翻訳者と日本語入力IME
「ATOK 2010+共同通信社記者ハンドブック辞書」でも書きましたが、私は、ジャストシステムのATOKに共同通信社記者ハンドブック辞書を組み合わせて使っています。これ、翻訳など書き物をする人にとっては不可欠なツールだと思うのですが、使っている人は意外に少ないようです。
■ベースとなる日本語入力IME
いろいろな人の話を聞くと、日本語入力IMEとしてOS付属のIMEを使っている人が多いようです。それなりではあると思うのですが、変換の精度はATOKが一段上だというのが、少なくともATOKを使っている人たちの意見です。
昔、翻訳フォーラムで変換精度の比較をしてみた人たちがいました。そのときははっきりとATOKに軍配があがりました。ただ、その後、OS付属のIMEも進化しているので、今、どのくらい違うのかはわかりません。
■ATOKの設定について
たくさんの設定があります。一度、ざっと見て便利そうなものは試してみることをお勧めします。
翻訳の仕事で使うにあたり、ここはデフォルトから変えたほうがいいと私が思うのは、「カーソル位置前後の文章を参照して変換する」という項目です。デフォルトはオフですが、ここはオンがいいと思うのです。
「入力・変換」→「変換補助」→「カーソル位置前後の文章を参照して変換する」
翻訳の場合、一気に文章が入力できないのが普通です。途中で立ち止まったり、戻って追加入力したりと変なパターンが多くなります。そのとき、ここがオンになっていると、前後関係から適切な変換を出してくれる可能性が高くなります。
たぶん、変換には少し余分に時間がかかるのだと思いますが、今のマシンパワーなら違いが感じられるほどではありません。少なくとも私の環境ではそうです。
■共同通信社記者ハンドブック辞書
ATOKには別売でさまざまな辞書が用意されています。その中で、翻訳者とかライターにとって便利なのが、この『共同通信社記者ハンドブック辞書』だと思います。というか、これなしに仕事をするのは無謀だと私は思います。
産業翻訳でも出版翻訳でも、漢字とかなの使い分けには一定の基準があります。細かい部分はクライアントごとに違ったりしますが、基本的には新聞における使い分けと似たものとなります。
セミナーなどで課題を出すと、みなさん、漢字とかなの使い分けに驚くほど無頓着なようです。もちろん、普通なら使わない漢字も、こだわるポイントで使う意味があるなら使っていいわけですが、実際には、なんとなく漢字にしているケースが大半です(というか、今までそういうケースで「考えた末、意味があって使いました」と言われたことはありません)。翻訳関係のメーリングリストやコミュニティでも、「ああ、この漢字は普通は開くのになぁ。漢字とかなの使い分けに無頓着な人なんだろうなぁ」と思うケースがよくあります。それでも仕事になるっちゃなるわけですけど、上を目指すなら、基本のひとつとして外せないポイントだと私は思います。
新聞の用字用語としては、(↓)あたりがよく使われます。この2冊を比べると、記者ハンドブックのほうがかなに開きがちだと言われています。
新聞以外では、(↓)もあります。
翻訳の仕事を始めたころ、用字用語の手引きは頭にいれておかないといけないよとアドバイスされ、朝日新聞のものを購入しました。でも、覚えられません。頭から読んでも覚えられないし、一つひとつ、これは何か指定があるかないかと手引きを引いていたら、納期内に仕事が挙げられなくなって大変です。結局、漢字とかなの使い分けなどよくわからないまま、仕事をしていました。
その状況が大きく変わったのが、ATOK用に共同通信社記者ハンドブック辞書が出たとき(たぶん2003年)。かな漢字変換をしたとき、これはかなに開くべき言葉だなどと警告が出るので、それを参考にかなにしたり漢字にしたりできるようになったのです。
しかも、変換のたびに出てくるので、よく使う言葉については、漢字とかな、どちらにすべきなのか、かなりの部分が頭にはいってしまいました。継続は力なりというかなんというかですね。
紙版のほうは一覧性があるので、これはこれで重宝することがあります。持っていない人は、どれか1冊、買って手元に置いておくことをお勧めします。もちろん、ざっと目は通しておきましょうね。
ローカリゼーションでは、スタイルガイドというものがあって、漢字とかなの使い分けについても細かく規定されていることがあります。でも、そのかなりの部分は記者ハンドブック辞書でことたりる内容のようです。
今、ちょうどJTFでそのあたりの検討を行うフォーラム(SINAPS Forum)が開催されているのですが、その一環で、さまざまなスタイルガイドをざっと一覧表にしたものがあります。この「ひらがなと漢字の使い分け」では例として「併せて、例えば、および、または、ただし」「あわせて、たとえば、および、または」などが出ています。このうち、「および」「または」「ただし」はいずれも、記者ハンドブック辞書を搭載したATOKで漢字にしようとすると、「開く」言葉だと警告がでます。
仮にOS付属のIMEも同程度の変換効率を持つようになっていたとしても、この辞書を使うためにATOKに乗り換えたほうがいいというくらい、仕事としてモノを書くなら便利な辞書です。
なお、ATOKのサイトを見ると、『共同通信社記者ハンドブック辞書』のほか、『NHK新用字用語辞書』もあるようです。NHKの辞書は使ったことがないのですが、おそらく、どちらを使ってもいいのだと思います。記者ハンドブックにせよNHKにせよ、辞書はあくまで基本であり、最後は個別に判断してクライアントに合わせることになるわけですから。
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コメント
最近はIMEの変換もいいと思いますよ。確かに昔のIMEは日本語の変換が弱いところがあったかもしれませんが。
翻訳者は確かにATOKがいいという人が多いのですが、いつもIMEを使用している私が試しに試用版のATOKを入れてみたところヒットしない変換がたくさん出てきて結局アンインストールしてしまいました。
まあ、このへんは変換履歴によって入力システムの賢さが設定されていくので、しばらく使い続ければ私のATOKも賢くなってくれたのかもしれませんが。
ただ、記者ハンドブックとATOKが連動するのはいいでしょうね。私の場合は、記者ハンドブックに準拠するように厳しいお達しはクライアントからはいただいたことはこれまではありませんが。。。
投稿: TK | 2010年10月 3日 (日) 22時15分
TKさま、
>私の場合は、記者ハンドブックに準拠するように厳しいお達しは
>クライアントからはいただいたことはこれまではありませんが。。。
産業系では、私もありません。
でも、それは要求されなくてもプロである我々がやるべきことだと私は思っています。なんというか、プロの料理人が、そうリクエストされなかったからと野菜を洗わずに料理したらいかんですよね? 本来は、そういうレベルの話だと思うのです。
ちなみに、テクニカルライティング系の書籍は、ほとんど全部に、「漢字は常用漢字を基本とする」みたいなことが書かれています。我々翻訳者の場合、書き起こす人たちに求められていることはすべてやった上で言語間の移動をしなければおかしいと思うのです。
投稿: Buckeye | 2010年10月 4日 (月) 18時35分
MS-IME が特に敬遠されるようになったのは、Windows XP や Office 2002 あたりで例の "Natural Input" が導入されたことも大きい要因なのではないかと勝手に推測しています。
少なくとも私はあの Natural Input の挙動がどうにも絶えられずに ATOK に戻ったクチです。Standard IME を選択しているはずなのに何かの拍子で Natural Input に切り替わってしまうし、その Natural Input を削除しようとすると Standard まで一緒に削除されてしまうという、もう理不尽だらけの仕様に耐えられませんでした。その後どうなっているのか知りませんが。
投稿: baldhatter | 2010年10月 4日 (月) 21時28分
朝日新聞の手引きは覚えられない...その通りだと思います。10年以上前に購入しましたが、すっかり本棚の肥やし(こんな言い方はしないですね)です。
実務翻訳だと、翻訳会社から支給されるスタイルガイド、クライアントが作成したスタイルガイド(?)、前回の訳例などなど参照資料が多くて作業ペースは落ちるばかり。
スタイルガイド間の違いはたいしたことないですが
それを念頭に置くだけでもペースが落ちるので
共同通信記者ハンドブックのインストールは必須だと
思います。
ただ、最近の常用漢字の改訂で、共同通信記者ハンドブックもアップグレードして対応くれないかなと思っているのですが、同じような人は少ないのなと、あまり期待しないでいます...
投稿: fukumimi | 2010年12月15日 (水) 14時54分
紙はもう常用漢字改訂へ対応した12版が出てますね>共同通信記者ハンドブック
ATOKとセットとなるほうも近々改訂されるんじゃないでしょうか。爆発的に売れているわけではないけれど、一定数は売れているはずだと思うので。あっと……翻訳祭でジャストシステムの人に会ったとき、聞けばよかったなぁ……
って、検索してみたら出てました。来年2月10日の発売だそうです。
http://www.justsystems.com/jp/products/dic_kyodo/
投稿: Buckeye | 2010年12月15日 (水) 15時41分
あれ?本当に出ていたんですね。気がつきませんでした。とても助かります。
ありがとうございました
投稿: fukumimi | 2011年1月 4日 (火) 22時44分
Windows 7マシンには、ATOK 2011と共同通信記者ハンドブックの12版を導入しました。もちろん、古いATOKから登録単語は引き継いであります。
今のところ特に大きな違いは感じないというか、導入直後は自動学習が蓄積されていないので私にとってはおかしな変換が多くて往生しています(^^;) しばらくしたらよくなるでしょう。
投稿: Buckeye | 2011年2月22日 (火) 09時28分
「朝日新聞」と「共同通信」は必須、と教えたり、自分でも使ったりしながら、実はATOK版は未導入でした。これを読んで、今度の新版を入れてみようかなという気になりました。
紙版は、朝日も新しくなりましたね。古い方に「改訂新版」というタイトルがついているのでややこしいですが、色の濃い方が2010年12月発売の新常用漢字対応版です。
http://amzn.to/hDYfm1
投稿: Nest | 2011年2月22日 (火) 09時41分
ATOK用共同通信記者ハンドブックはけっこうしますけど、1回買えば、あとはバージョンアップでそこそこの値段になります。個人的には、ここまでセットで「ATOKの値段」というか、「日本語入力ソフトウェアの値段」だと思うようにしています。
投稿: Buckeye | 2011年2月26日 (土) 15時08分