昔書いた機械翻訳の記事について
メルマガ原稿として書き、ボツにした部分があったのですが、ボツはやっぱりもったいないかとブログネタにすることにしました。もちろん、ブログネタにするにあたり、加筆してあります。
ちなみに、そのときのメルマガの記事はこちら(↓)
「情報提供者による情報の違いを見抜く」
もう10年近くも前になりますが、とある雑誌から翻訳支援ソフトの評価記事を頼まれたことがあります。といっても翻訳メモリはTradosしか販売されていなかった時代なので、Tradosのみ。評価記事は機械翻訳ソフト中心になりました。
数種類の機械翻訳ソフトを提供してもらい、それぞれにとある企業の用語、14000セットほどを登録。その企業のニューズレターから取った原文をソフトで処理し、機械翻訳で出てきた訳文の品質を一定の方法で定量的に評価しました。結果が一番よかったソフトは他のソフトの60~70%増しもの点数となりました。もちろん、このソフトはそれなりだけどほかはよくないと書きたいのですが……それは評価が悪い製品の広告に差し支えるので書けません。なんといっても、もとが広告連動企画なのですから。仕方がないので、基本辞書のみを使ったときを100点とし、「基本辞書+専門辞書」、「基本辞書+専門辞書+ユーザ辞書」、「基本辞書+ユーザ辞書」と辞書を変えたときに品質がどう変化するかだけを書くことにしました。
最終的に納品できるレベルまで仕上げるのに要した時間も計りました。エディタだけを使って用語集を検索しながら翻訳して仕上げるのに要する時間と自作ツールを使っての時間も計ってみました。結果は、検索しながら翻訳という一番原始的な方法で機械翻訳ソフトと同等となりました。もろちん、自作ツールを使ったほうが速いわけです。
まあ、それがいいと思って続けている方法だし手慣れているのだから当たり前だと言えば当たり前の結果です。ただし、そのあたりを割り引くため、実は最初にエディタだけで検索しながら翻訳という方法の時間を計っています。一から訳文を作ったときの時間と、すでに訳したことのある文章を機械翻訳ソフトにかけ、その訳文を修正する時間を比較したわけです。一応、少しでも忘れるように、毎回、3日ほど間をあけてありますが、それでも、計測条件は圧倒的に機械翻訳ソフトが有利。それでもはっきりと違うのです。
とは言いながら、この記事、機械翻訳ソフトなんか使わない方がいいとは書けないわけです。かといって翻訳者という自分の立場からして完全に無視することもできず、検索しながら翻訳との比較だけを書くことにしました。ちなみにこの記事、広告主の事前チェックが入り、検索しながら翻訳と同等の時間がかかるという部分にクレームがつきました。もっと速くできるケースのデータは伏せたのだからと押し切ってしまいましたが(雑誌の広告営業担当者さん、ごめんなさい)。
なお、結論ではメリット・デメリットを並記し、導入するのなら、デメリットに注意しつつメリットを活用するべきとしました。まさか「使わない方がいい」とは書けませんからね。
さて、上記の機械翻訳ソフトについての話、書いているのは私。機械翻訳ソフトを翻訳者が使うのは品質低下と実力低下を招くと反対する立場を取る人物です。だから機械翻訳ソフトについてよいことを書くわけがないと割り引いて読む必要があるのかもしれません。あるいは、いろいろと試してみたから「機械翻訳ソフトを翻訳者が使うのは品質低下と実力低下を招く」と反対するようになったのだろうと読むこともできます。どちらでしょうね。
| 固定リンク
「翻訳-ツール」カテゴリの記事
- 翻訳者視点で機械翻訳を語る会(2019.01.23)
- アルク『翻訳事典2019-2020』(2019.01.31)
- 翻訳メモリー環境を利用している側からの考察について(2018.05.09)
- 機械翻訳+PE vs. 人間翻訳(2017.02.24)
- 翻訳者が持つ最大のツールは「自分の頭」(2017.02.02)
「翻訳-業界」カテゴリの記事
- 私が日本翻訳連盟の会員になっている訳(2019.02.27)
- 河野弘毅さんの「機械翻訳の時代に活躍できる人材になるために」について(2019.02.22)
- 産業系の新規開拓で訳書は武器になるのか(2019.02.21)
- 『道を拓く』(通訳翻訳ジャーナル特別寄稿)(2019.02.15)
- 翻訳者視点で機械翻訳を語る会(2019.01.23)
コメント