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2009年12月 1日 (火)

品質、スピード、価格

JTF翻訳祭2009来場者アンケートからコメントを紹介します。ソースクライアントの立場から、品質とスピード、価格の関係について出されたコメントです。

最初の部分は、パネルディスカッションで紹介された「翻訳でトラブルを経験した割合が30%」というソースクライアントへのアンケート結果についてでした。

「トラブル3割」はあり得ません。翻訳者、会社ともにこの結果には「しょうがない」というあきらめが含まれていることを気づいてほしいです。

言われるとおりだと私も思います。

実は私、2001年8月29日配信の「SOHO'S REPORT」(メールマガジン)に同じような趣旨の記事を書いています。なお、当時だと、ソースクライアントの払いで仕上がり日本語400字1枚2000円は激安に分類できる範囲でした。今はもっと安い値段があったりしますが……本質的なところではないので、数字は適宜、読みかえてください。

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     ▽ 翻訳の品質/by Koji Inokuchi
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翻訳業界では、「翻訳の品質とは何であるか」といった議論がよくされる。そして、品質に見合った料金レベルはどのくらいかという議論も。

先日、中堅翻訳会社の社長とミーティングを持った。その席上で社長がさかんに愚痴っていたのが、ある大手翻訳会社のこと。「ともかく安いのが価値だ。安い値段でどんどん仕事をとってきて、翻訳者に安く訳してもらって納めれば儲かる。品質うんぬんなんてどうでもいい。安ければクライアントから文句はこない」という方針で、売りが安い分、翻訳者への支払レートも安いけど、仕事量は多く切れ目がないらしい。昨今のように業界全体のパイが縮んでいる中で仕事量が確保できることは大きな魅力であり、そこの仕事をする翻訳者が増えているとのこと。

また、翻訳会社や翻訳者による研究会で、講師役の翻訳会社社長が「品質が大事」と力説したところ、大手翻訳会社の人から、「品質って何だろうか。安くても(その分品質が悪くても)、クライアントが満足すればそれで品質は充分なんじゃないか」とのコメントがあった。

上記のような考えも、ある意味、正しいと思う。安さを求めるクライアントだっているはずだ。そういうクライアントに対して、価格並の品質でサービスを提供するというビジネスが存在するのは当たり前だ。

しかし、安くて品質が悪いが文句はこないという状態がベストというわけではない。英日翻訳、仕上がり日本語400字で「1枚2000円ならこんな程度だろう」という「満足」もあれば、「さすが1枚5000円払っただけのことはある」という「満足」もあるからだ。

「英日1枚5000円」というと、翻訳会社の人たちは「そんな高い値段では売れない」と言う。でも、そのように翻訳会社の売りよりもはるかに高い値段で売っているSOHO翻訳者が、私の回りにはたくさんいるのだ。高い品質を求めるクライアントを見つけだす才覚とそのようなクライアントを満足させられるだけの実力があれば、大手を相手に競争して、より高価格で仕事を取ってくることだって可能なのだ。

一方、そういう形で仕事をするなら、営業の手間暇は増えるわ、対クライアントの責任が重くなり仕事が来たら断ることもままならないという事態になることは覚悟しておくべきだ。

断る自由度の高い翻訳会社経由で気ままにSOHOするか、自由度は低いがSOHOなるがゆえの高価格ニッチ市場で闘うか、それは各人が選ぶことだ。

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サービス業の意識を強くされることを望みます。品質に見合うコストは正当化できます。職人気質がクライアントから認められるレベルの翻訳者は100人中1~2人だと思います。報酬が低い訳者は、それが自分の市場価値だと認識してほしいです。

翻訳者として耳が痛いですね。十分な品質とスピードを提供できる翻訳者が少なすぎるというのは、言われるとおりだと思います。

では、どうしたらレベルアップできるのか? 品質の追求しか道はないと私は思います。品質を追求し、いろいろと考えて翻訳を続ければ、そのうち、「自動運転」で処理できる範囲が広がってきます。そうなれば、自然とスピードもあがります。最初にスピードを追求すれば、いつまでたっても自動運転の範囲が広がらず、スピードを上げた分は実質、手抜きとなって品質があがらないのはもちろん、下手をすれば手が荒れて品質は低下の一途をたどります。

ここは、翻訳者一人ひとりが努力するしかない部分です。翻訳会社や翻訳業界のトレンドからは「質より量」というメッセージが聞こえてきますが、その声に負けず、努力すれば報われる世界がある。そう信じてがんばるしかないと思います。

このソースクライアントの方も(↓)のように書いてくださっていますし。

当社の立場からは、(1)スピード、(2)品質の2つしか重要なものはありません。今後、overnightで高品質の翻訳が増加するにつれ、翻訳者のレベルアップを強く望みます。速く、品質が良ければコストはあまり関係ないのが実情かと思います。高品質であれば糸目をつけていられないモノが多いです。

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コメント

> その声に負けず、努力すれば報われる世界がある。そう信じてがんばるしかないと思います。

正直なところ、以前はスピード重視でやっていました。でも品質を軽視していたわけではなく、きっちり見直したていたつもりです。ところがあるとき品質が落ちたと指摘をもらい、ショックを受けました。決して手抜きをしたわけではありません。

そこで考え方を変え、納期ぎりぎりまで時間を使って品質を上げるようにしました。ただし、1度見直しをした段階で先方に連絡し、お急ぎなら今の時点で送ることができるが、納期いっぱいまで使って品質を上げたいという断りに連絡をいれるようにしています。

自分の翻訳力がまだまだなので、翻訳量は多くなりませんがしばらくはこれでいこうと思っています。

投稿: @flipper | 2009年12月14日 (月) 10時07分

@flipperさん、

「つもり」ではつもりにしかならないというのが、この話の怖いところですね。

品質を軽視するつもりはなくても、スピード重視とするだけであぶないんです。その背景には、意識していなくても(意識していないから怖いとも言えますが)、「品質は今のレベルを保てればいい」があるからです。そして、人は下りのエスタレーターに乗っている(http://buckeye.way-nifty.com/translator/2008/05/post_c716.html)。

追求するのは品質。スピードはついてくるもの。そう考えなきゃいけないんだと、ここしばらく、強く思うようになりました。

投稿: Buckeye | 2009年12月16日 (水) 08時21分

技や道具を云々する前に、書かれたものと書いたものを味わうことが大切なのだと思います。「品質」を旨い料理に喩えるなら、それを支える確かな舌は誰もが持っているはずなのに、不味い料理を食い過ぎて味蕾を麻痺させたり、レシピばかり気にして味を確認しなかったり、そんなことで素の力を発揮しないことが案外多いのではないでしょうか。翻訳という言語活動の品質を支える最後の砦は、たぶん耳です。品質の要件はいろいろあるでしょうが、書いたものの中に自分の声を聴いて自分のリズムを保つことが守るべき品質の最低ラインだと考えています。

投稿: Euascomycetes | 2009年12月18日 (金) 20時22分

Euascomycetesさん

>最後の砦は、たぶん耳です。品質の要件はいろいろあるでしょうが、書いたものの
>中に自分の声を聴いて自分のリズムを保つことが守るべき品質の最低ラインだと
>考えています。

の部分、そうであるととも思うのですが、この10年くらいは、むしろ、自分ではない信頼できる第三者の声で聴く(=読みきかせてもらうイメージ)よう心がけています。その方が、間違いだけでなく、意味不明箇所が明確になるので。なお、最初に書いているときは、当然のこととして、自分の声をききながら書いています。

投稿: Sakino | 2009年12月27日 (日) 20時13分

Sakino さん

> 自分ではない信頼できる第三者の声で聴く
>(=読みきかせてもらうイメージ)よう心がけています。

確かに「口寄せ」から正気に返ることも必要ですね。簡単ではありませんが。この2つの心の状態は完全には分離していなくて、両方を行ったり来たりしながら他者の視点による理解が進行していく。そんなところだと思います。

投稿: Euascomycetes | 2009年12月31日 (木) 02時05分

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