ロケットペンシルとところてん
しばらく前、たしか今進めている書籍の翻訳で、後ろから押されて順番にずれて消えて行くような話で「ところてん式」と書こうとしました。そこでふと思いだしたのが、少し前に休憩時間に見たDVD。若い人にロケットペンシルのようなものと説明したらわかってもらえず、ところてんと言いなおすシーンがあって……「ところてんなんて、最近の若い人、知らないんじゃないの?」と思わず、心の中で突っ込んでしまったのです(職業病です^^;)。
自分の常識は世間の非常識。まずは、一番身近な世間、嫁さんに聞いてみました(夫婦はいろいろな意味で似ていたりするので、このふたりの常識が世間の非常識ってことはいくらでもあるのですが)。
- (Buckeye)
- 「ところてん式」ってわかるよね?
- (嫁さん)
- わかるよ?
- (Buckeye)
- じゃあ、それがどうしてああいう意味になるのかは?
- (嫁さん)
- 知ってる。こう、なんか箱みたいなのに入れて後ろから……
- (Buckeye)
- そうそう。で、それ、見たことある?
- (嫁さん)
- テレビでね。実物はない。
私は田舎育ちだからか嫁さんよりちょっと年上のせいか、子どものころ、ところてんをシュコンと押しだして食べた記憶があります(ちなみに箸は1本でした。食いにくいと思うんですけどね)。でも都会育ちだと嫁さんの年代でももう実物を見たことがないわけです。最近の若い人は「ところてん」と聞いても何かわからないかもしれないし、わかっても、せいぜい、スーパーで売られている袋入りの麺類みたいなものってイメージしかないかもしれません。
お箸1本って、年代と地域によるようです。とあるところてん屋さんによると「現在でも年配の方や、一部の地方(名古屋辺り)ではところてんをお箸一本でツルツルッと召し上がって頂いてますが」だそうで。ははは、私はやっぱりもう、「年配の方」にはいるんですね。ま、客観的に見て、そういう年代になってると思いますけど。
グーグルで「"ところてん式"」や「"ところてん方式"」を検索してみると……うーん、わりとよく使われている表現ではあるけど、わからないと言っている人もたくさんいるし、わからないであろうことを前提に説明して使っている人も多いようです。対象読者によって使っていいけど(年齢高め、教養高め?)、もっと幅広い人を対象とするなら避けておくほうが安全という領域にはいっているのかもしれません。基本的には比喩なわけで、大本の、あの押し出されてくるイメージを知らなければ意味がよくわからないのも当たり前かなと思いますから。
ちなみに「"ところてん"」はヒットが50万、「"ロケットペンシル"」は2万でした。ロケットペンシルよりもところてんのほうが広く知られているのは、まあ、間違いないと言えるくらいでしょうか。
ひるがえって、今、普通に使われている慣用句のうち、現物を知らないものって山のようにあるわけで、そういう意味では、現物を知っているか知らないかはどちらでもいいという考え方もあります。「ところてん式」というのは、今、比喩から慣用句になるかならないかの分岐点あたりにいる、ということなのかもしれません。
そんなこんな、いろいろと考えてくると……使っちゃまずいとも大丈夫とも言えないグレーゾーンという感じがします。
ちなみに案件の中では、「順次、後ろから押し出されるように……」みたいな感じで説明的に訳して処理しました。「ところてん」という食べ物を例にあげた比喩を使うと、内容に対し、ちょっとくだけすぎる感じになるかなと思ったので。
| 固定リンク
「言葉-日本語」カテゴリの記事
- 日本語の文末表現(2019.01.28)
- 部分否定(2018.08.11)
- 主語を出さなければならないとき(2012.03.06)
- 翻訳者と日本語入力IME(2010.10.02)
- ひらがな・漢字・カタカナの連続(2009.03.05)
コメント
私、高校生の頃、よく家でテングサからところてん作って、ウニュ~て突いてました。
なんでかというと、その頃は毎夏のように三宅島に遊びに行っていて、そこで海の家をやっているお婆ちゃんと仲良くなったからなんですけど、いつも1日に2食くらいはそのお婆ちゃんのお店でところてんを食べていて、お土産用の天草を買って帰ったら案外簡単に作れたんでした。そのお店も、泊っていた民宿も、先般の大噴火でずいぶん変わっちゃったろうと思います。
で、その押し出し器のイメージが実際にあると、「ところてん式」っていう比喩がどうもしっくりこないんですよね。「順次、後ろから押し出される」だけじゃなく、押し出す前と後では形が変わるじゃないですか^^;
投稿: baldhatter | 2010年6月25日 (金) 17時12分
え~、作ってたんですか? それはまた……
>押し出す前と後では形が変わるじゃないですか^^;
言われてみればたしかに。
本人が何もしなくても後ろから押されて自動的に出てゆくってイメージの部分は、まあ、形が変わってもなんでもいいっちゃいいのかもしれませんが。中学から大学までところてん式、みたいな感じのときは。だって、出てゆくときは世間的にいろいろと変わるわけだし!?
投稿: Buckeye | 2010年6月26日 (土) 08時54分
わたしが知っているところてんは、すでに豆腐のパックみたいな容器に入っていました(あ、ちなみに、豆腐については「パープー♪」と売りに来るのに、ボールを持って買いに行った世代です)。今から5~6年前に母がどこかの観光地で押し出し機(竹でできてました)を買ってきてくれたのが、たぶんオリジナル(に近いもの)を見た最初で最後。
で、ロケットペンシルについては、今初めて知りました。これ、先頭の芯が丸くなったら後ろへ回すんですよね。そしたら、そのうち一巡して丸い芯が先頭に来ませんか?そしたらもうおしまい?削るんですか?
投稿: miko | 2010年6月28日 (月) 02時57分
mikoさん、
ところてんって、専用の道具がないとダメだからか、けっこう早くに今の形で売られるようになった気がしますね。カタマリで食うものじゃないし。
>先頭の芯が丸くなったら後ろへ回すんですよね。
>そしたら、そのうち一巡して丸い芯が先頭に来ませんか?
>そしたらもうおしまい?
>削るんですか?
あ、いや、そういう本質を突いた疑問は……(^^;)
まあ、なんというか、たぶん、鉛筆を何本も持って歩かなくてもコレなら1本ですみますよって発想の商品だったんだと思います。だから、丸い芯が先頭に来たら、後ろへ回しながら削るんです。
問題だと私が思ったのは(←持ってた^^;)、削るのがけっこうめんどい。鉛筆も削るから同じかというと、削るときにも後ろへ回さなきゃいけないのがめんどい。たいした手間じゃないのに。あと、丸くなって削って……丸くなって削って……丸くなって削って……けっこうすぐに芯がなくなっちゃいます。
おそらく商品として最大の欠点だったのは、鉛筆削り器で削れないことでしょうね。私は鉛筆をナイフで削っていたので気になりませんでしたが、そんなことしていたの、小学校の1学年200人で私だけでしたし。中学の1学年400人でも私だけだったかも。
なんというか、ガジェット感満載だけどイマイチ間が抜けてる商品だったって、私は思っています。
投稿: Buckeye | 2010年6月28日 (月) 06時14分