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2011年5月 5日 (木)

『日本人なら必ず悪訳する英文』刊行記念講演会

4月25日に『越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文』刊行記念講演会に行ってきました。この本は翻訳初心者向けであり、講演会も当然にそういうレベルが想定されているはずだとは思ったのですが、ツイッターでときどきやりとりがある関係から、越前さんにお会いしてみたいなとも思ったものですから。

実はこの講演会、もともと予定されていた3月末だと行けなかったのですが、震災で延期となった結果、聞きに行けるようになりました。というわけで、申し込んだあと『越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文』を購入し、ざっと読んででかけました。

場所はリブロ東池袋店(私が池袋に行っていたころはリブロなんてなかったこともあり、最初、池袋店に行ってしまいました^^;)。来場者は50人超のほぼ満席という感じでした。

■講演会の感想

以下、講演会の感想です。なお、講演会で使われたネタは、ほかでもまた使われることがあるかもしれないので、あまり具体的に書くのは避けます。

「日本語として変なところはあるか」で大辞林を例に挙げられたのは、たぶん、性的意味がトップに書いてあるからでしょう。広辞苑は3番目ですし、必ずしも性的意味とはわからない書き方なので、わざと大辞林をあげたのかもしれません。

ともかく、その表現、NHKのアナウンサーが使うと苦情がくるそうです。ただ、越前さんがいろいろと調べた結果、セクシーな意味に使われるようになったのはここ数十年で、基本的に使っても大丈夫だろうとのこと。

ちなみに私は特に何とも思わなかったというか、文脈から明らかだと思った表現でした。自分が大丈夫だと思うことが必ずしも大丈夫ではない実例だったと言ってもいいでしょう。

この関係で出てきた「英語が読めなくていいわけではないが、むしろ英語がきらいなほうがいいかもしれない。日本語が好き、日本語に詳しくあるべき」という話は、私も同感です。そう思うので、ここ何年か、日本語の力をつけたいといろいろ勉強しているのですが……なかなか難しいですね。

2番目の例では、英単語の意味をリーダーズからピックアップし、「辞書に記載されている意味だとイマイチ合わない。実際の状況をよく考えること」といった説明をされていました。でも、その少し前に別の単語で引き合いに出されたランダムハウスには、その英文で使われている意味がちゃんと載っていたりします。ジーニアス大辞典にもです。こちらは、ランダムハウスとかジーニアスも引き合いに出すと、「辞書を引け」で終わってしまうのでやめられたのではないでしょうか。

話のなかでそれなりにおもしろかったのは、直喩・隠喩についてでした。そのあたりの処理をあまり意識していないことを改めて認識しました(『越前敏弥の日本人なら必ず悪訳する英文』にも何回か出てきているのですが)。本業の産業翻訳の場合、直喩も少ないし隠喩が出てくることはまずないという状況だからでしょう。

もうひとつ、印象に残ったのが「『小さな親切、大きなお世話』を避ける」です。原文が言い切っているなら言い切るなど原文どおりに訳せ、翻訳者が読み取ったことを小さな親切で入れると大きなお世話の翻訳文ができてしまう……そういうことのようです。

ここ、私は、程度問題なんじゃないかと思います。つまり、小さな親切が小さな親切になるケースと大きなお世話になるケースがあるんじゃないかと。翻訳学校で少しだけ教えたとき、たしかに、大きなお世話でおかしくなるケースが圧倒的に多かったと感じますが、自分が訳すときは、意識して、「小さな親切」をちょこちょこ入れていたりします。このあたりについては、時間があったら別エントリーにまとめてみたいと思います。

■質疑

最後に質疑の時間があったので、ここ数年、ずっと気になっている点を聞いてみました。他人に聞いて答えが得られるたぐいではないと思うのですが、いろいろな人の考えを聞くことも大事だと思いますから。

以下、記憶で書いているので、文言の細かい部分は不正確です。

(Buckeye)
 越前さんは、「原著者が仮に日本語を知っていたら、そう書くに違いないような日本語にする」を基本的な方針にされているとのことですが、これは、外国語として日本語を知っているレベルではなく、日本語ネイティブ並に日本語を知っている、あるいは、日本人作家並に日本語を知っているという意味でしょうか?
(越前氏)
 そういうことです。
(Buckeye)
 でも、『日本人なら必ず悪訳する英文』の24ページで、"While a cat is away, mice will play"の訳は「鬼の居ぬ間に洗濯だよ」よりも「猫がいなけりゃ、ネズミは遊ぶ」のほうがいい、そのほうがもとの表現のおもしろみや味わいが伝わると書かれています。
 このふたつ、矛盾しているように思いますが?
 おそらくはケースバイケースということなのだと思いますが、では、どこでどう区切られるのでしょうか。
(越前氏)
 言われてみれば……たしかに矛盾ですね……。
 一番は「おもしろいか」なんだけど……なんというか、日本人の作家なら作家で、「鬼の居ぬ間に洗濯」なんていう手垢にまみれた表現ではなく、もっと別の表現を使うだろうとも思います。

というわけで、結局は、おもしろいと思うかどうかが肝で悩み多いというところでしょうか。

講演会後、立ち話もさせていただきました。

(越前氏)
 感想や、さっきコメントできなかったことなど、ありましたらどうぞ。
(Buckeye)
 では、本に書かれた「かまぼこ形」(30ページ)なんですが、あれも、あの原文のように登場人物の心の声では使えませんが、作者が状況を説明している部分なら「かまぼこ形」が使えるのではないでしょうか。日本人の作家ならそういう表現をすると思うのです。
(越前氏)
 その可能性はあるかもしれませんね。少し考えてみます。
(Buckeye)
 あと、遅ればせながら『ダ・ヴィンチ・コード』を呼んでいるのですが、フィートが出てくるたびに換算で止まってしまってどうも……マイルは実感としてつかんでいるのでいいのですが。
(越前氏)
 単位については、人によって意見がまちまちです。メートル法にしないと感覚がつかめないという人もいれば、原文の単位ママのほうが雰囲気が出るという人もいて、これという結論は出ていません。原文の単位ママなら、大きいか小さいかがわかるように訳文を工夫するなどはしているのですが。
(Buckeye)
 かもしれませんね。家内に聞くと、なんとなく大きいんだなぁとかわかればいいから換算せずに読み飛ばしていると言われました。でも私は大きさが実感できないと絵が頭に浮かばなくて。
 また、ファンタジー系など、自由に単位系を作れるけど実感できない単位系にすると読者が置いてけぼりになるから、名称は違っても1mに近いとか、メートル法とほぼ同じにしたほうがいいと作家さんから聞いたこともあります。
(越前氏)
 そういうことはあるかもしれませんね。ただ小説の場合、たとえば『ダ・ヴィンチ・コード』のようにイギリス人とフランス人が出てきたとき、イギリス人とフランス人が同じ単位を使うのはおかしいといったこともあるので一筋縄ではいきません。

このあたりも、いろいろと悩み多いですね。

■2次会

このあとは、前から知っている産業系の翻訳者、4人で軽く飲んで帰りました。

へぇ~と思ったのは、うち2人が越前さんの講義を受けた経験者だったこと。片方は翻訳学校の生徒さんで、講演会のよくない例として自分の訳文が引き合いにだされていたようで。もうひとりはカルチャースクールのようなところの講義に出たのだそうです。

越前さんが翻訳学校でされている講義は、どこをどう考えたのか、考えるべきなのかを丁寧になぞってゆくものだそうです。ただ、習う側のレベルによっては、もっと勉強しないと理解できないと突っぱねることもあるそうで(正しいと思います)。謙虚でまじめに対応するというのは、今日の講演会やその質疑もそんな感じでした。

そうそう、2次会で、「Buckeyeさんって、ほんと、顔が広いですね。越前さんともお知り合いなんて……」と言われたりもしましたが、前述のように、そもそも、一度お会いしてみたいと思ったから出席したわけで、お会いするのははじめてだったわけです。まあ、なんだかんだで私もけっこう知られるようになったので、相手もそれなりの対応をしてくれることが多いという面はあるでしょう。そのかわり、こそっとカルチャースクールに紛れ込んでみるなんてことはできなくなってしまいましたが(^^;)

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