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2010年7月 4日 (日)

単価下落がもたらしたもの

このところの単価下落に伴って生まれたのではないかと思う流れがあります。

英日翻訳のネイティブチェックやリライトです。

できの悪い英日翻訳者を、日本語ネイティブの英日翻訳者に外注でチェック・リライトを依頼するというヤツです。もちろん、こういう話は昔からあったのですが、それが増えていて、どうも常態化しているところもあるのではないか。周りを見ていると、そういう気がするようになってきました。

翻訳の世界では、日英翻訳などのように、日本人翻訳者が訳したものを英語ネイティブがチェックするという流れがありました。たぶん、これと同じ発想で英日翻訳のネイティブチェックやリライトもやっているのではないかと思うのですが……このふたつは前提が大きく違うんですよねぇ。

日英翻訳の場合、日本語に書かれている内容は一通り、英語に移っていることが前提です。ただ、文法的なミス、冠詞のミスなどもあるし、表現の幅も日本人翻訳者は狭くなるので、それを「補う」ために、英語ネイティブによるチェックやリライトをかけるわけです。

これに対し、最近よく聞くものは、翻訳の時点でめちゃくちゃになってしまったものを「なんとか合格点まで持って行く」ことを目的とします。これ、本気でやると、訳し直すよりも大変です。

●訳すとき

(原文を読む→訳文を書く)→対応を確認する→訳文の完成度をチェック
      ↑
ややこしいものの場合、いったりきたりすることもある

●他人の翻訳を直すとき

(訳文を読む←→原文を読む)をくり返して使える部分を探す
        (ワンパスではまずすまない)
               ↓
使える部分を残す形で訳文を書く(ここでも原文を読む必要がある)
               ↓
       完成した訳文と原文の対応を確認する
               ↓
          訳文の完成度をチェック

このように、自分で訳すときには不要な、訳文のうち、どこが使えてどこが使えないのかを確認する部分が発生してしまいます。この分、直しは大変になるわけです。

日英翻訳のネイティブチェックでは訳文だけを読んで直すので、原文や訳文をいったりきたりして使える部分と使えない部分を判別するという作業がありません。だから、200ワードなら200ワードを訳すよりも安い料金でチェックができるわけです。英日翻訳でも、もともとの翻訳がよければ訳文だけざっと読んで引っかかるところだけ直すという手が使えます。でも、そのくらいいいものなら、直してくれって話にならないんですよね。

結局、翻訳の時点でめちゃくちゃになってしまった英日翻訳を日本人翻訳者が直すというケースでは、最初に、訳文のうち、どこが使えてどこが使えないのかを確認する部分が余分に発生します。

作業が大変な分、料金に反映されるかというと……現実はされていません。翻訳会社としては、すでに1回、誰かに訳してもらってそちらの料金が発生しているわけで、そこにさらに誰かの翻訳料金をフルに払えば単純に売上以上の支出になりかねません。だから、翻訳料金に比べればごく安い料金で「チェック」や「リライト」をしてくださいって依頼になるわけです。

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コメント

これだと思います。価格破壊の原因は、「主婦翻訳者」よりも、外国人(主に中国人?)が日英・英日翻訳に加わってきているのが大きいと思います。

"""
日英翻訳の場合、日本語に書かれている内容は一通り、英語に移っていることが前提です。ただ、文法的なミス、冠詞のミスなどもあるし、表現の幅も日本人翻訳者は狭くなるので、それを「補う」ために、英語ネイティブによるチェックやリライトをかけるわけです。
"""

これは理想ですが、実際に「英文チェック」として頼まれるものは、Buckeyeさんの仰る英日のネイティブチェックのような状態がほとんどです。(おそらく、ブラッシュアップ程度で済むものは、日本語ができない人に回るのではないかと思います。)

この流れで、日本語のネイティブスピーカーが「ネイティブチェック」の難しさが分かれば、かえって良いと思います。(^^)

投稿: Ryan Ginstrom | 2010年7月 4日 (日) 20時06分

Ryan Ginstromさん、

理想は理想で現実が異なることはよく知っているのですが……でも、理想が前提となっているので、日英翻訳のネイティブチェックのとき、原文の日本語を渡され、この日本語に照らして英語を直してくれって話にはなりませんよね? 少なくとも、私が知っている範囲ではそういうの、ないんですが。ああでも、

>おそらく、ブラッシュアップ程度で済むものは、
>日本語ができない人に回るのではないかと思います

と書かれているということは、原文の日本語を渡されるケースが増えているってことなのでしょうか。

>外国人(主に中国人?)が日英・英日翻訳に
>加わってきているのが大きいと思います。

ある意味、それが大きく、ある意味、それほどでもないんだと思います。

それほどでもないというのは、マーケット分析からの判断で、「単価下落の原因」(http://buckeye.way-nifty.com/translator/2010/07/post-2ce6.html)に書いたとおりです。

ある意味、それが大きいというのは、現実がどうであれ、「外国人の参入でマーケットが下落している(下落するのが当たり前の状況である)」とみんなが考えているからです。

価格はあがるとみんなが考えればバブルになります。あがる理由なんてなくていいんです。それと同じです。今、仮に翻訳単価がじりじりあがっていたら……それはそれで当然だという理由が出てきます(景気は回復しているということだし、とか)。ホントの因果関係がない・わからないとき、みんながそう考えているからというのは本当の変化をもたらす大きな力になります。

だいたい、もし、外国人の参入でボロボロの翻訳が増えており、それがマーケットを押し下げているって、論理としておかしいんですよね。だって、安い値段並みのモノが出ているってことでしょう? それは本来的な意味でマーケットが落ちているのではなく、一部の仕事が粗悪品に流れている、なわけです。もちろん一部の仕事が流れればその価格帯の仕事が若干減ったりはするでしょう。そのとき、外国人の参入でマーケットが落ちていると思うから、みんな、価格を下げないと仕事量が確保できないと思う→下落スパイラルに落ち込むってことになってるんだと私は思います。

ま、ホントのところは誰にもわからない闇の中ではあります。

投稿: Buckeye | 2010年7月 4日 (日) 21時01分

Buckeyeさん

> 原文の日本語を渡されるケースが増えているってことなのでしょうか。

私にとって、最初からそうでした。私に頼まれる「英文チェック」は、日本語の原稿を見なければ、意味不明なところがとても多いです。英語のネイティブの日英翻訳者にとって、これは普通だと思います。ブラッシュアップだけで済むものは、もっと安く仕事してくれる人(=翻訳者として生活できない人?)にいくのではないかと思います。

なお、外国人翻訳者について、ボリューム的には分かりませんが、中国などに進出すると、「コストダウン病」と言ってもいいほど、何でも値切ろうとするようになる会社は何回か見ています。中国で(使い物にならない)翻訳が1万円で買えたら、今までごく普通に払っていた10万円がどうしても高く見えてしまうらしいです。使い物にならなくても、その安さ事態がプレッシャーになってしまうと思います。
(ちなみに、アメリカなどで発注する日英翻訳に関して、すでにインドが大きな発注先になっていると思います)

投稿: Ryan Ginstrom | 2010年7月 6日 (火) 09時13分

Ryan Ginstromさん、

そうですか、そういう仕事がけっこうあるんですね。ご苦労さまです。私が昔から組んでいる英語ネイティブのチェッカーさんからは(少なくとも普通に生活しているぶんにはまったく困らないくらい日本語がわかる人です)、日本語と照らし合わせるような仕事はしたことがないと聞いていました。

コストダウン病はあるでしょう。使い物にならない翻訳でも、それが使い物にならないとわからない人にとっては痛い目にならないので……翻訳というのは、よくもわるくも人死にがでませんからねぇ。

我々としては、そういう仕事は追わず、きちんとした仕事にきちんとした料金を払ってくれるクライアントをさがすしか道はないのではないでしょうか。痛い目にあって困っているところも少なくないはずですから。

投稿: Buckeye | 2010年7月 6日 (火) 20時21分

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