時間の半分以上を使っているなら、「やめること」リストを作る。

かぎられた時間を有効に使うため、何を削って何を残し、何に力をいれるのか……これは、人を増やして時間を手に入れるという選択肢が基本的にない我々のような個人事業において特に大事なポイントだと思います。

まだまだいろいろあるのですが、このあたりでやめておきます。詳しく書いていると訳した原稿の大半を公開しないといけないはめになりそうなので。

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■訳者あとがき

「いっぱい元気をもらった」……本書を訳しおえての感想である。

毎日毎日、ひとりでパソコンに向かっている翻訳者がこういうと、不思議に思われるかもしれない。どうしたらイノベーションや変革といわれるものを生みだせるのか―それが本書のテーマだからだ。

変革だ、イノベーションだといわれると、技術系大企業の話だと思う人が多いだろう。たしかにそういう例が多いだろうし、本書でも中心的な例に取りあげられているアップルはそういう企業だ。だがほかにも、アイスクリームやピザなどの食品からワインや靴の物販、修理サービスまで、さまざまな企業が登場する。それだけではない。教会の牧師など、個人の例も登場する。技術系にかぎる話でもなければ、大企業にかぎる話でもないのだ。

それどころか、これは個人が主役の本だ。

本書に組織論はでてこない。創造性を引きだす仕組みの話もでてこない。そのかわり、くり返し登場するのが「情熱」だ。イノベーションを生みだすのは組織でも仕組みでもなく、ましてやテクニックでもなく、情熱を持った個人だというのだ。

世の中を動かすほどのもの、世界を変えるほどのものとするには組織の力が必要だが、そもそものスタートは情熱を持った個人であり、組織をイノベーションに駆りたてるのも情熱を持った個人である。5126回も失敗が続いてもめげない、小さな子どもを抱えてホームレス生活になってもへこたれない―そういう個人がいなければイノベーションは始まらない。

言われてみれば当たり前の気がする。新しい技術を開発するにせよ、今まで世の中になかった何かを生みだすにせよ、当然ながら大きな努力が必要だ。つまりイノベーションを実現するのは人一倍の努力をした人であり、人一倍の努力ができるのは情熱を持つ人だからだ。また、最初から最後までうまくゆく幸運などまずありえない。どこかで問題が発生する。そのときへこたれず、乗りこえてゆけるのも情熱を持つ人なのだ。

「成功するためにもっとも大事なのは技術ではなく情熱であり、それはシェフに限らずどのような仕事でも同じだ」―開店そうそうレストランが全焼してもへこたれず、世界的な寿司職人となった松久信幸氏の言葉だ。たしかに、どのような仕事でもそうらしい。小惑星探査機「はやぶさ」が数々の困難を乗りこえ、昨年、地球に帰還したが、このプロジェクトリーダーを務めた川口淳一郎氏も「大事なのは技術より根性。地球に帰還するには、あきらめない気持ちが大切だった」といわれている。NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に登場するさまざまな分野のプロフェッショナルも、情熱の重要性を強調する人が多い。

もちろん、情熱だけで何でもできるわけではない。だから、本書は、目の付け所や考え方といったものも具体的に分析している。このあたり、役に立つと評判の『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』も書いたカーマイン・ガロ氏に抜かりはなく、見かけに惑わされることなく本質的な部分を上手に抽出してくれている。情熱をもってやれることさえみつけられれば、本書をヒントにさまざまな展開ができることだろう。

では、一番大事な「情熱をもってやれること」はどうやってみつければいいのだろう。

これは難しい。人により、何に情熱を持つのかも、なぜ情熱を持つのかも、どう情熱に気づくのかもまったく異なるからだ。著者も、明確な方法論を提供してくれてはいない。しかし、本書に登場するたくさんの例を見てゆくと、いろいろな気づきがあるはずだと思う。わたしの場合、印象として強く残ったのは「ああ、小さなことでいいんだ」である。別に世の中を変えるほどのものでなくてもいい。身の回りのモノや人について、ほんのちょっとよくしたい……そういう小さな情熱でいいのだ。「イノベーションとはものごとの新しい進め方で、よい方向の変化をもたらすもの」が本書の定義なのだから、大きい必要はまったくない。

それでも簡単にはみつからないのが普通だろう。だから、スティーブ・ジョブズは2005年、スタンフォード大学卒業式の祝辞で「大好きなものがみつかるまで、妥協せず、探しつづけてください。みつかれば必ずわかります」とアドバイスしたのだ。どうわかるのか。著者はガードナーという人物の言葉を紹介している―「大好きなこと、どうしてもやりたいと思うことがみつかれば、ああもう1日、それができると太陽が昇るのが待ち遠しくなりますよ」、と。

本書を訳しながら自分のことをふり返り、わたしの場合、「文書の読み手が内容に集中するお手伝いがしたい」のだと改めて思った。翻訳がいいとか悪いとか、そんなことは気にせず、気にならずに読みすすんでもらえるようにしたい―そう思いながら、毎日、まだ暗いうちから起きだして訳したのが本書というわけだ。読みにくいと途中で放りだすことなく読者のみなさんが最後まで読み、本書をガイドブックとして活用して、仕事や人生においてずばぬけた成功を得る一助としていただければ、私の情熱はほんの少し、実現されたことになる。

なお、本書『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』は、同じ著者の前著『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』と補完しあう関係にある。ぜひ、両書とも読んでほしい。どちらも、題名から想像されるよりはるかに広い範囲に応用が利く良書だと思う。

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コメント

久々に購入する紙書籍になるかもしれない。

わくわくしてきました。

昨夜は著者Carmine Gallo 氏の講演会があったそうですね。

そのような集まりに書籍を読み込んだ上で参加するような機会も今後作っていきたいです。

投稿: あきーら | 2011年7月 8日 (金) 14時43分

ソニーリーダーなら電子書籍もありますよ~(って、そういう話じゃないですね^^;)

去年・今年と、ガロさんのおかげでいろいろと新しい経験をさせてもらっています。こういう経験を今後もすることがあるのかというと、わからないというほどの経験です。

ともかく、自信をもってお勧めできる良書です。楽しんで役立ててくださいませ。

投稿: Buckeye | 2011年7月10日 (日) 07時19分

こんにちは。

まだ、偶像復活を読んでいないので、図書館で借りる手配をしました。

「プレゼンテーション」の方は、予約者が大勢いるので、かなり時間が掛かりそうです。「イノベーション」はまだ図書館に入っていないようなので、入ったら直ぐに読めるようにするか、自腹を切って購入するか・・・・。

済みません、印税に貢献できなくて。

投稿: takey | 2011年7月11日 (月) 10時10分

『驚異のプレゼン』、まだそんな状態なんですね。もう1年がたっているというのに、ありがたいことです。

印税のほうは、手元に置きたいと思われたら貢献していただければ。我々のような仕事をしていると、読みたいと思った本をみんな買っていると大変なことになってしまいます。私は地域の図書館が貧弱なのと図書館に行っている時間がないものでつい買ってしまい、あとの始末に困るという状況が続いています。

ツンドクの山もありますし……

投稿: Buckeye | 2011年7月11日 (月) 12時18分

大阪市立図書館(全部で20箇所ほど)で「プレゼン」は10数冊保有していますが、予約者は80名近くになっています。

「イノベーション」はまだ購入されていないですが、予約者が2名いました。私は3番目の予約者となりました。図書館が購入すれば、早い時期に読むことが可能だと思います。

PC経由で市立図書館(全館)の蔵書検索・予約が出来ます。受け取りは、自分が貸出カードを持っている最寄りの図書館で可能です。便利な時代です。

Buckeyeさんが住まれている地域の図書館も同様のサービスを行っているのではないでしょうか?

投稿: takey | 2011年7月11日 (月) 14時07分

「偶像復活」を読み終わりました。

Macとの付き合いは1994年頃からですが、この本を読んで、90年代後半から2000年代前半、Macユーザーの1人として歯痒い思いをしたことが脳裏に浮かびました。

その後、iPodで低迷期から脱し、その後は軒先を貸してくれたマイクロソフトの時価総額を上回ったのですから、驚きです(株買っていたら、億万長者ですが・・・)。

「イノベーション」を読むのが待ち遠しい。まだ図書館に入っていないようです。予約者が徐々に増えて行っています。

投稿: takey | 2011年7月19日 (火) 14時30分

『驚異のプレゼン』だけで十数冊とはすごいですねぇ。うらやましい限りです。ウチの市は、とにかく図書館が貧弱なので……(--;)

『驚異のイノベーション』は……期待を裏切らないいい本だと思います。楽しみにしていてくださいませ。

投稿: Buckeye | 2011年7月20日 (水) 20時37分

ジョブズ氏がCEO退任とのニュースが本日(8月25日日本時間朝)流れています。時間外取引でアップル株の株価が下がっているようです。

遂に来る時が来た?!

投稿: takey | 2011年8月25日 (木) 08時57分

6月のWWDC、ジョブズが登壇したのが一番のびっくりだと言われたくらいですし、かなりやせていてきつそうな感じでもありましたしね……まあでも、外食している姿が目撃されたりとかありますし、それなりではあるのかもしれません。

会社的には、世代交代をしていかないと存続できないわけですし。

この人も長生きしてほしい人なんですが……

投稿: Buckeye | 2011年8月25日 (木) 09時46分

スティーブ・ジョブス驚異のイノベーション、本日、図書館で借りてきました(2ヶ月待ってやっと。図書館も直ぐには買い増しをしないようです。)。週末、スケジュールの合間を縫って、少しずつ読んで行くつもりです。

投稿: takey | 2011年9月22日 (木) 15時07分

2カ月待ちとは、それはまたずいぶんと人気なんですね。

図書館としては、人気だからと買い増してもしばらくしたら読まれなくなるはずだし、そうなったら場所ふさぎなだけと悩ましいところなのでしょう。

投稿: Buckeye | 2011年9月26日 (月) 08時09分

先ほど図書館のHPでチェックしましたが、「予約は41件。2冊追加発注していると出ています。」

借りられるのは2週間ですから、2冊増えても合計で3冊。順調に回っていっても6人/月だから、今購読の予約をしたとしたら、順番が回ってくるのは7ヶ月先ということ!

私は3番か4番目の予約者だったので2ヶ月待ちで済みましたが・・・・。

投稿: takey | 2011年9月26日 (月) 09時18分

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