翻訳の新しい進め方
激安翻訳のサイトといえば、当然、不特定多数からの発注を受けるという形になるわけで、「激安翻訳のサイト」ではそういうものを紹介したわけですが、それ以外にも新しい流れがあります。通常の産業翻訳とは違う新しい進め方も紹介しておきましょう。
この春、ここを推進している研究機関の人たちのお話を聞きに情報処理学会にでかけてゆき、セッション後、一緒にお昼を食べたあと、研究室におじゃましてさらにいろいろと話をしてきました。言語処理系の研究者の方々が推進しており、翻訳の現場である我々とはさまざまな面で温度差があるのですが、こういう道もあるのかなと思います。
「みんなの翻訳」は完全なボランティアで、お金はからみません。依頼者がおらず、「これは訳す価値がある」と思った人が自分で訳して公開する(公開しなくてもいい)というのが基本ですから、お金の動きようがないともいえます。「みんなの翻訳」は、翻訳のツールを提供するとともに翻訳したものを公表する場として機能するだけということです。
推進しているところを見ればわかるように、商売にしようというつもりもまったくありません。
なお、背景にある考え方は(↓)を読むとわかります。
「JTF翻訳祭2008」でも触れた話です。サン・マイクロシステムズさんがユーザーのコミュニティに呼びかけ、翻訳に協力してくれる人たちを集めて一部のドキュメントについて翻訳をしてもらうという形です。とりまとめやサポートはサン・マイクロシステムズさんの人がやっているようです。
こちらもお金は動いていないはずです。JTF翻訳祭2008の講演で伺った話によると、サン・マイクロシステムズさんとしては、翻訳のすべてをコミュニティ翻訳にしようということではなく、通常の発注と住み分けをしてゆくとのことでした。
最終的にどうなるのかはわかりませんけどね。コミュニティ翻訳があまりにうまくゆくなら(そんなにうまくゆくはずがないとは思いますが)、翻訳のすべてをコミュニティ翻訳で賄うって話になるでしょうし、まったくうまくゆかないなら(そういう話にもならないと思いますが)、通常の発注にすべてを戻すって話になるでしょう。
●オープンソース系の「コミュニティ翻訳」
オープンソース系ソフトウェア関連では、マニュアルなどの「コミュニティ翻訳」が行われているケースがけっこうあります。コミュニティ側から自発的な動きとして始まるパターンです。もちろん、お金は動きません。
■補足
「みんなの翻訳」もコミュニティ翻訳の一形態だと私は思うのですが、このコミュニティ翻訳という動きの背景は、Web 2.0時代になって、人々の働き方がどう変わるかを明らかにした書籍、『ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ』が詳しく分析しています。
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コメント
数少ないボランティア体験からふと思ったこと。
翻訳って、一人でかかりっきりになる時間の比率が大きく、相手とともに行動する、対話を行うという要素の比率が低すぎるのが、ボランティアでやってもいいな、という気持ちの障壁になりそうです。
仮にもの凄く粗い訳であっても、それに対するお礼とか突っ込み(さらなるリクエスト)とかが返ってくる場があれば、将来(いつやねん?)やってみるかもしれないけど、可能性としてはたぶん他のボランティア種目を選びそう。
と、自分のことは棚に上げておいて、
通訳の方が海外のYouTube動画の概要などを、吹き込んでもらえると、ありがたいな~。(リスニング能力、退化の一途!)
投稿: あきーら | 2010年7月 9日 (金) 22時47分
> あきーらさん、Buckeye さん
私が大昔かかわっていたあるニュースサイトのボランティア翻訳では、第一稿を上げるのはもちろん単独作業ですが、それを ML に流してみんなで叩き合っていました。公開する期限を決めていたので、短い時間に濃い議論ができました。そのころはまだ翻訳者ではありませんでしたが、仲間とのコミュニケーションも含めて充実した時間でした。
一応プロになった今ではなかなか経験できないことです。なので、やりようによっては、翻訳もボランティアならば共同作業にできるのではないか…などと思います。
実はそのプロジェクトは、翻訳対象もメンバーも変わってしまいましたが、現在でも同じように続いています。今も飛び交うメールと自分の孤独な作業を比べると、なんと遠くへ来てしまったものかと… (遠い目をしてどうする!
投稿: yunaito@sapporo | 2010年7月10日 (土) 00時32分
>あきーらさん、
私も、翻訳という切り口からはいって無償のボランティアで翻訳をするというのはないだろうなと思っています。別の切り口からはいったら中に翻訳という作業があり、自分が手伝えるベストなパートがそこだからという形ではやったことがありますし、今後も、そういうことがあればやるだろうと思いますけど。
>yunaitoさん、
いい経験をされたようですね。
>今も飛び交うメールと自分の孤独な作業を比べると、
>なんと遠くへ来てしまったものかと…
ある意味、アマが複数人かかって検討した結果よりも上のものをひとりでさっと作りあげるのがプロ、とも言えますね。自分ひとりの中に複数の人間を置くというか。
でも、プロが集まって、わいわいがやがや議論することはできますよ。仕事でやったものを題材というのは守秘義務から難しいことが多いですが、原文がウェブに公開されているものなら守秘義務に引っかからないので可能性はあります。あるいは、仕事以外でそういう公開モノを訳してみてもいいですし。
で、それをネタにみんなでワイガヤやるんです。おもしろいですよ。自分の間違いを指摘されてへこむこともありますけど。(プロなんだから間違っちゃいけない、間違うはずがないみたいに思っているときついんですが。仕事でミスしないためのトレーニングではミスってみるのが一番なんですけどね)
自分の訳文をたたき台にするのはさすがに……ということなら、原文を出して、いついつまでに訳文を投稿してくれって感じでみんなに訳文を出させる方法もあります。人の訳文に突っ込むためには、自分も訳文を提出していることって条件をつけてもいいですし。
翻訳フォーラムでも、昔はよくやっていたのですが、最近は言い出す人がいなくてほとんど行われなくなりました>オンラインの勉強会
投稿: Buckeye | 2010年7月10日 (土) 06時52分