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2010年8月30日 (月)

翻訳通信100号記念セミナー・パーティ

山岡洋一さんが月一で発行を続けておられる『翻訳通信』が100号に達することをうけ、記念のセミナーとパーティが2010年8月28日におこなわれたので参加してきました。

月一ですから、8年強、かかっているわけです。それだけの期間、毎月休まずに長い記事を書き続けてこられたのはすごいと思います。しかも、実は一度、ナンバリングをリセットされていて、旧シリーズも60号近くが出ています。合計すると160号、14年くらいになるでしょう。

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セミナーでは、いろいろ、そうだなぁと思うお話があったのですが、ひとつだけ、気になった点があったので取りあげてみたいと思います。

山岡さんが翻訳の世界にはいられたのが25年前。そのころは、「翻訳者は数年たつと筆が荒れて使えなくなる」と言われていたそうです。「内容がわからないものを、構文解析と辞書を使ってなんとなくわかったかのように訳せばお金がはいってきた。そんな形で仕事をしていたら、手を抜くようになって荒れてゆくのが当たり前」とのこと。

これに対して現在は、金銭的には厳しくなったが、過去100年になかったほど良い時代だと山岡さんは言われます。「原文の表面(構文と訳語)ではなく、意味を重視する」新しい翻訳のスタイルが受けいられるようになったので、翻訳者となって5年、10年と時間がたてばどんどん力がつく世界になったというのです。

このお話、半分は正しいけど半分は間違っているんじゃないかと思ったのです。

半分というのは、つまり、一部の翻訳者にとっては正しいけど、他の翻訳者にとっては間違っているということです。言い換えれば、いまだに、構文解析と辞書で作ったような訳文、「決まった訳語を使って決まった訳し方で訳す」翻訳調の訳文が求められていると思っている翻訳者や、それで必要十分だと考えている翻訳者、あるいは、単価が下がったのだから品質を落として処理量を上げようと、そういう形で粗製濫造する翻訳者がいるんじゃないか。そう、思うのです。少なくとも、実務翻訳の世界には。

「決まった訳語を使って決まった訳し方で訳す」というパターンは、ローカリゼーション系におけるスタイルガイドや用語集の話でよく取りあげられる問題です。ローカリゼーションは質が悪いと言われるときに悪役として取りあげられるポイントであり、ローカリゼーション系でも力のある人がスタイルガイドや用語集の悪影響として挙げるポイントでもあります。そしてまた、そういうやり方にしないと翻訳会社からダメだしをされるとグチの種になるポイントでもあります。

「内容がわからないものを、構文解析と辞書を使ってなんとなくわかったかのように訳せばお金がはいってくる」というのは、自分が興味をもってもいない分野の仕事を打診されたからと請けてしまうという、駆け出しの人たちによくあるパターンそのものでもあります。

機械翻訳(今、使われているルールベースの機械翻訳)をツールとして使うという人たちの訳し方も、基本的に、「構文解析と辞書」で訳文を作るパターンなわけです。

『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』-誤訳の指摘」で検討したようなこまごましたことなど気にせず、こう書いてあるからこうってやってしまえばスピードアップするわけで、「単価が下がったんだから質は落としていいんだろ? 質を落として処理量を上げろってことだろ?」と思う翻訳者も、中身を考えない「構文解析と辞書」による英文和訳パターンに近づいてゆくものと思われます。

最近は、翻訳者となって5年、10年と時間がたてばどんどん力がつくというのは、別に、時代が違うからとかそういうことではなく、「やることが昔と変わったから」です。逆に言えば、やることが昔と同じなら、その結果も昔と同じになります。そう、「筆が荒れて使えなくなる」わけです。「中堅はどこへ消えた?」で手が荒れる中堅クラスが増えているらしいことを紹介しましたが、今回の山岡さんの話を聞きながら、この記事に書いたことを思いだしてしまいました。

もちろん、実務系でも、「原文の表面(構文と訳語)ではなく、意味を重視」して訳して行けば力もつきますし、また、そうして力がつけば認められる業界構造にもなっていると思います。

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コメント

こんにちは。

原文に忠実な逐語訳をしないと、時々、訳抜け(日本人チェッカーから)の指摘を受けることがあります。その都度、説明しなければならないので、余計な時間を取られます(可能な限り、指摘を受けそうな箇所は翻訳者コメントを作っているのですが)。


投稿: takey | 2010年8月30日 (月) 12時41分

takeyさん、

ああ、そうでした、そうでした。ローカリ以外の分野でも、翻訳会社側に逐語訳というか、英文和訳的に訳語が表れていないとダメって人がいたりしますね。

指摘受けてから説明でも受ける前の翻訳者コメントでも、正直、余計な手間ですよねぇ。最初はお互いによくわからないからそういう質問があってもいいと思いますけど、きちんと考えてやっていることがわかったあとは、信じて任せてもらうのが一番だと思うのですけど。

投稿: Buckeye | 2010年8月30日 (月) 13時34分

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