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2010年6月27日 (日)

『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』

年初からずっとブログ更新が滞った原因の第2弾、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』が、7月15日に出ることになりました。

プレゼンテーションのうまさで当代随一と言われるスティーブ・ジョブズを実例に、コミュニケーション・コーチであるカーマイン・ガロがプレゼンのやり方を説明する本です。精神論ではなく、考え方から準備の進め方、しゃべり方、立ち方、練習の仕方まで、ポイントごとに詳しく解説されています。これを読めばあなたも明日からジョブズ並みのプレゼンができる……わけはありませんが、ポイントをひとつでもふたつでも活用し、練習をしてみれば、今より上手になることは請け合い。そんな本です。

この本は……とても楽しく訳すことができました。書籍というのは長丁場なので、けっこう楽しくやっていても、途中、苦しいことがあったりするものなのですが、この本は、終わったとき、「楽しかった~」という思いだけが残りました。こんなの、『アップルを創った怪物―もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』以来です。

今回の本が楽しかったのは、しゃべりの大半がジョブズのプレゼンだったからかもしれません。優れたプレゼンテーションとするポイントとして本書では「楽しむこと」が挙げられていますが、ジョブズが楽しんでいることがびんびん伝わってくるしゃべりが多いのです。その楽しさが伝えられる訳文にするため、日本語のほうもちょっとはっちゃけたものにしてあったりします。

しゃべりを大切にということでは、日本語の組版もいつもとちょっと違い、段落中のしゃべりが目立つ組み方になっています。こちらの形のほうが日本語としては自然だと思うのですが、英語のノンフィクションは分厚く、日本語版は少しでも薄くしたいとなることが多くて、こういう余裕のある組み方はなかなかできないのですが……今回の本はそれほど厚くなかったからか、出版社さんのアイデアでそういう組み方になっています。

あああと、分析対象となったプレゼンテーションについては、英語と日本語が並記されているのも、ちょっと珍しいかもしれません。

訳者あとがきにも書きましたが、プレゼンテーションというのは現代社会につきものです。そういう意味でとても役に立つ1冊だろうと思います(英日対訳で読んで訳に立つかどうかはわかりません^^;)。そういうことをごちゃごちゃ考えずに楽しむこともできる本になっているとも思います。

■ウェブにあがった書評(2010年7月12日追記)

(見|三|魅)せる - 書評 - スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン」-404 Blog Not Found(小飼弾さん)

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」-kikakuyaのバインダー

【スゴ本】『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』カーマイン・ガロ」-マインドマップ的読書感想文

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■訳者あとがき

本書の翻訳は物欲との戦いだった。欲しくなるのだ。iPhoneが、iPodが、そして、マックブックが。

ジョブズのプレゼンテーションはすごい。私なんて、終日パソコンの前から離れないような生活で携帯はほとんど使わない上、唯一よく出かける先は「このあたりでiPhoneのキャリアは使い物になりませんよ」と言われてあきらめたはずなのに、それでも、また、iPhoneが欲しいと思ってしまった。そう思わせるほどの力があるのだ。

そんなめちゃくちゃすごい力はどこから生まれるのか、どうしたらその力を身につけられるのか―それを解きあかしてくれるのが本書、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則』である。

そう、あのプレゼンテーションは身につけることが可能だ。本書は、あのすばらしいプレゼンテーションを作りあげる要素を一つひとつ、とりあげて解説してくれる。どれも、特別な才能などなくてもできるものだ。効果は保証付き。コミュニケーションコーチである著者、カーマイン・ガロがさまざまな人に教えて、効果が確認されているからだ。

「誰も思いつかなかった世界一のアイデアを思いついても、周りを説得できなければ意味がない」―本書冒頭の言葉である。そういうもったいないことが起きる原因として、著者はわかったようなわからないようなバズワードの羅列などを挙げる。個条書きにいたっては諸悪の根源と手厳しい。私は仕事柄、米国系企業のプレスリリースやプレゼンテーション資料の翻訳をよくするのだが、ひとつでもいいからだめな例が当てはまらないものさえほとんどない。その米国人と比較してプレゼンテーションが下手だと言われるのが我々日本人だ。周りを説得できずにいいアイデアを殺すなどというもったいないことが、きっと、毎日、たくさん起きていることだろう。

「いいアイデアなのに、どうしてみんな、わかってくれない」……そんな悔しい思いは、これから過去のものになる。少なくとも、本書を手にした人にとっては。

さて、訳者の独断と偏見で本書の上手な使い方を提案したい。次の3段階だ。

まず最初は、楽しんで読む。分析の対象はジョーク好きのジョブズである。にやりとしたり吹きだしたり、自分の感情が揺れうごくのを楽しみながら読んでほしい。何か覚えようとか大事なところにラインを引こうとか、そんなことは気にせず、ただただ楽しんでほしい。「楽しい体験を提供すること」―それが、ジョブズがプレゼンテーションをするときの目的なのだ。聴衆のひとりとして、まず、その体験をしてみることが先決だと思う。

2度目は、自分のプレゼンテーションに応用することを考えつつ、著者の分析に耳を傾けて読む。プレゼンテーションの動画もなるべく見てみよう。間の取り方、声の大きさ、立ち方、座り方、手の使い方、アイコンタクト……動画でなければわかりにくいことがたくさんある。ぜひ、本書と併用してほしい。英語がよくわからない人でも、すこし注意すれば、分析に使われた部分がわかるはずだ。本書は、ジョブズの講演からとった例について、彼がしゃべった英語と私の訳が併記されている。背後に大きく映るスライドで見当をつけ、そのあたりで本書に書かれた英語を探せばいい。

最後はプレゼンテーションへの応用だ。プレゼンテーションをする機会が訪れたら、まず本書を取りだそう。シーン1からシーン18まで、章末にまとめられているポイントを見ながら準備を進めるのだ。なぜそのようなポイントが出てきたのか、よくわからないと思ったら、その章はざっと読み返した方がいい。もちろん、時間に余裕があれば、すべての章を読み返すことをお勧めする。

なお、ジョブズのプレゼンテーション術を身につけるためには、最後のこの段階をくり返す必要がある。何度もトレーニングして体に覚え込ませるのだ。一朝一夕で身につくはずがない。ジョブズ本人でさえ、30年以上の時間をかけて身につけたのだ。彼が作った道を歩けばいい我々は、そこまで時間がかかることはないが、それでも、かなりの時間がかかると覚悟しておくべきだ。だから、本書はすぐ取りだせるところに置いてほしい。プレゼンテーションの機会があるたびに本書を取りだし、チェックポイントを確認しながら練習をくり返してほしい。

さいごにもうひとつ。プレゼンテーションというとスライドを使ってしゃべることを想像するが、それは狭い意味のプレゼンテーションだ。広くとらえれば、誰かを説得したいと思って話をするとき、すべてがプレゼンテーションとなる。製品の売り込み、就職や転職における自分の売り込みなど、仕事に関連するものはもちろんだが、それに限るものでもない。説得というのは、私生活でもさまざまな場面で登場する。ジョブズ並みの現実歪曲フィールドを身にまとうことができれば、いろいろなことが大きく変わるだろう。

自分はジョブズ並みの現実歪曲フィールドをまとっている、あるいは、現実歪曲フィールドなどいらない―そう思う人に本書は不要だ。でももし、ジョブズのめちゃくちゃすごい力が自分も欲しい―そう思うなら、本書は最高の1冊になると思う。

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コメント

こんにちは。

ジョブズのプレゼンは本当に素晴らしいですね。最近のiPhone4のプレゼン観ましたが、感心しました(1994年にMacを買って以来、Mac派です。仕事のために仕方なしにwindowsマシンも使っていますが)。

iPod、MacBookは持っていますが、iPhoneはまだです。iPhone4の品薄状態が解消されたら、乗り換えを考えたいと思っています。

投稿: takey | 2010年6月27日 (日) 20時28分

この本を訳すのにいろいろな動画を見ましたが、ほんと、うまいですよね。動画で見てもそう思うのですから、現場で見たらいかばかりか。ホント、現場で見てみたいって思います。会場との一体感とか(←絶対にあるはず)、現場でないと感じられないものもありますから。

投稿: Buckeye | 2010年6月27日 (日) 21時52分

これ、せっかくだから電子書籍にして、その中でスピーチ自体も見られるようにしてくれたらいいのに...

...と、物欲にあっさり白旗揚げて iPad を即買いしてしまった私は思うのでした。

投稿: baldhatter | 2010年6月28日 (月) 00時00分

baldhatterさん、

思いますよね、それは……

原著を見たとき私もそう思いましたし、実は、担当編集さんも思ったそうで、打ち合わせでも「そうできたら最高ですよね~」って言い合ってました(担当編集さんはiPhoneにはまってますし)。そんな具合なので、日本語版が売れれば出版社の上のほうを説得しやすくなって、電子書籍になることがあるかもしれません。

お試しの電子書籍化としては、普通の本よりずっと成功のハードルが低くていいだろうとも思いますし。

ホント、iPadで動画の横に文章を表示し、好きにスクロールして(めくって?)読めたりしたら最高でしょうね。

投稿: Buckeye | 2010年6月28日 (月) 06時15分

そう言えば、私の名前で出る訳書、これが10冊目になるのでした。

仕事をしていても楽しかったし、多くの人の役に立ちそうな本でもあるし……節目で、ホント、いい本を担当させていただいたと思います。

投稿: Buckeye | 2010年6月29日 (火) 08時25分

本書、少なくともたった今は、「みんなが選ぶ本 10%ポイント還元キャンペーン」でポイント10%が付くようです。アマゾンで買い物をする人なら、実質、1割引で買えるわけです。どうせ買うなら、今、予約してしまうのが得でしょう。発行が15日ですから、その少し前まではキャンセルも可能ですし。迷っているなら、とりあえず予約してキャンセルできなくなるまでに決断するという手もあります。

……それにしても、このキャンペーンにはいってる本、何冊か、キャンペーン開始直前の6月末に買ってしまった(T_T)

投稿: Buckeye | 2010年7月 6日 (火) 20時26分

おかげさまで、なんと、発行日前に増刷が決まったそうです。さきほど担当編集さんから連絡をいただきました。

見本刷りを使い、リアル書店何カ所かとアマゾンとで先行販売したところ、通常配本になる前に売り切れ状態になるなど、好評だったことが大きいようです。

書評が上がりはじめたので、書評へのリンクを本文に追記しました。

投稿: Buckeye | 2010年7月12日 (月) 15時14分

今、手元に届きました。原書を読む気力はないので訳書の方だけ。いわゆるプレゼンとはやや違うでしょうが、学会発表の機会が多くなる娘にも勧めて (押しつけて?)みました。

投稿: 洒微 | 2010年7月20日 (火) 17時22分

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