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2009年11月11日 (水)

「SATILA-医学・薬品分野の比較」について

■SATILAカスタマイズ効果の比較 医学・薬品分野」に示されたSATILAプロアシストの訳文について検討を加えてみます。以下、「以下はSATILAカスタマイズの効果を比較する例です。」の一文と表組みされている部分は元ページからの引用です。

原文はこちらです。それぞれの文で原文へのリンクがはられていますが、Wikipediaはどんどん変更されるので、今後、当該部分がなくなる可能性があるので一応、はっておきます。


以下はSATILAカスタマイズの効果を比較する例です。

カスタマイズなし
(LogoVista X PRO 2006専門辞書フルパックの医学関連辞書すべてを使用。設定は購入直後の状態。)
SATILAオート
(医学分野の翻訳向けカスタマイズを行いLogoVista X PRO 2006で翻訳
SATILAプロアシスト
単語の調整に改善の余地はありますが、基本的な解釈は誤っていません。 ノウハウに基づいたカスタマイズで単語の調整と適切な自動後処理をしているので、訳文に人の手を加えなくてもここまで自動でできます。 SATILAオートの自動翻訳をプロの翻訳者が仕上げています。わずかな作業で完成訳にできる点にご注目ください。
原文 Diazepam is mainly used to treat anxiety, insomnia, and symptoms of acute alcohol or opiate withdrawal. <http://en.wikipedia.org/wiki/Diazepam>
カスタマイズなし ダイアゼパムが主に鋭いアルコールあるいは催眠剤撤退心配、不眠症と症状を治療するために使われます。

【解説】「ダイアゼパム」は、発音としては間違いではありませんが実際には使われていない表記です。また不適切な訳語選択があります。語順も入れ替える必要があります。

SATILAオート ジアゼパムが主に急性のアルコールまたはアヘン製剤禁断症状不安、不眠症、症状を治療するために使われます。
SATILAプロアシスト ジアゼパムは、主に不安、不眠症、急性のアルコールまたはアヘン製剤の禁断症状の症状を治療するために使われます。

【解説】語順を入れ替える ことで適切な訳にできます。係り受けは翻訳者がきちんと確認します。

「禁断症状の症状」とは何でしょうか? ここ、馬から落ちて落馬しちゃってますよね。このレベルの問題を放置して十分な料金がもらえるのであれば、我々の仕事はずいぶんと楽になるでしょう。

「(急性の(アルコールまたはアヘン製剤)の禁断症状)の症状」……ブロック単位で考えると「の」が3連続で出てきます。「の」の連続は分かったような分からないような文になる大きな原因。当然に工夫すべき部分です。

入れ子構造であることも問題。「ジアゼパムは、主に((不安、不眠症、(急性の(アルコールまたはアヘン製剤)の禁断症状)の症状)を治療するために使われます。」ですからね。『日本語の作文技術』第二章冒頭、「わかりにくい文章の実例を検討してみると、最も目につくのは、就職する言葉とされる言葉のつながりが明白でない場合である。原因の第一は、両者が離れすぎていることによる。極端な例をあげよう」として挙げられてる例とどっちというくらいです。

頭から読むと理解しにくい文章になってもいます。「ジアゼパムは、主に不安、不眠症」あたりで何に使われるのかという話であることは分かりますが、その後、「ジアゼパムは、主に不安、不眠症、急性のアルコールまたは」で普通の人は混乱するでしょう。「『不安』と『不眠症』と『急性のアルコール』が並列なの?」と。「ジアゼパムは、主に不安、不眠症、急性のアルコールまたはアヘン製剤の禁断症状」まで読んでもまだ混乱するでしょう。「『不安』と『不眠症』と『急性のアルコール』と『アヘン製剤の禁断症状』が並列なの?」と。「アルコール」が変だと考えて読み直せば、「または」は全体の並列を示す役割を担っているのではなく、「アルコールまたはアヘン製剤」をまとめて禁断症状へとかける役割を担っていることがわかります。これを理解した上でもう一度見直すと、「急性」が「アルコールまたはアヘン製剤」を飛びこえて「禁断症状」へとかかっていることが理解できます。ここがわかった上でもう一度読めば、ようやく、全体構造が把握できる……つまり、4回、考えて読んでもらえば理解できる、いわゆる「考えれば分かる」訳文です。

「係り受けは翻訳者がきちんと確認します」と解説してありますが、少なくとも私の基準では「係り受けに大きな問題があってわかりにくくなっている訳文」です。

原文 Diazepam can be administered orally, intravenously, intramuscularly, or as a suppository. <http://en.wikipedia.org/wiki/Diazepam>
カスタマイズなし ダイアゼパムが筋肉内に、あるいは座薬として、静脈を通して、口頭で与えることができます。
SATILAオート ジアゼパムが筋肉内に、または座薬として、静脈を通して、経口的に投与されます。
SATILAプロアシスト ジアゼパムは、経口、静脈注射、筋肉注射、座薬などの方法で投与されます。

【解説】手作業で、語順を原語に合わせます。

ここはこのままでも使えるでしょう。

ただ、原文でこの文章がトップに来ている部分を見ると、投与→投与後に体内で起きること、という流れになっています。であれば、最初のこの文では、投与方法にフォーカスを与えたほうがいいだろうと思います。そうすれば、「投与されます」と「投与します」のどちらがいいかというややこしい問題を避け、英語と同じように中立な文章にできますし。

原文 Tolerance to the anticonvulsant effects of diazepam usually develops within 6 to 12 months of treatment. <http://en.wikipedia.org/wiki/Diazepam>
カスタマイズなし ダイアゼパムの抗痙攣薬効果への寛容が通常6から12カ月以上の治療を開発します
SATILAオート ジアゼパムの抗痙攣薬効果への耐性が一般的には6から12カ月以上の治療が引き起こされます
SATILAプロアシスト ジアゼパムの抗痙攣薬効果への耐性は、一般的には6~12カ月以上の治療により引き起こされます

原文は(↓)のようになっています。"effectively"からあとは昔の版にはないようなので、SATILAの例に採用した時点であったかどうかはわかりません。でも、前側、"Diazepam is rarely used for the long-term treatment of epilepsy "は上記例文部分が存在する版には必ずついているようです。

Diazepam is rarely used for the long-term treatment of epilepsy because tolerance to the anticonvulsant effects of diazepam usually develops within 6 to 12 months of treatment, effectively rendering it useless for this purpose.

ここから"because"の内容だけを取りだして例文にしてしまうあたり、文脈至上主義の私からするとなんともはやなんですが……それはとりあえず横に置いておきましょう。

ただ、ここを横に置いてしまうというのは文脈から切り離すということと同義であり、文脈に応じた訳にするという考え方での検討ができません。よってどうすべきとまでは言えなくなりますが、とにかく、訳文の読みにくさ解消くらいはトライしてみましょう。

こちらも上と同じ問題を抱えています。

まず「の」の連続。

入れ子であることも問題です。「ジアゼパムの抗痙攣薬効果への耐性は」も「一般的には」も「6~12カ月以上の治療により」も全部が「引き起こされます」にかかっています。つまり、最初から最後まで、いったん頭の中にためないと理解できない文章です。「ジアゼパムによる治療を6~12カ月継続すると、抗痙攣効果に対する耐性が生まれてしまう」あたりをベースに調整すれば少しよくなりそうな気がします。

と、多少なりとも自分で訳してみた結果、気づいた点があります。

「抗痙攣『薬』効果」って何でしょう? 確認するまでもなく変なのですが、一応、確認してみました。「"抗痙攣薬効果"」でのヒットはわずかに2件。SATILA例のほかは海外特許の翻訳です。機械翻訳の出力、「抗痙攣薬効果」に引きずられたのでしょう。私の試訳では多少なりともよさそうな「抗痙攣効果」にしましたが、もっといい訳語がある可能性も十分にあります。変だという指摘のためにやっていることなので、大まかなチェックしかしておりませんm(._.)m

"within 6 to 12 months"が「6~12カ月以上」となっているのはなぜでしょう? 原文の意味は「早ければ6カ月、遅くとも12カ月で」ですよね。「6~12カ月以上」というのは、「早ければ6~12カ月で」であって、言外に、「20カ月だったり100カ月だったりすることも珍しくない」を含む表現でしょう。明らかに意味が違いますよね。問題の発生時期という大事な部分なのに。

こういう間違いが起きた原因は明らかです。なぜか機械翻訳ソフトがそう出力してしまい、それを、原文と意味内容の照合もせずにそのまま使ったからです。

思いっきり機械翻訳ソフトの出力に引きずられた訳文だと言えます。

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コメント

ちゃんと見たわけでも、確認したわけでもないのですが、ジアゼパムのintravenously、「このままでも使える」となっていますが、大丈夫ですか? 

注射とは限らず、点滴の可能性は? だから、intravenouslyとなっているような……。「静脈内投与」等でよいのでは? 

同様に、「as a suppository」も、「座薬として」のままでよいはずですが。日本語の中でいじっちゃったのでしょうか。

投稿: Sakino | 2009年11月11日 (水) 18時16分

あちゃ、「注射」は原文にありませんね。見落としてました。

私自身も今回、機械翻訳ソフトの出力をスタート地点として見たもので、思いっきり引きずられてしまったようです(^^;)

投稿: Buckeye | 2009年11月11日 (水) 18時56分

>> 日本語の中でいじっちゃったのでしょうか

ホントのところは、SATILAプロアシストによる作業をした人(たぶん山本ゆうじさん)の頭の中をのぞいてみないとわからないわけですが……訳文を見た印象としては、原文解釈とか原文と訳文の対応チェックとか、基本的に全部すっとばして日本語だけ最小限の操作でつじつまを合わせようとしたように感じます。

ついでに……「原文と訳文の対応」は機械翻訳ソフトが「漏れがないように」取ってくれているって考え方なんじゃないかという気がします。「原文と訳文の対応」って機械的にとれるものじゃないんですけどね。

投稿: Buckeye | 2009年11月11日 (水) 19時01分

intravenous(ly)は、場合によっては注射としてよい場合もあるはずですが、頭を使って内容に即して判断すべき事項なのだと思います。

おとなしい訳(もっとも逐語的に処理してみた訳)は、↓あたりなのだと思いますが、プロアシスト訳は、中身を考えずに、「注射」を入れて限定してしまったのと、投与経路のはなしなのに、「方法」としてしまったので、日本語を見た瞬間に、アレレ訳になってしまったのだと思います。

このケースに関する限り(他は見ていない)、訳文の質の問題とは別に、ツール非利用のケースや置換のみ利用のケースより、相当時間と手間がかかりそうです。

Diazepam can be administered orally, intravenously, intramuscularly, or as a suppository.
ジアゼパムは、経口、静脈内、筋肉内投与を行うことも、座薬として投与することも可能です。

投稿: Sakino | 2009年11月11日 (水) 19時23分

ここに連動して、Buckeyeさんが「総合評価」を加えておられる部分も変わるんじゃんと思ったわけです。で、そっちに書き込みをして、ふと不安になりました。

私、日本語しか読んでないじゃん→でもって、上に書いた部分は、アレレ訳だったので、気付いたけど、1文目と2文目の原文を見てない!

うぅん、臨床方面の翻訳は仕事じゃないし……という思いはあったのですが、原文を一応見ました。

がぁぁぁん。「symptoms of acute alcohol or opiate withdrawal」って、アルコールやオピオイドを急にやめたときにでる症状のことじゃないんでしょうか。訳はともかくとして、意味としては、「アルコールやオピオイドの急な離脱時の症状」みたいな??? opiateは、アヘン剤等の方でもよいのかもしれませんが。

投稿: Sakino | 2009年11月12日 (木) 01時02分

あ、やっぱり気づきました?(^^;)

実は私も、昨日、ブログをアップしたあとフォーマットの乱れなどをチェックするため全体を読んでいたとき、「急性の禁断症状ってちょっと不安」と思い、ぱらっと調べて気づきました。翻訳的には"acute withdrawal"と「急性離脱」が対応するって形のようですね。間に挿入されてる部分をなくして訳語チェックするというのは念のためにやる手順なので、原文から訳していたら、たいがい気づいたはずですけど今回は手順が大きく異なることもあり、最初の時点では気づけませんでした。

一般向けに「急性離脱」は分かりにくいと考え、一般的な用語でそれなりのところまで持ってゆこうと思うなら、「急にやめた際の禁断症状」みたいな感じかなぁ。ただ、追記するならそれでホントにいいのかなど、チェックすべき点がいろいろとあるはずで、でも、そのあたりの時間がとれなくてほっぽってしまいました。

今回の訳文チェックは各分野とも突っ込みどころ満載で、きちんと読み込んだらまだまだいろいろたくさん出てくる可能性が高いと思います。ただそこまで時間をかけるわけにもいかないので、いずれも、「訳文を読んで変だと思う点を確認」という手順で終わりにしてしまいました。文脈についても、ホントにそうか? と思ったところだけ原文を拾い読みして文脈を確認という程度にしかチェックしていません。それでも、ずいぶん長期間(週単位^^;)、ブログ書きに費やせる時間をこっちにふり向けないと書き終わらないくらいポイントが続出しましたから。

投稿: Buckeye | 2009年11月12日 (木) 05時00分

ああそうだ。一応、申し添えておきますと、山本ゆうじさんにとっても、この分野は思いっきり専門外のはずです。だから、訳がよくないのは、ある程度仕方がないという言い方はできます。

ただ、そのように勘が働きにくい分野が絡んだとき、通常の翻訳方法なら自動的にスローダウンしていろいろと調べるほうに移行するわけですが、機械翻訳ソフトを使っているとそういう機構が働かないだろうと思います。今回の訳文評価では、彼の専門であるはずの分野も突っ込みどころ満載でしたが、それでも、単語レベルでおかしいというのはあまりなく、分野違いで自動スローダウンが働く・働かないの影響がかなり出ている感じはします。

現実の仕事では、基本的に自分の専門についての文書であっても、ごく一部、他分野の話が混じることは珍しくないし、そういうところをどう処理するのかがプロとして腕の見せ所なわけです。アマチュアでも、自分がよく知る分野なら上手に訳せたりしますからね。

そんなこんなを考えあわせると、やはり、機械翻訳ソフトをツールとして使えば実力の涵養なんてとても無理だろうと思ってしまいます。

投稿: Buckeye | 2009年11月12日 (木) 06時34分

入力の省略だけなら、音声入力という手もあるわけで、これがなかなかうまくいかないので困るわけですが……。日本語の音声入力がもう少し何とかなってくれれば、この程度(この3つの文)の文章なら、音声入力するのがいちばん楽なような気がします。つまり、結構な部分、通訳みたいな処理が可能な文章だと思うので。機械化の共同作業は、そっちの方向に進むといいなぁ、と思ったりします。考えながら、とつとつと声にしていくには、今の音声入力は、まだまだなので。

投稿: Sakino | 2009年11月12日 (木) 10時22分

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