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2010年9月 4日 (土)

『「予測」で読解に強くなる!』『文章は接続詞で決まる』

文章には流れというものがあります。この流れについて考えてみるときのとっかかりとして参考になる書籍、2冊です。いずれも新書なので、でかけるときにカバンに入れて電車の中で読むなど、気楽に読むことができます。ただし、我々にとっての勝負はそのあと。書いてある内容を翻訳という仕事にどう生かすのか、具体的なやり方のレベルまでブレークダウンし、かつ、くり返し練習してみる必要があります。

■『「予測」で読解に強くなる!』

1冊目は『「予測」で読解に強くなる!』。著者の石黒圭氏は文章理解における予測の機能を研究している人物で、本書は、博士論文『日本語の文章理解過程における予測の型と機能』(ひつじ書房)をベースとして一般向けに大きく書き換えたものだそうです。元の論文のほうが詳しく書いてあっていいといえばいいのですが、そこまでしなくてもいい気がします。翻訳の仕事に活用するという面では、「文章は予測しながら読んでいる」ということはどう訳せばいいかと自分で考える部分に意味があるのだと思いますから。

私が工学系だからかもしれませんが、言語学の博士論文、私はいつも最後まで読み通せずに終わっています。書籍になっているもの、何冊かは持っているのですが……

翻訳に役立てようと思いながらこの本を読むと、たぶん、次のように思うでしょう。

文章を読むとき先を予測しており、それが大事なのはわかった。でも翻訳の場合、話の流れは原文で決められているから、我々の仕事にはあまり関係がないのではないか。

この考え方、半分は合っているけど半分は間違っていると思います。

半分合っているのは、「話の流れは原文で決められている」部分。翻訳はあくまで翻訳ですから、原文の流れを無視できません。ここはいかんともしがたい部分があります。ただし、文章の順番を変えたり、情報の一部を別の文に移動させたりといった形で調整することは、マレながらあります。そういう意味では、こちら部分も若干ながら違うとは言えます。

間違っている部分は、「我々の仕事にはあまり関係がない」という部分。少なくとも私は、おおいに関係があると思っています。

予測が働いてスムーズに読み進められる原文を訳したとき、やはり同じように予測が働いてスムーズに読み進められる訳文ができているでしょうか。どういう話の展開であるのか、まったく知らない人が読んだときにも、同じ予測が働くでしょうか。そういう予測を促す語順、表現になっているでしょうか。原語の構文そのままで、予測を妨害する語順や表現になっていないでしょうか。そうでなくても、言語が違えば展開も異なり、話の流れは若干、追いにくくなるのです。訳文は、さらに足を引っぱることは少なくともしてはならないし、できれば、言語の違いで追いにくくなる分を少しでも補正してあげるべきでしょう。

■『文章は接続詞で決まる』

このように文章の流れを作ろうと思ったとき、参考になりそうなのが、もう1冊の『文章は接続詞で決まる』です。

こういう文はこう訳すといった翻訳の本がたくさん出ていますが、文は前後から切りはなせば死んでしまうわけで、1文、1文に焦点をあてて考えたのではダメです。特に翻訳の場合はそうです。

余談ながら、だからこそ、翻訳対象が1文ずつウィンドウに表示されるTradosなどは文脈の理解と表現にマイナスだと考えるわけです。

接続詞が文章の流れを作る一助となる点には異論などないはずだと思いますが、そこを改めてとりあげるとなると、(↓)のような意見が出てくるかもしれません。

いや、接続詞なら原文にもあるだろ? それを訳せばいいんだから、翻訳者にとって接続詞はそれほど大きな問題にはならないはず。

そう思う人は、『文章は接続詞で決まる』を読んでみてください。

本書で石黒氏は、文末表現も接続詞の一種であるとしています。文法用語として文末表現を接続詞と表現するのがいいのか悪いのかはいろいろな意見がありそうですが、ともかく、日本語は文末表現が多彩であり、文末で前後の文章とのつながりを示したり、読者を誘導したりできるし、するのが当たり前の世界であるのは確かだと思います。でも、翻訳されたものは、この部分が使われていないことが多い。ある意味、日本語の強みを捨てているわけで、読みにくくなるのも当たり前だと思います。また、日本語への翻訳でそういう状況であるということは、逆に、外国語への翻訳では原文の日本語における文末表現がきちんと読みとられていないケースが多いだろうという推測もなりたちます。

文末表現といえば、『ノダの意味・機能―関連性理論の観点から』(くろしお出版)という本も持っていたりします。3年ほど前に買ったのですが、結局、8割くらいしか読み進められなかった記憶が……(^^;) いいことが書いてあるとは思うのですが、こちらも博士論文が本になったもので、私には荷が勝ちすぎたきらいがあります。内容的にはお勧めできる本ですが、こういう話がよほど好きでないと読み切れないだろうとも思います。

文章の流れを作るのはここで取りあげられている接続詞(狭義の接続詞と文末表現)だけではありませんが、本書の範囲だけでも考慮すればいろいろと大きく違うだろうとも思います。翻訳するとき、流れに着目するようになれば、「接続詞」以外にもいろいろと気づいて身についてゆくポイントが生まれてくるはずだとも。

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