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2009年11月11日 (水)

「SATILA-MSの比較」について

■SATILAカスタマイズ効果の比較 IT分野 (M)」に示されたSATILAプロアシストの訳文について検討を加えてみます。以下、「以下はSATILAカスタマイズの効果を比較する例です。」の一文と表組みされている部分は元ページからの引用です。

このページの例はマイクロソフト関連のようです。

なお、山本ゆうじさんが翻訳者として仕事をされていたのは主にローカライズとのことです(『産業翻訳の仕事を獲得する本 2004/05』のインタビュー記事による)。つまり、IT分野は私よりも山本ゆうじさんのほうが詳しいはずの世界です。逆に、航空宇宙分野は、工学部出身の私のほうがバックグラウンドを持つ世界だと思われます。


以下はSATILAカスタマイズの効果を比較する例です。

M社の自動翻訳 カスタマイズなし
(LogoVista X PRO 2006専門辞書フルパックのIT関連辞書すべてを使用。設定は購入直後の状態。)
SATILAオート
IT分野の翻訳向けカスタマイズを行いLogoVista X PRO 2006で翻訳
SATILAプロアシスト
構文解釈を間違えている個所や日本語として不自然な個所があります。意味がまったく通じない個所も多々あります。

ここに取り上げた以外の訳文の文章には一部自然な日本語の文が交じっていますが、翻訳メモリが適用されたものと思われます。翻訳メモリは、SATILAでも使用できます。

単語の調整に改善の余地はありますが、基本的な解釈は誤っていません。 ノウハウに基づいたカスタマイズで単語の調整と適切な自動後処理をしているので、訳文に人の手を加えなくてもここまで自動でできます。 SATILAオートの自動翻訳をプロの翻訳者が仕上げています。わずかな作業で完成訳にできる点にご注目ください。
原文 Vulnerability in Windows kernel could allow for remote code execution. <Available updates for Microsoft Windows Vista Beta 2>
M社の自動翻訳 Windows カーネルでの脆弱性は、リモート コードの実行にできます。<Microsoft Windows Vista ベータ 2 の利用可能な更新>
カスタマイズなし Windows カーネルの弱点がリモートコード実行を可能にすることができました
SATILAオート Windows カーネルでの脆弱性がリモートコード実行を可能にすることができました
SATILAプロアシスト Windows カーネル内の脆弱性により、リモートコード実行を許すことがあります

山本ゆうじさんとは機械翻訳の使用について何度も議論してきていますが、そういうときに言われるのが「ローカライズで求められるのはこのレベル」です。この訳文などは、たしかに、「ローカライズで求められるのはこのレベル」で片づけられるものかもしれません。原文に比較してレベルがかなり低下はしていますけど、考えれば分からないことはないし、自動翻訳の出力よりはずっとマシですから。

それにしても……この1文は何が言いたいんでしょう。このページ全体は、Windows Vista Beta 2のアップデートを配布するところ。要するに、これこれこういう問題があるから、このアップデートを適用しなさいって話がしたいわけです。上記の文は、その「これこれこういう問題があるから」という部分のはずです。

これに対し、「Windows カーネル内の脆弱性により、リモートコード実行を許すことがあります」の「Windows カーネル内の脆弱性により」は、(↓)両方の解釈が可能です。

Windows カーネルに脆弱性があるため

Windows カーネルに脆弱性があれば

一般論としてWindowsってそういうものだよ、あるいはOSってそういうものだよ、という文脈ならこういう訳し方もありかもしれません。でも、ここの原文は、「現状のWindows Vista Beta 2はWindowsカーネルに脆弱性があってやばいよ」と言っているわけです。ページ全体を読んで文脈をベースに原文を解釈すればそうなります。その文脈から言って、後者にもとりうる訳文というのは、翻訳で大きなものを落っことしてしまったと言えるでしょう。

そんなこんなを考えるとせめて(↓)くらいにしたいと思いますし、このくらいならITローカライズで許される範囲だろうと思います。

「Windowsカーネルに脆弱性があり、リモートコード実行を許すことがあります。」

できたら(↓)くらいにしたいですけどね。

「Windowsカーネルに脆弱性があり、リモートコード実行を許してしまうことがあります。」

原文 Modify the registry at your own risk.  <Known issues in Windows Vista Beta 2>
M社の自動翻訳 独自の危険のレジストリを変更します。<Windows Vista ベータ 2 に既知の問題>
カスタマイズなし 自分の責任で登録を修正してください。
SATILAオート 自分の責任でレジストリを変更してください。
SATILAプロアシスト レジストリの変更は自己責任で行ってください。

原文へのリンクが間違っているのか、リンクされたページに原文がありません。そのため文脈がわからないのですが、まあ、さすがにこの文ならこのくらいの訳にしておいてまずいことはなさそうです。

原文 You may have to hold the button down for several seconds to force the computer to shut down. <Known issues in Windows Vista Beta 2>
M社の自動翻訳 コンピュータにコンピュータがシャットダウンするのを強制するいくつか秒の、ボタンは押せなければなりません。 <Windows Vista ベータ 2 に既知の問題>
カスタマイズなし あなたはコンピュータにシャットダウンすることを強いるために数秒の間ボタンを押し続けなければならないかもしれません
SATILAオート コンピュータに終了することを強いるべき数秒の間ボタンを押し続けなければならないことがあります
SATILAプロアシスト コンピュータを強制的に終了するには、数秒間ボタンを押し続けなければならないことがあります

たぶん、機械翻訳の出力がそうなっているからそのままになってるだけだと思うんですが……ここ、どうしてわざわざ後ろから訳しあげるんでしょう。そうしたほうがいいのならそうすべきですが、ここは逆効果でしょう。

原文の流れは(↓)です。

  • USBのキーボードやマウスが機能しなくなっても、基本的にセットアップを中断しないこと
  • ただし入力が必要になり、キーボードやマウスなしでは進めなくなったら電源スイッチを押して再起動しろ
  • Note You may have to hold the button down for several seconds to force the computer to shut down.

再起動しようと思って電源スイッチを押したとき、「コンピュータを強制的に終了するには」と言われたら、ユーザーはめんくらうでしょう。自分がしたいのは再起動であって強制終了じゃないって。再起動は普通の処理ですが、強制終了にはやばい雰囲気がありますからね。下手すれば、強制終了はしたくないから電源スイッチの長押しはやめておこうと思うユーザーが出る可能性もあります。長押しが必要という基礎さえ知らないユーザー向けに書かれた注釈ですからね。

対象読者を考慮した工夫が必要な部分でしょう。

原文 To resolve this issue, you may be able to manually move the schedule.<Known issues in Windows Vista Beta 2>
M社の自動翻訳 この問題を解決すること手動でスケジュールを移動することができる場合があります。<Windows Vista ベータ 2 に既知の問題>
カスタマイズなし この問題を解決するために、あなたは手作業でスケジュールを動かすことが可能であるかもしれません
SATILAオート この問題を解決するには、手動でスケジュールを移動することができます
SATILAプロアシスト この問題を解決するために、手動でスケジュールを移動することができます

「この問題を解決するために、手動でスケジュールを移動することができます」というのは、ローカライズでよく見かける気持ちの悪い日本語の一つです(そういう意味では「ローカライズで求められるのはこのレベル」なのかもしれません)。

ここ、文脈は……パソコンをあんなふう、こんなふうにいじると、Media Centerに設定しておいた予約スケジュールが消えてしまう。この解決方法は……ってきて、上記例文が出てきます。

そこで「解決するために~ができる」ってどういうことでしょう。ユーザーは解決したいと思っているからここを読むんじゃないんでしょうか。解決方法を求めて。

ごく普通に考えれば、(↓)のようになると思うのですが、違うのでしょうか。

「この問題は、手動でスケジュールを移動すれば解決できます。」

原文の語順になるべく沿わせる必要があるなら、(↓)あたりがたたき台でしょう。

「この問題の解決方法は、手動でスケジュールを移動することです。」

原文 The Sidebar application may crash when you install a compressed gadget. <Original article>
M社の自動翻訳 圧縮装置インストールすると、サイドバー アプリケーションは、クラッシュすることがあります。 <元記事>
カスタマイズなし あなたが圧縮された道具を据え付けるとき、補足記事アプリケーションはクラッシュするかもしれません。
SATILAオート 圧縮されたガジェットインストールするとき、サイドバーアプリケーションはクラッシュすることがあります。
SATILAプロアシスト 圧縮されたガジェットインストールするとき、サイドバー アプリケーションがクラッシュすることがあります。

これはまあ、こんなものでしょうか。改善の余地が多少はあると思いますが。

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