JTF翻訳祭2009-「今こそ、脱皮のとき!」
2009年11月20日(金)、社団法人日本翻訳連盟(JTF)が東京で恒例の翻訳祭を開催しました。今年のテーマは「今こそ、脱皮のとき! ~世界同時不況から一年、翻訳業界の進むべき道~」でした。
私は今回、講演者の一人であったことから客観的な評価が難しいのですが、友人の翻訳者たちの意見などを参考に総括すると(↓)のようになりそうです。
ソースクライアントと翻訳者は壇上にあがった全員が自ら(同業者)について問題や提案を出すなど危機意識が感じられる人ばかりであったのに対し、翻訳会社についてはどう自己変革していくべきかという視点が見えず、翻訳会社の危機意識のなさ、変革する意思のなさが際立ったと言えます。危機意識は、「翻訳者>ソースクライアント>>翻訳会社」という感じでしょう。
●私の講演
JTFの理事をしているので毎年、出席しているのですが、今年は有料セッションの講演2で1時間しゃべってきました。演題は、全体テーマに合わせて(↓)です。
「翻訳市場の変化と翻訳会社・翻訳者が直面している課題」
このところのいろいろと厳しい状況を踏まえ、今後、どうしてゆくべきかを私なりに考えてまとめてみました……と書くと簡単ですが、このテーマでなにをどうまとめたらいいのか、正直、かなり苦しみました。金曜日に話すというのに月曜日の時点ではまだ骨組みさえも固まらない状態で。明るい未来は正直描けないし、描くべきときでもない。かといってお先真っ暗な話をしても仕方がない。でも、このままではお先真っ暗だよというのは、危機意識として業界関係者全員に持って欲しい。その上で、苦しい中で何をどう改善すべきなのかの提案をすべきだと思ったので。
ポイントとしては(↓)あたりの話をしました。
翻訳者はとにかく力不足。我々が翻訳というものを支えているのだから、支えられるだけの力をつけなければならない。
翻訳会社は、ソースクライアントと翻訳者、両方にもっと目配りをすべき。特に対翻訳者において、口では品質が欲しいと言いながら料金体系その他は質より量で稼いでくれと言っている状況をなんとかすべき。特にここしばらくの単価低下の結果、駆け出しからスピードを上げなければ食べられなくない状況が生まれており、このままでは駆け出しがじっくり考えて力をつけてゆく道を歩かなくなる。これから10年、20年、今の翻訳者だけでなんとかするのか、今の翻訳者が引退してゆく中で新人が育たなくていいのか。10年後、20年後、まともに翻訳ができる翻訳者がいなくなってもいいのか。そのあたりも含め、翻訳の現場を認識した上で、ソースクライアントのニーズを汲み、案件と翻訳者とのマッチングを行うことが必要。
ソースクライアントも、一定以上の品質の案件を安価に手にしたいなら、自ら動く必要がある。
●最初の講演
私の前にオラクルの中村和幸さんによる「翻訳会社・翻訳者に今一番求めるもの」という講演がありました。
自社の話が中心でしたが、ソースクライアントとしても危機意識を持っていろいろと動かなければならないとして、さまざまなアイデアや他社の取り組みなどもまとめておられました。私が「ソースクライアントにもこういうことを求めたい」とした部分とかなりだぶっており、ああやはり、危機意識を持てば同じようなことを考えるのだなと思いました。
●パネルディスカッション
パネルの構成は(↓)。
- ソースクライアント:2人
- 翻訳会社:2人+1人(パネルの司会なので自らの意見を言う立場ではない)
- 翻訳者:1人
JTFが行った小規模アンケートやそこそこの人数のソースクライアントに対して行われたアンケートの結果などを交え、多角的に検討するという形式。多角的であることの良さがある半面、どうしても表層的になりがちなのは仕方がないでしょう。
その中で、ソースクライアントにおいていろいろと行われている取り組みについての話や、翻訳者から翻訳者仲間を含む翻訳業界への提言など、何点か聞くべきところがあったと思います。いずれも、その基点には「何がしたいのか」「何をなすべきか」があったと思います。
それに対し、翻訳会社からは現状についての話やソースクライアントからの要望にどう対応するかという話など、対症療法的なことしかでてきません。翻訳祭の直前、友人の翻訳者から出された「翻訳会社は何を実現したいのか」という疑問を講演でも出しておいたのですが、それに対するコメントもありませんでした。
●懇親会
今年の懇親会は……きつかったなぁ。壇上にあがると飲み食いしているヒマがなくなるのはよくあることなので最初にががっとお腹に溜まりそうなものをかき込んで最低限のエネルギーは入れておきました。問題は、今回、飲み物を配って歩く人がいなかったため、飲み物が乾杯のビール1杯だけになってしまったこと。お酒に強ければそのへんのテーブルにあるビールを飲めばいいけど、私はそんなに飲めないので、最初の1杯からあとはノンアルコールに移るので……。懇親会から2次会へ移動するとき、最初にしたことが自販機でお茶を買ってがぁ~っと飲むこと(^^;)
それはさておき。
懇親会で思ったのは、ああやはり、翻訳者は限界が近づいているんだなぁということでした。もう限界だよって話を講演でしたわけですが、いろいろな翻訳者から、「よく言ってくれた」「まったくそのとおり」といった言葉をかけられました。もちろん、「あいつ、何言ってるんだ」と思う人は声なんかかけてこないわけですけどね。でも、そういう実感を持つ翻訳者がたくさんいるというのは、推測が正しかったということなのでしょう。私の推測が間違っていればそれが一番だったとは思いますけど。
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コメント
さきほど、参加者アンケートが事務局から送られてきました。
それを見ると、翻訳会社の人も含め、訴えたかったポイントはかなり伝わったようです。今回は自分でもびっくりするぐらい話を作るのに苦労してしまったのですが、そのかいはあったと言えるようです。
投稿: Buckeye | 2009年11月24日 (火) 21時38分