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2009年2月

2009年2月28日 (土)

機械翻訳に関する天動説と地動説、そして解釈学的循環

訳語も訳文も、文脈に置いて初めて意味があるし、文脈がなければ単語も文も訳しようがない……私は、文脈至上主義とでもいうべきこんな考え方を基本としています。だから、文脈からずれた訳語を提示してきたりする機械翻訳は、翻訳支援のツールとして使うと足を引っぱられると思うわけであり、このブログの過去のエントリー、『翻訳ツール-パソコンと人間の分担』でも、考える必要がない機械的な操作はパソコンに担当させたほうがいいが、考える部分は人間が担当しなければならないと言っているわけです。

このあたりについて、なかなかによくまとめられた記事があります。もう15年も前に書かれたものですが、内容としてはまったく古くなっていません(というか、古くなりようがないと思います)。

機械翻訳に関する天動説と地動説

そして、最近、もっと上手にまとめられた記事が出ました。

岩坂彰の部屋 第11回『ヘルメスの覚悟』

テキストの一部を理解するには全体を理解していなければならないし、テキストの全体を理解するには部分を理解していかなければならない

原文中に知らない単語が出てきたら、とりあえず辞書で意味を調べます。いくつかの意味の中で、文脈に合うもの(つまり全体の趣旨に即したもの)を選び出したり、そのような表現を考え出したりします。しかし、その単語の意味を知らない段階で考えていた全体の趣旨というのはあくまで暫定的なものであって、この単語の意味を理解の中に溶かし込んだ段階で、全体の趣旨をさらに明確に把握できるようになります。私たちがテキストを解釈していくのは、このような循環的な作業の繰り返しです。

そうそう、そうなんです、「循環的な作業」なんです。リカーシブでぐるぐるとループが回るイメージ。そうやって無限に回転させると、全体も部分も変化しなくなる。そうなれば「全体の翻訳が完成」。現実に無限回ループさせるのは不可能なので、変化が小さくなったら完成ってことにするわけですが。

岩坂さんの連載、実は少し前に書かれていることを知ったんですが、どれもよくまとまっています。私のような理系人間とは異なり哲学系の方だからか、もやもやしてうまく説明できなかったところをスパっと説明されていたりします。

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2009年2月26日 (木)

言語の運用能力???

今回は半分冗談みたいなエントリーなので、その程度のつもりで読んでくださいm(_ _)m

『近所が自転車盗まれたても、相当離れてるけどジュース置いたら逮捕w』
『モスバーガーのきれいな食い方教えれ』

友人のところで紹介されていて知ったものですが、いずれも2ちゃんねるのスレッドをまとめたものらしいです。いわゆる「釣り」であってわざとかもしれないなぁとは思いますが……なんともすさまじい破壊力。ヒトゴトとして読んでいる限りは、これはもう、大笑いしてお終いなんですが、なんというか、こっち方面に多少なりとも寄ってる人の原稿を訳した経験があったりもするので、こんな人の原稿にあたったらどうしようとか思うとちょっと背筋が寒くなったりも。

アレコレ内容を確認して、「つまり、要約すると~ということか?」と聞いたら、「そのとおり。そう、原稿に書いたつもりなんだが」と返ってきたことがあります(--;)

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2009年2月25日 (水)

JTF西日本セミナー

先週の金曜日(2009年2月20日)、JTFの西日本セミナーで講師役を務めてきました。西日本セミナーはこのところほぼ年に1回のペースで行っており、最初のころは一人で仕事をしていくための心構えやビジネスの進め方、ツールの使い方など、私が昔っから得意にしてきた領域の話をしていました。でも、3回も話をするとさすがにネタ切れ。というわけで、前回と今回は、私としては苦手な話、つまり、どう訳すかという部分の話をしています。

やり方は、課題を出しておき、出せる人には訳文を出してもらって、それを元に「何をどう考えるべきか」などの話をするというもの。

今回、課題として選んだのは(↓)のふたつ(もちろん全文ではなく一部のみ)。

  1. Technical Criteria for the Destruction of Stockpiled Persistent Organic Pollutants
  2. A New Park for Osaka: Jerde-Designed Namba Parks Opens Today; Fifth Jerde-Designed Project to Open in Japan Within a Year.

課題1は産業翻訳でよく出会うパターンで、基本的に原文に沿って訳していけばいいもの。どこまで原文に沿えるかが勝負の案件とも言えます。

課題2はそのまま訳したのでは日本語にならず、文書の目的が果たせない訳文になってしまいます。こちらは、何が言いたいのか、原文を書いた人の想いを把握し、その想いが伝わるように訳文を組み立てることが求められるわけです。そのためには、原文の構造から思い切って離れること「も」必要になります。

参加者35名ほどで訳文を提出してくださった方が25名弱。

訳文提出率が高いというのは、積極的に参加しようという意欲が高いことを示していると思います。セミナー時も、話の途中でたくさんの質問が出ました。「疑問に思ったことがあったら、途中でもどんどん質問してください」と最初に話してあっても、日本だと質問が出ることは少ないし、私も今回ほどいろいろ反応があったのは初めてでした。特に「こういうケースもあるんじゃないですか?」といった質問を何度もしてくださった方、ありがとうございました。ホントはカバーすべきなのに抜けてしまっていた部分にも、おかげさまで触れることができました。

セミナー終了後、参加者からの感想なども事務局経由でいただきました。ほとんどの方には「得るところがあった」と思っていただけたようで安心しました。またあったら参加したいと言ってくださった方も多いので、たぶん、来年度も西日本セミナーへ出かけていくことになるでしょう。

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2009年2月22日 (日)

トライアルに関する質問

先日のエントリー、「トライアル」で以下のように書きました。

極端なケースでは、トライアルを突破することが第一義として他の人に訳してもらう人もいると聞いていますし、仲間内でいろいろと検討して訳文を作ることにしている翻訳者のグループがあると聞いたこともあります。これはもう、あきらかなズルで言語道断だと思いますし、そのようなことをしてもデメリットこそあれメリットはないように思います。

ここまで極端であればまずいのは明らかですが、では、トライアルについて原文の意味、訳し方などを翻訳者のオンラインコミュニティなどで質問するのはどうでしょうか。この点についてよく見かける考え方は、以下のようなものです。

  1. 翻訳者のオンラインコミュニティは、実際の仕事で疑問に思ったことについて質疑が行われている。トライアルは基本的に「その翻訳者がどの程度の品質で本番の仕事をあげてくれるのかを見るためもの」なのだから、本番で得られる助力であればトライアルでも得て構わない。
  2. トライアルは仕事ではなく、むしろ試験に近いのだから他人の力を借りるのはよくない。よって質問はダメ。
  3. 試験の一種なので答案を作るまでは質問してはいけないが、合否に影響が出ないトライアル提出後であれば構わない。

このようにさまざまな考え方があるため、翻訳者のオンラインコミュニティにおける管理者の対応もサイトごとにまちまちとなっています。

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2009年2月17日 (火)

紹介とトライアル

前のエントリー、「経験年数とトライアル」と同じように、紹介においてもトライアルが問題となることがあります。紹介によって実力は保証されているのだからトライアルがあるのはおかしいと考える人がいるのです。

おかしいと考えるだけならまだしもで、経験年数の場合と同じように、メールや電話で怒りを爆発させる人もいると聞いています。

これもまた、私には理解しがたい考え方です。

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2009年2月13日 (金)

経験年数とトライアル

翻訳業界には、ある程度以上の経験を積んだプロにトライアルをさせるのは失礼だという考え方があるようです。翻訳者のコミュニティなどで「経験X年の自分にトライアルをやれとは失礼な会社だ」と憤慨している人を見ることがあります。また、新しい翻訳会社の方から「申し訳ないのですが、当社規定のトライアルを訳していただけませんか」と聞かれることがあるのも、経験が長いプロにトライアルを申し出ると怒られることがあるからでしょう。

この背景には、おそらく、実力は経験が証明しているから改めて「実力を確認する」トライアルは必要がない、であるのにトライアルをさせるのはバカにしているという流れがあるものと思います。

でも実はこの考え方、私にはまったく理解できません。新しいところと取引を始めるときには「なるべくトライアルをお願いします」とこちらから頼むくらいですから。

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2009年2月10日 (火)

『トライアル現場主義』

これからトライアルに挑戦したい、トライアルに挑戦中である、あるいは、トライアルに通ったり落ちたりしていて合格率を上げたいという人にお勧めの本。

プロ翻訳者として一応活動しているが「売れる訳文」とはどういうものであるのかよくわからないという人にも一読をお勧めします。題材がトライアルなのでレベル的には低めになりますが、それでも商品として売れる翻訳の片鱗が見えるはずです。

『トライアル現場主義』

翻訳会社である伝株式会社の近藤さんが書かれた本で、実例が豊富に載っています。近藤さんは2年間、日本翻訳連盟の理事としてご一緒した方なのでそれなりによく知っているのですが、さすが、トライアルの採点を数多くこなしてこられた近藤さんが書いた本っていう感じに仕上がっています。トライアルに関する具体的な話はこの本が言い尽くしているといってもいいくらいで、ここまでまとめられてしまったらこのネタで他の人が書くことはできないなと思うくらいです。

実は『実務翻訳を仕事にする』の改訂版的な本を2010年春をめどに出すプロジェクトが進行中なのですが、この中でも、トライアルに関する具体的な話はこの本を紹介して終わりにしようと考えていたりします。『トライアル現場主義』に書かれていない部分は取りあげますけどね。

ぜひ、絶版にせず出し続けてください>丸善さん

読むときは、課題を自分で訳してから解説部分に進むことをお勧めします。通読するだけでもそれなりに得るものがあるはずですが、自分で訳してみないとわからないことも多いと思いますし、翻訳というのは手を動かさずに身につくものでもないと思いますから。

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2009年2月 6日 (金)

トライアル

我々翻訳者が翻訳会社と取引を始める場合、最初にトライアルとして短い文章を訳して提出するのが普通です。だいたいは翻訳会社のほうで課題を用意していますが、適宜、訳したものの原文と訳文を提出してくれと言われることもあります。

■トライアルの目的

基本的に「翻訳者の実力を確認する」です。実力の確認もなしにいきなり仕事をやってもらったらボロボロだった……では、発注したほうはたまったものではありません。事前確認したいと考えるのが当然でしょう。つまり、「一種の試験」であり翻訳者としては「実力が試されている」という感覚になります。結果を合格・不合格と表現することが多いのも、そのあたりの感覚が双方にあるからでしょう。

私は、トライアル(およびそれにまつわるやりとり)には翻訳者の実力確認以上の役割があると考えています。

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2009年2月 4日 (水)

アルクさん創立40周年

久々の更新でこういうネタもなんですが……アルクさんが創立40周年だそうです。

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