会社員の給与について
「会社員と翻訳者-収入の比較」というエントリーを2年も前に書きましたが(その元になった翻訳フォーラムへのエントリーを書いたのは、もう、9年も前)、その補足として会社員の収入分析をしてみました。
大手企業の総合職が40過ぎの年代に入れば、年間ベースで少なくとも800万や1000万、優秀な人なら1500万以上の給与をもらったりする(+退職金もある)。一方、翻訳者の「1500万」は経費込みなので、会社員なら給与1000万相当にしかならない。
「会社員と翻訳者-収入の比較」のこの記述に対し、会社員ってそんなにもらえるの?っていう趣旨の質問をされることがけっこうあります。私は勤めていたのが世間で大企業といわれるところであり、そこの実態から推測するかぎり、当たらずとも遠からずだと思って書いたのですが、改めてそう聞かれて示せるデータは持っていませんでした。先日たまたま、「年収ラボ」という会社員の年収に関するまとめサイトをみつけたので、そちらを参考に分析してみようと思います。
ホントは公開されている元データ(国税庁や厚生労働省のデータ)にあたるべきでしょうが……それは大変だし、このサイトも単純にグラフ化しているだけのようなのでここでいいことにします。
結論としては、上記推測は悪くなかったかなというところです。今でも上記推測は成立すると思うし、9年前なら会社員はもっともらっていたという感じ。
以下、細かく見てゆきます。
●会社員の平均年収
- 全体の平均:430万円
- 男性の平均:533万円
- 女性の平均:271万円
女性の平均が低いのは、社会に出たあと短期間就業して家庭にはいる人が多いから、また、いわゆる補助職のことが多いからです。
これに対し、翻訳者は事業者であって補助職ではありませんし、収入が増加するより前、短期でやめるのが一般的なわけでもないので、その収入を比較すべきはずっと働く男性の平均でしょう。
会社員「全体」で、1000万超が男性は7.4%。これを見ただけでも、「稼ぎのトップ10%だろ? 1500万は稼げる業界であるべきだ」という友人翻訳者の感覚は悪くないと言えるでしょう。比較の前提を「翻訳の売上1500万は給与1000万に相当する」としています。必要経費で出てゆく分(電気代、資料代、その他もろもろ)と、会社員は給与所得控除で税金が少ない、会社の福利厚生によるフリンジベネフィットがあるなどを考慮して、えいやっと出した数字であり、議論のあるところだとは思います。
●年収ピークの比較
翻訳の場合、年齢があがったからといって売上が増えたりしません。時間をかけて実力をつければあがるなどはありますが。
これに対して会社員は、ある程度の年齢までは上昇し、最後は役員にでもならなければ下降という山型カーブが一般的です。
これを見ると、男性平均がピークとなるのは50~54歳の670万。男性の平均年収533万円に対し、25%増しくらいになるようです。男女全体平均の430万円からだと、ざっと55%増しです。「翻訳の売上1500万は給与1000万に相当する」を比例計算すると、50~54歳の「平均」、670万という給与に相当する売上は1000万くらいでしょうか。平均がこの数字ということは、けっこうな割合の人(少なくとも3割とか?)がこれ以上の年収を経験するイメージとなります(時間がたっても年齢別の会社員給与が変化しないと仮定すれば)。それと同等の報酬をということなら、翻訳者の少なくとも3割方が人生のどこかで年間売上1000万超を経験することになります。
◎学歴その他によるセレクション
年収ピークの比較で会社員側は人口全体が対象です。つまり、院卒、大学卒だけでなく、高卒・中卒の人まですべて含んでいるわけです。対して翻訳者は基本的に高学歴。会社員になっていたら給与の高い会社に勤めている人の割合が高いだろうと思われます。
というわけで、とりあえず、業種別の平均給与を見てみます。
この数字から各業種における年代別ピークを推測します。業種別平均給与は男女混じっているので、男女全体平均の55%増しをピークと考えましょう。総合商社の全体平均1200万から計算するとものすごいことになりますが、まあ、異常値的なものと比較しても仕方がないでしょう。でも、かなり下がってファーストフードあたりの平均650万くらいから算出しても、ピーク年齢帯の平均が1000万となります。このページのランキングの最後、50位の「ガラス」、583万円の場合でも、ピーク年齢帯の平均は900万。業種別は全部で120くらいにわけているようですから、もっと低いところもありますが、最低クラスと比べるのも何でしょう。というわけで、ピーク年齢帯の平均給与並みを翻訳で稼ぎたいとなれば……年間売上はやはり1500万くらい必要となります。
別の方向からも見てみます。高学歴の人は条件のいい大企業に集まりがちということで、企業規模が大きいところと比較してみましょう。
5000人以上の大企業だと男性の平均年収が720万。ここから年代別ピークを推測すると、25%増しとして900万。業種別平均給与からの推測値と同じか少し少なめですね。さらに別の方向から。役職による年収の違いです。
元データは上場企業なので、会社員全体よりは給与が高いはずです。ともかく、部長級まで昇進すれば1000万クラスになることがわかります。部長級の平均年齢は51.7歳とのこと。50台前半で全員が部長級になるとはかぎりませんが、業種別平均給与からの推測と企業規模別平均年収からの推測が少なくとも当たらずとも遠からずだと言うことはできるでしょう。
もうひとつ、学歴その他によるセレクションの効果を見るものとして、公務員給与と比較してみましょう。
公務員の場合、女性も長く働き続けるケースが多いので、全体平均からピークを推測する掛け目は男性に近い30%増しくらいとしてみましょう。ピーク年齢帯の平均で国家公務員が860万、地方公務員が950万というところのようです。
こちらも似たような数字になりました。
◎社内での格差
ここまでは年齢階層をベースに検討してきました。その結果、(↓)における会社員についての前半、「大手企業の総合職が40過ぎの年代に入れば、年間ベースで少なくとも800万や1000万」はもらっているという部分が正しいと検証できたわけです。
大手企業の総合職が40過ぎの年代に入れば、年間ベースで少なくとも800万や1000万、優秀な人なら1500万以上の給与をもらったりする(+退職金もある)。一方、翻訳者の「1500万」は経費込みなので、会社員なら給与1000万相当にしかならない。
後半の「優秀な人なら1500万以上の給与をもらったりする」はどうでしょう。
最初の年収階層分布をもう一度、見てみます。
1500万超が1.9%(男性)。各年収階層において下のほうほど人数が多いことを考えると、「平均1000万」となるのは、えいやっと900万超の人々というところでしょうか。900万超の人は全体の10.3%。つまり、平均1000万の人々のうち、1500万超は20%弱。「優秀な人なら1500万以上の給与をもらったりする」と言える数字だと思います。■まとめ
ながながと分析してきましたが、そんなわけで、「会社員と翻訳者-収入の比較」で比較したとき念頭に置いた会社員給与のレベルは、まあまあ悪くない数字だったのではないかと思います。
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コメント
ツイッターで紹介したのでこの記事を改めて読んだのだけれど、グラフがこの記事を書いたときのものと変わっちゃってます。
図のリンクを元記事に貼ったのが失敗だったなぁ。毎年更新される図らしいです。ほうっておくとどんどん変わってゆくので、とりあえず、今年のもので固定します。この記事を書いたときとグラフが1年ずれるので少々齟齬があるかもしれませんが、そこは割り引いて読んでくださいませ。
投稿: Buckeye | 2011年9月30日 (金) 06時52分