表に出したら恥となる翻訳
このところ、単価下落とともにすさまじい翻訳というかなんというかが増えているといった話を聞いています。英日でワード単価が一桁の前半というような価格でもやる人が価格並みのものを出しているケースもあるでしょうし、日本語を母語としない人が英日をしているケースもあるでしょう。その背景として、海外の翻訳会社が安値を武器に受注し、その値段でやってくれる人に出すなどの形が挙げられたりします。よく聞くのは中国やインドの翻訳会社ですが、そのほかにもアジア各国、いろいろなところが動いているような話も聞きます。
どこをどう回ろうが、最後の最後は誰かが翻訳することになる。でもまともな人はまともな値段でしか仕事をしないし、そういう人にはまともな値段で仕事が集まる。結局、安く買えば安いモノしかあがってこない。それが当たり前だとどうしてわからないのか、ホント、不思議です。
私は幸い、そういう話と今までかかわりを持たなかったのですが……今回、「チェックしておかしい部分は修正して欲しい」と送られてきた会社紹介のファイルがそういうレベルでした。
ほとんど、「ローマの三流ホテル」の世界。ちなみに「ローマの三流ホテル」というのは、ネット上で有名な珍訳のサイト(↓)です。
画像は、baldhatterさんの「三流ホテルの余分なサービス」から孫引きでいただいてきました。こちらの記事も一読を。
baldhatterさんが素敵と書かれた「ローマのセンタに建ててやりました」に匹敵する素敵な表現もありましたよ。
長い文章は、ほとんど、「近所が自転車盗まれたても、相当離れてるけどジュース置いたら逮捕w」の世界。部分部分は一応、日本語にみえるのだけど、文全体の流れがフラフラしていて、要するに何が言いたいのかまったくわからない。そうとう考えてもわからない。そんな感じです。
こんなのを会社紹介として公開したら……恥かくのが関の山でしょう。「ローマの三流ホテル」のように爆笑できる珍訳ではないので、魚拓まで取られてさらされることはないんじゃないかとは思いますが。ともかく、「これは使えない。出したら恥をかくだけ。このレベルなら、日本語版なんかないほうがいい」と回答してしまいました。「ちょこちょこ直してどうなるレベルではない。訳し直したほうが早い」とも。
とりあえず、訳し直すことになりましたけど、これ、もともとはどういう形で作られた翻訳なんでしょう。「素人にやらせたか、機械翻訳ソフトの出力文を手直ししたか、どちらかだろう」とコメントしたんですが……
……って、今、念のため確認したら、公開されてますよ(--;)
ということは、さすがにどこかから何か言われ、チェックしてくれって回ってきたのかもしれません。
いやいや、あぶないところでした。実はいったん、製品名などわからないようにして珍訳の紹介を書いたのですが、その表現で検索したら当該サイトがヒットしてしまうところでした。ちなみに書いたのは2例。片方はそのサイトのみ、もう片方はヒット6件(他の5件はまともな日本語なのでこちらからでもどこなのかすぐにわかってしまう)。というわけで、申し訳ないのですが、具体的な表現はすべて削除しました。
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コメント
ああそうだ。念のため補足。
>> その背景として、海外の翻訳会社が安値を武器に受注し、
>> その値段でやってくれる人に出すなどの形が挙げられたりします。
これ、日本国外の翻訳会社がすべて悪であると言っているわけでも、日本の翻訳会社がすべてまともであると言っているわけでもありません。海外の翻訳会社の中にも、当然にまともなところがあります。日本国内で活動している翻訳会社の中にもすごい値段で仕事をしているところが、昔っからあります。
ただ、生活水準がまだ低く、生活費があまりかからない現地の人たちにやらせるなど安値攻勢をかけやすい条件があるなどの理由から、海外の翻訳会社が話題になることが多いのだろうと思います。
いずれにせよ、まともなアウトプットができないところは、まともな仕事からはいずれ締めだされてゆくでしょう。
投稿: Buckeye | 2010年5月26日 (水) 07時51分
Buckeyeさん
検索をしているとおかしな日本語のウェブサイトを時々目にすることがあります。それは勿論機械翻訳や日本人以外の翻訳でしょう。それはプロの日本人翻訳者からすればおかしな表現かもしれませんが、それでも日本人にメッセージを伝えようというその人達の努力を認める必要もあるかと思います。
私がエージェント経由でこれまで目にした翻訳には、機械翻訳や日本人以外によるものはありませんでした。しかしお書きになっているものからすると、このような事例はエージェント経由の仕事でも今後増加するかもしませんね。世界がつながっている時代には日本固有と考えられていたものが日本人の独占ではあり得なくなっているという、これまでにもあったものに新たな例がまた一つ加わったということです。
現状はわかりました。ではプロの翻訳者はどうするのか、そこが問題です。私なら、仕事で来ればチェックではなく最初からの翻訳として仕事を請け負うことにしますし、暇ならこのようなウェブサイトに直接問題を指摘しそれを商売の種にする絶好の機会と思うのですが、いかがでしょうか。
柳絮
投稿: 柳絮 | 2010年5月26日 (水) 14時16分
柳絮さん、
そうですね、メッセージを伝えようという姿勢が大事、あるいはそこに好感が持てるケースも珍しくありませんね。今回、私が遭遇した案件は世界的企業で、その方面なら誰でも知っている、その会社にとって日本はトップクラスの重要市場というところなので、それなら一定レベル以上を確保しておかないとまずいと思いますけど。
今後については……私も柳絮さんと同意見です。
ちなみに今回の案件、訳し直して普通に訳すときの料金をもらう話になりました。まあ、間にはいっているのが翻訳会社ではなく、ソースクライアントに対する発言力がもっと強いところなのでこういうネゴがやりやすいけど、翻訳会社だとそれだけの営業力を持たないところも珍しくないのでいろいろと大変かもしれません。
直接指摘で商売の種にするというのも手だと思いますよ。っていうか、私は過去に何度かやっています。結果は……いろいろですね。完全に乗り換えてもらったという成功例から門前払いで返事も来ないという例まで。まあでも、ある程度のサイズの企業に新規営業をかけようとしても、まず100%、門前払いになることを考えれば、かなり効果的だとは言えるでしょう。
投稿: Buckeye | 2010年5月26日 (水) 15時04分
これはやっぱり自動翻訳のテキストをそのまま載せたものでしょうかね。
(ノ∀`)・゚・。 アヒャヒャヒャヒャ
たまに、クライアントに拒否された契約書翻訳のチェックを頼まれると日本語にはなっているものの何の意味もない言葉の羅列を見ることがありますが、これなんかも自動翻訳レベルじゃないの?って思うこともあります。
投稿: TK | 2010年6月 1日 (火) 10時41分
TKさん、
どういう経緯だったにせよ、文書を作った目的が果たせないということでは同じですよねぇ。
投稿: Buckeye | 2010年6月 1日 (火) 21時23分
社外に出る大方の書面は何でも赤ペンを入れる仕事が、現在の私の業務の一部です。
最近は不況ゆえ逆に減りましたが、過去、海外の委託会社が翻訳(英→日)したレポートには時折すさまじいものがありました。仕方がないので原文を付けてもらい、数ページ分全部翻訳し直したこともあります。その時思ったのは、これは一体どんな人が翻訳しているのか、ということです。その意味で書かれたお話は大変興味深く読ませて頂きました。
私が目にする内容の大半は金融・経済・相場が中心ですが、その奇異なパターン1は「金融・経済等の基本的な内容が理解できていない」ことでした。パターン2は「金融商品・相場の独特の用語を知らない」ことに起因しているものでした。そして忘れてはいけないパターン3は「日本語が変で意味不明」でした。
こういう人でも需要があるんだな、と思うと同時に、その会社が何だか可愛そうに思えた何度かの体験でした。
「ローマの三流ホテル」、めちゃめちゃウケました。
投稿: メゾフォルテ | 2010年6月15日 (火) 11時16分
メゾフォルテさん、
「内容が理解できていない」というのは……ホントによくありますよね。っていうか、その実態は「理解しようとしていない」ケースが多いのだと思います。言葉を移しかえるのが翻訳だと思っていて、意味が移しかえられているかどうかを考えない人、少なくとも実際の翻訳作業で頭から落ちてしまうことが多い人ってたくさんいますから。
翻訳の初心者に共通する姿勢ではあるので、そういう姿勢の人がいること自体は仕方ないのですが、それなら、そういう人に仕事を出しちゃいけませんよねぇ。とは言え、翻訳会社というポジションは翻訳者以上に「言葉の移しかえ」だけしようとするだろうとは思いますけど。
投稿: Buckeye | 2010年6月16日 (水) 11時36分