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2009年11月 9日 (月)

ツール導入でどの程度スピードが上げられるか

先日の「翻訳作業時間モデル」で作業別の時間を分割して考えましたが、このうち、ツールによって簡単にスピードアップできるのは、入力部分と用語確認の一部です。私のSimplyTermsと秀丸マクロはそういう考え方をベースにしています。

機械的にできる部分を自動化するので、もともとの翻訳スピードが速くても遅くてもある程度の効果は得られます。ただし、翻訳が遅い人の場合はツールでスピードアップしても全体では感じられるほどの変化が得られない可能性があります。ベースとなる数字が小さいため、絶対値ではあまり違いが出ないのです。

それよりなにより、翻訳の力が大きく不足している人の場合は、下手にこういうツールを導入せず、原文・訳文とじっくり向き合ってよく考えるというトレーニングを積むべきだと思います。もちろん、そういう人も、辞書引きなど副作用がないツールはどんどん導入すべきです。

仮に、用語確認と入力が30%も短時間で終わるようになったとしましょう。「とても遅い人」の場合、これで浮く時間は9分。この9分だけ、読む、用語確認、考える、入力が余分に行えるわけです。要するに、余分にできる翻訳量は(↓)だけ。全体的なスピードアップは18%です。

100ワード/時×9/(60-9)=18ワード/時

割合としてはたしかに18%アップですが、絶対値では1時間に18ワード、1日でも100ワード強しか違いが出ません。このくらいの違いは、案件と自分との相性がよいか悪いかによる違いに吸収されてしまって、ツールによる違いを感じることは難しいと思います。

ちなみにこれが速い人になると……用語確認と入力、35分が30%短縮されると10.5分浮きます。その結果、計算では21%スピードアップして、400ワード/時が485ワード/時になります。1日あたりの処理量で600ワード前後も増えるため、違いを感じることができるでしょう。

では、こういうツールを導入すると、どのくらいスピードが上がるのでしょうか

そこそこ条件がよさそうな「速い人」をベースに、用語確認と入力の短縮率と総合的なスピードアップを計算してみましょう。

「用語確認・入力」時間の短縮率と総合的なスピードアップの関係

「用語確認・入力」時間の短縮率 総合的なスピードアップ
20% 13%
40% 30%
60% 53%
80% 88%

実際には用語確認や入力の間も考えているわけで、その分を考慮に入れるとスピードアップの実効値はもう少し下がるでしょう。また、用語確認と入力の時間を80%も短縮するのは非現実的で、総合的なスピードの上昇は、ベストな条件でも30~40%に留まるものと思われます。

これに対し、毎日、翻訳の仕事をしていて、通常の倍以上のスピードが出たと感じることがあります。そういうとき、1時間あたりの処理量は、たしかにノーマルの倍以上になっています。

でも、こういうときに比較すべき相手は、「同一の原文をツールなしで翻訳したときのスピード」です。ツールを使って通常の倍以上のスピードが出たような案件はツボにはまった案件で(考える必要がほとんどない案件)、ツールなしでもいつものツールありと同じくらいのスピードが出そうなものだったりします。つまり、ツールによるスピードアップは実質、30~40%くらいであり、それ以上は錯覚と言うべきものなのだと思います。

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コメント

「こんな作業に手をとられるのはイヤ」と思う部分が減ると、集中力を貯金できるので、ベースのスピードがあがる^^;、というのが当方の場合の最大の成果でしょうか。

置換のきかない仕事は徹底的にきかないわけですが、置換できる部分が出てきたときにはそれも使えるというのも、安心です。

投稿: Sakino | 2009年11月10日 (火) 15時55分

「集中力の貯金」は実感としてよく理解できます。いつも同じ密度で作業しているわけでなく、力の出し方には濃淡がある。翻訳量を時間に換算するとき、たぶん、(潜在的な)品質の尺度として限りある集中力も考慮せねばならんということですね。集中とは短時間に多くのことを考えることで、それを邪魔するツールもどきがある。無論、Tradosなど問題外なのに、Tradosでそこそこ品質を出すと公言する人もいて、不思議だなと思います。

投稿: Euascomycetes | 2009年11月10日 (火) 18時42分

ツール(SimplyTerms+翻訳メモリ)の力をまざまざと感じるのは、自分が整備した専門用語集やメモリ情報が大活躍するような得意分野の、しかも慣れ親しんだ種類の文書の和訳です。

独立直後は用語集も赤ちゃん状態だったし、SimplyTermsも翻訳メモリも使っておらず、EXCEL用語集とWORDの検索・置換を使う力戦模様でした。

その頃と現在を比較すると、1日の作業量は巡航速度で2~3割、ピーク速度は5割ほど増加したように思います。(とりあえず、3割アップと考える)

別の要因としては、独立直後の無我夢中さがやや減退してきたことと、(今年は特に)仕事が減ったことから、現在は仕事に集中する時間(平均値)が2割ぐらい減っているような気がします。

したがって、作業に集中しているときに注目した翻訳作業量は、独立して約4年のうちにほぼ6割(×1.3÷0.8より)アップしたと思っているのですが、そのうち、ツールによるアップ分と慣れによるアップ分(読解+訳文構成+推敲)を半々とすると、それぞれ2~3割アップという効果なのかな~~と思っています。

情緒的な考察ですが、参考までに。

投稿: あきーら | 2009年11月11日 (水) 00時26分

「集中力の貯金」というのはいい表現かも。なんでこんなことをと思うような手が主体の作業が多いと集中力が切れてしまうし。あきーらさんの「力戦模様」の力業部分はマシンにやってもらうのが労力という意味でも精神力という意味でもいいんですよね。

ツールの効果、あきーらさんの実感もそんなところですか。私も、同一条件で比較すればそんなところだろうなぁというのが実感です。

SimplyTermsも翻訳メモリも蓄積がなければ限りなく素の状態に近づくので、抗力を発揮しないんですよね。ただ、だからこそ、悪影響も小さいわけで。目に見える作業環境の影響というものも無視できないので、私はやはり、翻訳メモリに対して懐疑的になってしまいますが。

投稿: Buckeye | 2009年11月11日 (水) 08時49分

「翻訳メモリに対して懐疑的」に対して、直対応^^;

「翻訳メモリ」っていう用語が悪いんですよ。2つの意味があるのに、それが全然反映されていない。

一つは、自分が手がけたものだったら、「そのときに何を考えたか」を再現できる手がかりになる。実は、それは人が手がけたものでも同じで、あぁ、こう考えて、こうしたのだな、と類推する手がかりになる。

もう一つは、コピペ&手直し対象という入力の手間をへらす効果。これも、それはそれでありがたいものです。

ということで2つしか挙げなかったのですが、メリットはこの2つに尽きているからです。懐疑的になる必要はまったくないはずです。

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そうでない目的外使用が行われている、そうせざるを得ないセッティングになっているというのが、「懐疑的」とならざるをえない、ほんとうのところの理由なのですよね。

それって、「翻訳メモリ」のせいではなく、もっと手前の問題のような気がします。

投稿: Sakino | 2009年11月11日 (水) 11時43分

「そうでない目的外使用が行われている、そうせざるを得ないセッティングになっている」というのが一番で、その部分についてはSakinoさんが言われるとおり、翻訳メモリのせいではなく、もっと手前の問題なんだと思います。

ただ、それだけではなく、二番目の問題があると思います。翻訳メモリというアプリケーションが「過去訳を引っぱってくる」を第一義に開発された結果、その多くが、文脈を見えづらくするインターフェースを持つに至ってしまった、かつ、今後、翻訳者からの要望でそこが改善される可能性は低いという点です。

投稿: Buckeye | 2009年11月11日 (水) 12時09分

同意します。

投稿: Sakino | 2009年11月11日 (水) 12時56分

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