海野さんの辞書
一般にはあまり知られていないかもしれないが、翻訳者仲間で必携とされる有名な辞書がある。『ビジネス技術実用大辞典』、通称「海野さんの辞書」だ。
自らが翻訳者である海野さんご夫婦が丹念に集められた数多くの用例とよく考えられた訳文の対比により、文脈に応じて微妙に変化する単語の意味が浮き彫りにされている。こなれた日本語訳・英語訳を作るためのヒントが満載されており、商品価値の高い訳文を作るためには手放せない一冊だ。
「ヒント」であることに注意。海野さんの辞書といえど、記載されている訳語をそのまま使うべきでないケースが山のようにある。海野さんの辞書のメリットは、一般の辞書とは異なる視点で訳語が考えられているため一般辞書と併用すると訳語の案出・選択の幅が広がる点。「たかが辞書。信じるはバカ。引かぬは大バカ」である。
紙版もありそのほうがかなり安いが、ここはCD-ROM辞書を選ぶべき。パソコンで辞書引きをしたほうが作業効率が格段に高いからだ。ロゴヴィスタ版もあり、そのほうが若干安いが、このくらいの違いならEPWING版を選ぶことをお勧めする。たくさんの辞書をまとめて引いてくれるシェアウェア、DDWINやJammingでの使い勝手がEPWINGのほうが高いからだ。
DDWINはロゴヴィスタに対応しておらず、自分で変換する必要がある。手間がかかる上、検索に若干の不具合が出ることもあるようだ。
Jammingはロゴヴィスタに対応しているが、ロゴヴィスタは製品によって細かな違いがあることがあり、ロゴヴィスタ版『ビジネス技術実用大辞典』に完全対応しているかどうかは不明(私はEPWING版の『ビジネス技術実用大辞典』を使っているので確認できない)。
■余談
先日、日本翻訳連盟の翻訳祭のとき、日外アソシエーツの方とお話ししたのだが……辞書ビジネスはかなりきびしいらしい。辞書の新規作成は言うに及ばず改訂にも膨大な労力がかかるのに、その労力に見合う報酬を払えるほどに辞書が売れないのだという。海野さんの辞書も、今後、改訂してゆけるかどうか不明とのこと。言葉は次々生まれてくるわけで、辞書は改訂が必須だというのに……。
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コメント
はじめまして。
海野さん辞書の改訂については、ご夫妻のサイトをご覧になると良いと思います。
トップページ冒頭に改訂に関する情報が記載されています。
http://www.hi-ho.ne.jp/unnos/unnodict.htm
既にご存知かもしれませんが。
投稿: しんいち | 2008年12月11日 (木) 19時51分
訂正します。
× トップページ冒頭に改訂に関する情報が記載されています。
↓
○ 「ビジネス技術実用英語大辞典」ページの「お知らせ」に改訂に関する情報が記載されています。
投稿: しんいち | 2008年12月11日 (木) 19時59分
しんいちさん、
情報、ありがとうございます。そういえば、ここしばらく、海野さんご夫妻のウェブサイトをのぞいておらず、お知らせが出ていたことは知りませんでした。
こういう地道な作業をしてくれる人がいるから我々は助かるわけで、その作業に見合った報酬が得られる世の中であって欲しいと思うのですが、なかなかに難しいようです。日外アソシエーツの方も、「1億人ちょっとという日本語人口ではよほど売れ筋の辞書でないとなりたたない状況になってしまった」と嘆いておられました。
投稿: Buckeye | 2008年12月11日 (木) 20時02分
今どきだと、辞書ビジネスのひとつの道は電子辞書への搭載だと思うのですが、海野さんの辞書が載っているのは、今のところはセイコーの数製品だけですね。電子辞書でもう少しシェアが広がればいいのですが、世間一般的な辞書の範疇で言うと、わりとニッチな辞書なのかもしれません。
この辞書、内容から考えればもっと価格設定が高くてもいいように思うんですけど、どうでしょう。今の 2 倍しても新版が出たら即買いますけど。
投稿: baldhatter | 2008年12月11日 (木) 22時56分
私も2倍なら即、買いですけど、全体としての売上はどうでしょうね。プロなら買うべきと言っても旧版でがまんしちゃう人も出そうだし、持ってない人は買うのを二の足踏むかもしれないし。
結局、市場というか買う人の人数が問題ですからねぇ。翻訳者だけじゃ支えられないでしょう。なくなると困るんですが……
投稿: Buckeye | 2008年12月17日 (水) 18時02分