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2009年7月13日 (月)

『<不良>のための文章術』『インタビュー術!』

まいったというかなんというか……そのくらいいい。プロライターになりたいと思う人たち向けの本だが、翻訳者も必読だ。

翻訳関係で知り合ったのだが今はライター・編集者系の仕事が多い友人が別の友人に勧めていたので私も何気なく買って読んだ本だ。正直な話、まったく期待せずに読んだのだが、いい意味で期待を裏切られてしまった。

ここしばらく翻訳学校で教えているが、クラスでは、「まず枠組みを把握しろ」とくり返している。私が言う「枠組み」とは、「誰が誰に何をどのように伝えようとしているのか」だ。

この枠組みがどういうもので何をどう把握すればいいのかは、ケースバイケースで大きく変化する。そのため説明が断片的になりがちで困っていた。でも、この2冊を読んで思った。「プロレベルで仕事をしている人ならこの2冊を読めばわかるはず。逆にこの2冊を読んで分からない人には説明しても分からない」と。

我々は翻訳者。原著者が書いていないことを勝手に書くわけにはいかない。でも、この本に書かれていることくらいは自分のものにしておく必要がある。なぜか。原著者がなぜ、その言葉、その文をそこに置いたのかが理解できなければいい翻訳はできないからだ。

ごく簡単な例を挙げよう。「英語で読む日経サイエンス」から以下の記事だ。

The Dawn of Miniature Green Lasers
「緑色レーザーの夜明け」

この第二段落に以下の一文がある。

"Shuji had just arrived and was standing there in his leather jacket asking questions," he recalled.

「シュウジはちょうど着いたばかりで,革ジャンを着てそこに立ち,研究メンバーに質問しているところだった」とヤンは回想する。

間違っているとは言われないレベルの訳だが、いい訳ではないと思う。原著者はなぜ、"standing there in his leather jacket"という部分を入れたのだろう。1月のことで外は寒い。ほかの建物からくればジャケットくらい着てくるのが当たり前。当たり前のことなど書いても仕方がない。それをあえて書いたのは、暖かい室内に入ったのにジャケットを脱ぐのも忘れて質問をしている、あるいは脱ぐ時間がもったいないとばかりに質問をしている、そういう、ある意味、緊迫した状況を表したいのだろう。であれば、訳文としては、「シュウジは着いたばかりで、革ジャンを着たまま/脱ぎもせず研究メンバーに質問をしていた」などとしたほうがいいのではないだろうか。

紹介する書籍に話を戻そう。

枠組みの把握という意味では『<不良>のための文章術』をまず読んでみるべきだろう。絶版になっているようだが、アマゾンのマーケットプレイスで入手可能だ。

もちろん、原著者みんなが永江氏と同じように考えるわけではない。でも、いろいろと考えて文章を組み立て、かつ、文体を調整しているという意味では同じことをしているはずだ。

英日翻訳においては、読者に応じた文体調整も学ぶべき点があるだろう。「誰が誰に何をどのように伝えようとしているのか」の「どのように」の部分をターゲット言語で再現するには読者に応じた文体調整が不可欠だからだ。なおこの「文体」には単語レベルの話も含まれる。文末だけでなく、どういう訳語を選択するのか、名詞に訳すのか動詞に訳すのかなども調整する必要があるのだ。本書を読めば、これが翻訳にかぎったテクニックではないことが分かるはずだ。

上記がもし「翻訳にかぎったテクニック」なのであれば、それは「不自然な日本語」であり、「間違った翻訳テクニック」と言うべきものだ。少なくとも私はそう思う。

『インタビュー術!』のほうは、『<不良>のための文章術』からインタビュー関係を抜き出し、インタビューの仕方などを追加した本。『<不良>のための文章術』で枠組みの把握方法を理解していれば、サクっと読めるはずだ。

『インタビュー術!』はインタビューについての本だが、産業翻訳者も読んでおいて損はないと思う。

産業翻訳であっても、プレスリリースやマーケティング資料では誰かの発言が引用されることがある。Q&Aでは、読み上げることが前提となっている原稿もある。講演やセミナーの音声からテープ起こしした原稿が回ってくることもある。もちろん、ノンフィクションの書籍などでは、誰かの言葉が大量に引用されていたりする。さすがに『アップルを創った怪物―もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝』のように全編、語りという形は珍しいが。

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コメント

Buckeyeさん、こんにちは(^^)。
「〈不良〉のための文章術」、昨夜amazonのマーケットプレイスで購入しました!!私が見たときは14点出品されていたのですが、今見るともう6点しかありませんね!!昨夜から今日にかけて、少なくとも8点も売れたということですが、恐らく、買った人のほとんどがこのブログの閲覧者ではないかと(^^;;。すごい影響力ですね(^^)!!

投稿: Aki | 2009年7月14日 (火) 17時29分

はじめまして
面白い記事いつもありがとう。外国人なので分からないところもありますが、分かると参考になります。
翻訳の仕事は難しくても満足が一杯得られるものですね。原著者が言いたかったことを完璧に読者に伝えると人間の知識を広げる清い仕事です。
日経サイエンスのリンクを教えてくれてありがとうございました。その他の英日記事を掲載しているサイトご存知でしたら、良かったら教えてください。

投稿: Alex | 2009年7月25日 (土) 20時08分

すみません、しばらくブログ、ほったらかしでしたm(._.)m

>Akiさん、

いや、たまたまでしょう。ここを読んでいる人もそれほど多くないですし、そんなに影響力があるわけでもないですよ。

>Alexさん、

ブログの内容は英日翻訳が中心、日本語ネイティブ向けですからね。まあ、私自身が日本語ネイティブなので当たり前というか、それしか書けないわけですが。

残念ながら、英日対訳のサイトはあそこくらいしか知りません。日経サイエンスもたまたま見つけただけで、そういうサイトを探しているわけではないものですから。

投稿: Buckeye | 2009年8月11日 (火) 16時00分

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