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2009年2月 6日 (金)

トライアル

我々翻訳者が翻訳会社と取引を始める場合、最初にトライアルとして短い文章を訳して提出するのが普通です。だいたいは翻訳会社のほうで課題を用意していますが、適宜、訳したものの原文と訳文を提出してくれと言われることもあります。

■トライアルの目的

基本的に「翻訳者の実力を確認する」です。実力の確認もなしにいきなり仕事をやってもらったらボロボロだった……では、発注したほうはたまったものではありません。事前確認したいと考えるのが当然でしょう。つまり、「一種の試験」であり翻訳者としては「実力が試されている」という感覚になります。結果を合格・不合格と表現することが多いのも、そのあたりの感覚が双方にあるからでしょう。

私は、トライアル(およびそれにまつわるやりとり)には翻訳者の実力確認以上の役割があると考えています。

まず、この翻訳会社と付きあうべきか否か、それを翻訳者が判断するチャンスとなる点があげられます。トライアルにいたるやりとりやトライアルの処理などを見ていると、そこと自分との相性がいいのか悪いのかがぼんやりとですがわかったりするものです。

仕事という側面では、レート決定の基礎データとなる点が大きいでしょう。トライアルに合格したらレートをはじめとする各種の取引条件を詰めることになりますが、その際、こちらの実力を把握しておいてもらわないと条件交渉がやりにくくなります。翻訳のレートは品質との見合いで高い・安いが決まるわけですから。我々翻訳者としては、少しでも高く買ってもらいたいわけですが、買う側としては品質と見合う額を最高としてなるべく安く買いたいわけです。品質がわからなければ……買う側としてはとにかく安く抑えておくしかなくなってしまいます。翻訳者側から見れば、高く買ってもらいたければトライアルで実力を確認してもらうのが先決というわけです。

■トライアルの訳し方

トライアルの目的を考えれば、この案件が仕事として来たときと同じ訳し方をしておくのが一番いいと私は考えていますし、実際私はトライアルでもふだんと同じように処理してお終いにします。しかし、この考えはどちらかというと少数派のようです。

一般には、ふだんの仕事よりも時間をかけて丁寧に訳し、よくよく見直してから提出する人が多いようです。まずはトライアルを通らないとどうにもならないので、このくらいしてしまうのは人として当然かなと思います。

極端なケースでは、トライアルを突破することが第一義として他の人に訳してもらう人もいると聞いていますし、仲間内でいろいろと検討して訳文を作ることにしている翻訳者のグループがあると聞いたこともあります。これはもう、あきらかなズルで言語道断だと思いますし、そのようなことをしてもデメリットこそあれメリットはないように思います。

「フリーランス翻訳者として行う仕事」は、一つひとつがトライアルです。いい仕事をすれば指名でリピートオーダーが来るなど後につながるし、やっつけなど仕事内容がよくなければ仕事が減ったり切られたりします。そう考えれば、他人の力を借りて「トライアル」だけを突破しても意味がないことが分かります。その力を毎回の仕事で必ず借りられるのであればそれはそれでアリですが、そんなことはまずありませんから(配偶者がターゲット言語のネイティブで必ずチェックしてくれるのなら、トライアルもそのパターンでやってかまわないでしょう)。

トライアルと本番の仕事でデキが大きく違う場合、単純に切られるだけではすまないおそれがあります。トライアルを課す側の立場にたって考えてみましょう。トライアルはすばらしいできなのに本番の仕事はそこそこ、あるいは箸にも棒にもかからないほどひどかったら、どう思うでしょうか。トライアルでズルをしたか本番で手を抜いているか、どっちかだと思うのではないでしょうか。いずれにせよ、自分の信用を落とすことになります。会社という看板を持たないフリーランスにとって、一番、やってはならないことです。

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