「に」が連続したときの書き換え例
先日、「『の』の連続は避ける」というエントリーを書きましたが、そのとき、「"の" に限らず助詞の連続はなるべく回避する」というコメントをいただき、「『に』なんか、よく重なりますよね」と書いたのですが、ふと気づけば、ネタ帳(^^;)に例文がメモってありました。
■「に」の連続
何かの記事を書いていたとき、最初に書いた文章が(↓)です。
仕事をしているうち「に」次第「に」ずれてゆくこともあります。
「に」が至近距離で2回、出てきます。「ずれる」ではなく「ずれてゆく」なら少しずつの感じになるので、とりあえず、「次第に」を削除してみました。
仕事をしているうちにずれてゆくこともあります。
「に」の連続はなくなりましたが、今度は、「をしているうちにずれてゆくこともあります」とひらがなが続きます。そのため、「次第に」と同じような意味で「に」で終わらない表現ということで、(↓)のようにしてみました。
仕事をしているうちに少しずつずれてゆくこともあります。
小手先の修正ではこのくらいが限界でしょうか。
「ずれてゆく」として「ずれて行く」としていないのは、この「行く」が行って帰るという本来の意味で使われておらず、継続の意味を「ずれる」に加える役割に後退しているからです。「行く」「欲しい」「続ける」とか、同じパターンでかなに開くことがよくあります。といっても、このあたり、いまいちチェックが甘くてうっかり漢字にしているケースがよくありますが(^^;) 一般には漢字で書くことが多いので、漢字になっていても違和感がないっていうのも、うっかり見過ごすことが多い一因だろうと思っています。
「に」が連続したとき、片方が方向を示すものなら、「へ」にするだけでそこそこ落ち着くこともあります。安直ですが、さらっと流していいようなところにあまり手間をかけてもなんなので、そういうところなら、そのくらいで先に進んでいいのではないでしょうか。
もう一例。こちらは、最近、翻訳中に出てきたもの。
××だとするのは、××に××を与えるに等しい。
最初に骨組みを訳したら(↑)のようになったのですが、最後に修飾部があって、そこを追加したら、「××を」の前に修飾語(正しくは挿入句)がついて長くなってしまいました。そのため語順を変更、(↓)のようになりました。日本語は、長さが極端に違うなら長いもの→短いものと並べるのが基本なので。
××だとするのは、××-…………-を××に与えるに等しい。
結果、「に」が連続してしまいました。ここの「××に」は方向性を示すと言えば言えますが、「××へ与える」は語感が悪く、避けたいところです。理由はよくわからないのですが、物理的な方向を純粋に表現するものではないから、かなぁ?
念のためGoogleで使われ方をチェックしてみました。
「"へ与える"」……10万
「"に与える"」……284万
1対30ということは、私の語感が日本人のバルクから大きくずれていることはなさそうです。
文意からして「に与える」を変えるのは難しいので、「に等しい」のほうを書き換えてみます。
××だとするのは、××-…………-を××に与えるようなものだ。
「等しい」から「ようだ」と断定度が後退してしまいます。原文の意味からして、それは避けたい。
文末を断定的にすると、前半の「とするのは」と相性が悪くなります。「とするのは」は断定でない表現を後ろに要求するからです。というわけで、前半も変えてみました。
××だとすると、××-…………-を××に与えることとなる。
単文で見ればそれなりの気がしますが、残念ながら、前後の語調とイマイチ、合いません。全体に堅めの文章なのですが、「こことなる」はさすがにちょっと。「ことになる」とすれば少し柔らかくなって前後と合いますが、それでは、「に」の連続を消そうという当初の目的に合いません。
というわけで、最終的には(↓)としました。
××だとすると、××-…………-を××に与えてしまう。
「してしまう」にすると、価値観が強めにはいります。大辞林に「終わったことを強調したり,不本意である,困ったことになった,などの気持ちを添えたりすることもある」とある部分です。一方、断定度を引き下げたくなかったと上で書いていますが、その理由は、この件に筆者は反対しているからです。つまり、否定的なニュアンスが加わるのは、別にかまわないわけです。最初に「~に等しい」としたのも、若干、否定的ニュアンスを入れたかったからですし。
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